1-3 幻想世界へダイブイン!ログイン完了!プログラムの力で異世界チートを発動するぜ!
「じゃあ、手始めにこれを装着して」
引き出しから取り出したのは、半透明の樹脂でできた薄いヘッドセット。
耳の部分には魔法陣のような回路が青く浮かび上がり、内側には細かな魔力制御用の結晶が埋め込まれている。それは幻想世界と意識を繋ぐ架け橋となる特殊な魔導具だ。
装置の表面を指でなぞると、魔力に反応して淡い光の波紋が広がった。
「これは……?」
「簡単に言えば、幻想世界にログインするための……う~ん。つまり転送装置かな。ちょっと特殊な魔導具みたいなものだよ」
リリアの後ろに回り、銀色の髪をそっと持ち上げながらヘッドセットを装着していく。耳の後ろのセンサーが、彼女の魔力に反応して淡く光る。
「え、えっと……これって本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫大丈夫! 最悪、脳がちょっと焦げる程度だよ」
「ひぇっ!?」
驚くリリア。
「もう! 悪い冗談、言わないでください!」
「心配いらないにゃ。わらわが現実世界でしっかり見守っているのであります」
ニャビィが得意げに胸を張る。その言葉に、リリアの表情が少し和らいだ。
ボクもヘッドセットを装備しながら、幻想世界へのダイブ準備を始める。
「それじゃあ、説明するね。これから幻想世界に意識を転送するんだけど」
キーボードを叩きながら話を続ける。
「大丈夫、ボクたちの意識だけが転移するから。体はここに残ったまま」
ニャビィが補足する。
「万が一の時はわらわが強制ログアウトさせるから、安心するにゃ」
「ロ、ログアウト……?」
「あ、ごめん。ワイちゃんたちの世界の用語で"意識転送の解除"ってことね。」
モニターに緑色のウィンドウが表示される。
[準備完了 ダイブ可能]
「準備、できたよ。椅子に深く座って……そう、それでいい」
リリアは言われた通りに背もたれに身を預ける。その表情には不安と期待が交錯している。
「目を閉じて。ボクのカウントで幻想世界に転移するから」
ボクも椅子に座り直す。
「それじゃあ、3、2、1──」
『 start.Dive(Iori, Liria); 』
その瞬間、意識が深い闇の中へと沈んでいく。
まるで深い海に潜るような感覚。しかし、不思議と息苦しさはない。
上も下もない空間で、ただ意識だけが浮遊している感覚。
やがて、遠くに青白い光が見え始めた。
その光は徐々に大きくなり、無数のデータの流れとなって意識を包み込んでいく。
そして──
意識が戻ると、いつもの幻想空間が広がっていた。
足元には青く発光するグリッド状の地面。
網目模様が絶えず変化し、魔法陣のような幾何学模様が浮かび上がる。
頭上には無数のデータが虹色の帯となって流れ、その間を半透明の立方体や球体が漂いながら複雑な軌道を描いている。
遠くには現実世界の風景がぼんやりと霞み、その境界には薄い霧のような光の膜が漂っている。その膜を透かすように、白い塔の影や、街の輪郭がぼんやりと映っていた。
「す、凄い……」
隣でリリアが息を呑む。彼女にとっては信じられない光景なのだろう。
空中では、プログラムが具現化したかのような文字列の光が、淡い青白い炎となってゆらゆらと揺れ、時折小さな破裂音を立てて消えていく。
魔力の流れが作る虹色の帯は、まるで空間に書き込まれた絵画のように輝き、見る者の目を奪う。
「うん。結界の向こう側、プログラムと魔法が交差する幻想世界──ここが、ワイちゃんの戦場」
目の前では、まるで生きているかのようにうねる魔力の川が流れ、そこに時折きらめく星のような光が飛び交っている。その一つ一つが、結界のバランスを保つための魔力データだ。
「こ、こんな世界が……魔法ギルドでは、結界のことは習ったはずなのに、こんな場所があるなんて」
「そうだろうね。ほら──」
指を差し上げると、空間に青いウィンドウが浮かび上がる。
その中には魔力の流れや結界の状態を示すデータが次々と表示されていく。
「な、なんですか、これ?」
「結界の状態を示すデータ。異常があれば、ここに表示される」
その言葉が終わるか終わらないか、ウィンドウの一角が赤く点滅を始めた。
「ほら、あそこ」
リリアが示された方向を見る。
データの流れが不自然に歪み、黒い靄のようなものが渦を巻いていた。
「あ、あれは!?」
警告音が鳴り響く。
黒い靄が膨張し、獣のような形を成し始めていた。