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1-6 魔力の在処

「カゴメさん、おはようございます」


 一週間ぶりの定期検査の日。

 今度は玄関先での掛け合いもなく、リリアがソファーに腰掛けている。先週に比べれば、少しだけ緊張も解けているようだ。


 銀色の長い髪は今日も美しく、魔法ギルドの制服姿が彼女の凛とした佇まいを引き立てている。初日のぎこちなさは消え、代わりに初々しさが際立つ。

 一週間ぶりに見る彼女は、相変わらず目を奪われるような可愛らしさだった。


「おいすー。この一週間、バグ退治の報告書で必然的にひきこもりだった……魔法ギルドの書類仕事は現代の役所みたいだよ。」


 机の上には積み上げられた報告書の山。

 一つのバグ退治に対して七枚。戦闘詳細に一枚、使用魔力量の報告に一枚、結界への影響報告に一枚、周辺環境の変化記録に一枚、消費リソースの記録に一枚、事後処理の確認に一枚、そして最後に総括レポート。

 それぞれ三部コピーが必要で、全て手書き。

 異世界らしからぬ面倒くささだ。用紙の端には魔力測定用の魔法陣が刻印されており、インクの使い方まで細かく指定されている。


「これ、全部手書きなんですか?」


 リリアが報告書を覗き込む。彼女の目が魔法陣に釘付けになる。


「この魔法陣、ヘレン先生が開発したものですよね。魔力の残量を正確に記録できる特殊な……」


「へぇ、詳しいね」


「はい。魔法陣の知識はアカデミアでは必修科目でした。でも、実物を見るのは初めてです」


 リリアの瞳が好奇心に輝く。魔法使いらしい反応だ。


「にゃ! そんな退屈な書類の話より、わらわの特製ブレンドティーを召し上がれ!」


 天井から銀色の影が舞い降りる。

 ニャビィは得意げに二又の尻尾を揺らしながら、テーブルの上に優雅に着地した。その頭上には銀のトレイが浮いている。


「今日は特別なブレンドでありますよ。大陸南部の紅茶葉に、北方で採れる魔法の実のエキスを数滴。これぞ、わらわ秘伝の一品!」


「この魔法の実って、確か高価なんじゃ……」


「ご主人様の給料から天引きでありますっ!」


「おい」


 リリアが小さく笑みを浮かべる。


「このお茶はちょっとだけ魔力を活性化させる効果もあるのであります!」


 その言葉に、リリアの表情が曇る。


「あ、あの……魔力の活性化って、大丈夫なんでしょうか」


 リリアの台詞に疑問が残る。


「ん? リリアが心配することか? 魔法ギルドの優秀な魔法使いなんだろ?」


「そ、それが……私、成績はビリなんです」


 俯きながら、リリアは続ける。


「魔力は人一倍あるって言われるのに、うまくコントロールできなくて。授業でも、よく失敗して……」


 カップを握る手が震えている。


「普通の魔法使いみたいに、魔力を型に収められないんです。暴走して、周りに迷惑をかけてばかりで」


「型?」


「はい。魔法には決まった型があって、魔力をその型に流し込むことで、安定した魔法が使えるんです。でも私の場合……」


 言葉を選ぶように、少し間を置く。


「私の魔力は、どんな型にも収まってくれなくて」


「なるほど、どうりで」


 机に散らばった書きかけの報告書に目を落としバグとの戦闘を思い出す。

 リリアの魔力は凄まじいものがあったが制御が出来ていなかった。


「この前のバグ退治の時、リリアの魔力、型に収まらないからこそ上手く制御できた気がする」


「え?」


 プログラムは基本、型を作るものだ。データの流れに、新しい型を定義して処理を行う。

 先日の戦闘ではリリアの魔術が型に収まらないが故にボクのプログラミングが有効に働いた。


「うん……プログラムで型を作れば、リリアの魔力を制御できるかもしれない」


「にゃ? どういうことですか?」

 ニャビィまでもが興味深そうに首を傾げる。


「リリアの魔力は、既存の型に収まらない。でも、逆に言えば、どんな型にも変化できる可能性がある」


 机から一枚の紙を取り出し、魔力の流れを図示していく。


「通常の魔法使いの魔力は、決まった型に沿って流れる。でも、リリアの場合は──」


「私の場合は?」


「まっさらなキャンバスみたいなもの。プログラムで新しい型を作れば、その通りに魔力を流せるんじゃないかな」


「本当でしょうか……?」


 リリアの声には、期待と不安が混ざっている。


「試してみないとわからないけど。せっかくの定期検査だし、ちょっと特訓してみない?」


「特訓、ですか?」


「うん。幻想世界で、リリアの魔力とプログラムの相性を確かめてみよう」


 ニャビィが二又の尻尾を揺らしながら、嬉しそうに飛び跳ねる。

「おおっ! 実験的な試みでありますね! わらわ、しっかり見守らせていただきます!」


「でも、大丈夫なんでしょうか……また暴走したら」


「心配しなくていいよ。今度は、ワイちゃんが道筋を作るから」


 いつもの準備を整え、二人分のヘッドセットを装着する。


「目を閉じて。ワイちゃんのカウントで転移するから」


「は、はい」


 リリアは深く息を吸い、目を閉じた。今度は先週のような不安はない。


「3、2、1──」


 意識が深い闇の中へと沈んでいく。


「ここが、訓練場所だよ」


 幻想世界にログインが完了する。

 足元には青く発光するグリッド。頭上には魔力の流れが虹色の帯となって輝いていた。


「まずは、リリアの魔力を解放してみよう。ワイちゃんが道筋を作るから」


 リリアの魔力のポテンシャルそれを引き出せるかどうかが重要だ。

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