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2-12 そして生まれる絆

「帰還の準備をするよ」


 ボクはデバイスを操作し、転送プログラムを起動させる。

 戦いの痕跡が残る幻想空間が、徐々に薄れていく。


「system.transfer();《転送、開始》」


 意識が深い闇の中へと沈んでいく。

 いつもの感覚——。


「イオリ」


 突如として響く声。

 白いワンピース姿の少女が、儚げな微笑みを浮かべている。


「ありがとう。でも、まだ......」


 声を掛けようとした瞬間、意識が強く引っ張られる。

 青白い光が視界を埋め尽くし——。


「おかえりなさいでありますにゃ!」


 目を開けば、そこは元の部屋。

 ニャビィが嬉しそうに飛び跳ねながら、三人の帰還を出迎えていた。


「お茶を淹れてきますにゃ! 今日は特別な勝利のブレンドでありますよ!」


 ニャビィが厨房へと消えていく。その背中で、二又の尻尾が嬉しそうに揺れていた。


「すごかったです! ルシェさんの新しい剣術......まるで朝日と夕暮れが同時に来たかのようでした!」


 リリアが目を輝かせながら言う。


「私も、型に収まらない力を持て余していましたけど.....ルシェさんの姿を見て、勇気をもらえました」


「えぇ、私も驚いています。まさか、こんな戦い方があったとは」


 ルシェは自分の手のひらを見つめながら呟く。


「ワイちゃんのおかげかな?」


「ふん、相変わらず生意気な口を」


 だが、その声には以前のような敵意はない。


「でも......確かにあなたは、私に新しい道を示してくれた」


 ルシェはそう言って、小さく微笑んだ。


「そう……新しい道......か」


 ルシェが窓の外を見やる。夕陽に染まる街並みの向こうで、結界が虹色の輝きを放っていた。


「私たちレッドクリフ家は、剣術を通じて秩序を守ってきた。でも、秩序を守るためには、時として型を超えることも必要なのかもしれない」


「その通りですよ!」


 リリアが静かに頷く。


「私たちは、それぞれの形で戦えるんです。型に収まらなくても......」


「お茶が入りましたにゃ! これぞ、わらわ特製の勝利のブレンドであります!」


 ニャビィが銀色のトレイを頭上に載せて戻ってきた。


「次からの勤怠監視は、もう少し楽しみになりそうだ」


 ルシェがそう言って紅茶を手に取る。その表情には、もう以前のような厳しさはなかった。


「えぇ!? これでワイちゃんたちが真面目に働いてるのも分ったんだしもう監視する必要なくね!?」


「なまけものの監視も、悪くないかもしれない」


「ええぇぇぇ!? ワイちゃん鬱で引きこもってもいいですか?」


「ルシェさんも参加してくれるなんて嬉しいです! でも次は玄関で騒がないでくださいね」


 リリアの言葉に、部屋に小さな笑い声が響いた。


 やれやれ報告書を書くのはボクだというのに……

 まぁでも今は勝利の紅茶を味わうとしよう。


 窓の外では、星光竜が夕焼けに輝く結界の中を、ゆったりと飛んでいた。


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