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3-2 荷物の中身

 ボクはミレイから渡された手紙に目をやった。


『拝啓 我が愛しき引きこもり君へ』


 いつもの調子だな。

 この手紙の第一文を見るたび、無性に溜め息が出る。


『最近はリリアとルシェという可愛い来客に恵まれているようだね。

引きこもりなのに美女が二人も通ってくるなんて、君の魅力に私も少し嫉妬してしまうよ。

たまには私の事も思い出すことを許可しよう。 300歳とは言え、まだまだ若い女性だと自負している。』


 ツッコミどころ満載の冒頭だが、もう慣れたものだ。


『さて、今回は君に新たな仲間を紹介しよう。その名もクラウン商会のミレイ。彼女は我がギルドの上得意様で、商才にかけては私も舌を巻くほどだよ。彼女はただの商人ではなく、召喚術にも通じていてね……少しユニークなエピソードがある。』


 本題と関係あるのか!?


『例えばある日、彼女はギルドで期限切れ寸前のポーションを「熟成された逸品」として売り切ってみせたとか。ギルドの古株魔術師すら騙されたほどでね。あの時は笑いが止まらなかった。』


 さすがにそれは問題だろう……


『さて本題に入ろうか。

今回君に届けた荷物は、幻想世界の結界を安定化させる浄化魔道具だ。

これを北部、東部、西部の三か所のセクターに設置することで、結界の乱れを抑えることができる。

使い方はミレイと一緒に確認してもらいたい。彼女には既に概要は説明してある。

ただし、実際の起動は君でないとできない仕様になっているからね。

まぁ彼女と二人きりでの作業、楽しんでくるといいさ。』


 ボクは荷物の中の魔道具を確認した。

 魔道具は手に収まる程度の大きさで表面には魔法陣の模様が彫り込まれていた。


『追伸:

ミレイのことは任せたよ。彼女には君にしか見せられない一面があるはずだ。

まぁ、私の勘が当たるかどうかは、君次第かもしれないけどね。

それと今度、彼女と一緒にお茶でもどうだね? たまには外の空気を吸うのも──』


『追々伸:

相変わらず外には出ないの? 窓の外には素敵な出会いが待っているかもしれないのに。

この手紙を読んでいる今も、素敵な出会いが目の前にあるかもしれないけれど?』


 いい加減、その外出催促はやめてくれないかな……。


「ヘレン先生らしいお手紙やぇ。 おもろいなぁ。イオリンのこと、ようわかってるぇ」


 ミレイが覗き込むように手紙を見ている。


「うわぁ! 人の手紙を覗き見するのは商人として如何なものかとワイちゃんはクレームを入れます!」


「あははん、ごめんなぁ。でも先生のお手紙やし、どうせ後で教えてもらう内容やろ思って」


 この子の図々しさは、不思議と不快に感じない。むしろ、自然な親近感すら覚える。


「ところでミレイの召喚獣ってどんな感じなんだい?」


 ボクが尋ねると、ミレイは嬉しそうに目を輝かせた。


「おっ! 聞いてくれるんやね、イオリン! ウチの召喚獣は、どれも頼れる子ばっかりやぇ!」


「どんな種類がいるの?」


「例えばなぁ──」


ミレイは軽く手を叩いて、得意げに話し始めた。


「ピッキングモンキーのウィンキーは、さっき鍵開けて見せた子やろ? あの子は細かい作業が得意なんよ。どんな複雑な鍵でもすぐに開けてくれる!」


「いや、それっていろいろ問題ありそうなおサルさんな気がするけど?」


「えへへ、そんなん気にせんといてーな! あと、他には空飛ぶチョウチンアンコウとか、索敵に使えるコウモリ型の召喚獣もおるで。ウチの仲間はみんなユニークやぇ」


 彼女の言葉に興味を引かれたボクは、少しだけ真面目な声を出した。


「それで、その召喚獣たちはどうやって呼び出すん?」


「おっ、イオリンも召喚術に興味出てきた? ウチ、実際に見せたほうが早いと思うから、ちょっとやってみるわ!」


 ミレイはパチンの指を鳴らした。


「サモン!《インクスコーピオン》」


 空間に小さな魔法陣が浮かび上がった。

 その中から、黒く光る甲殻に包まれたサソリ型の召喚獣が姿を現す。鋭いハサミと長い尾が特徴的だが、威圧感はなく、どこか愛嬌のある姿をしていた。


「これが、ウチのインクスコーピオンやぇ!」


「インクスコーピオン? どういう役割なの?」


「この子なぁ、毒じゃなくてインクを出すんよ! 主にウチが書類にサインする時に使うんよ。めっちゃ便利やぇ!」


 そう言うと、ミレイは懐から受領書を取り出した。ニャビィがテーブルに置いた紅茶トレイを脇に避けて、その上に紙を広げる。


「ほな、イオリン。この荷物の受領書、サインしてくれへん?」



「いや、これ手書きなんだ……ペンがいるけど」


「そのペン代わりが、この子や!」


 ミレイが合図すると、インクスコーピオンが器用に尾を動かし、先端から少量の黒いインクを垂らす。まるで万年筆のインクを補充するように、尾の先端が紙の上で軽く踊る。


「ほら、これで準備万端や。イオリン、どうぞ」


 ボクはインクスコーピオンが垂らしたインクを使って、受領書にサインした。


「このインクスコーピオンのインクはなぁ偽装の出来ない特別なインクやぇ。契約書やサインをするのに丁度えぇから商人には必須の召喚獣やぇ」


 インクスコーピオンは尾を軽く揺らしながら満足げにミレイの肩に飛び乗った。


 ボクの現世の召喚獣イメージはデカいドラゴンだったりしたがこの世界の召喚獣ってのは違うのか……?

 ってニャビィは召喚獣なのか!?だとしたら誰が召喚したんだ!? 

 でも本猫はネコ型使い魔と自称しているが……


 謎が謎を呼ぶためボクはとりあえず深く考えることを止めた。



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