1-14 帰ってきたら怠け者の烙印を押されてました
目を開くと、そこは元の部屋だった。
夕陽が窓から差し込み、部屋を赤く染めている。
「お帰りにゃさいであります!」
ニャビィが嬉しそうに飛び跳ねながら二人に駆け寄る。そのオッドアイが喜びで輝いているのが分かる。
「やったにゃ! ご主人様もリリアも、例外種を見事にやっつけたであります!」
「……わ、私もちゃんと役に立てたんでしょうか……」
リリアは小さな声でそう呟きながら、控えめに笑みを浮かべる。その笑顔は、どこか照れ臭そうで、しかし確かな達成感が滲んでいた。
「ワイちゃんにかかれば、あんな敵は朝飯前だよ。ま、運が良かっただけかもしれないけどね。」
ボクは肩をすくめながら、どこか得意げに言った。
リリアはその言葉に少し呆れたような顔をしながらも、微笑みを隠せなかった。
ニャビィがくるくると踊りながら言葉を続ける。
「でもでも、リリアもすごかったであります! あんなに大きな魔法を放つなんて、わらわ、感動したにゃ!」
ボクはリリアの表情を眺めながら、ふと心の中で思案を巡らせる。
ヘレンのやつ、何か企んでたんじゃないか?
リリアを僕のところに寄越したのは、ただの検査のためじゃない。
彼女のこの能力を見越していたのかもしれないな。
それとも……幻想世界での経験を積ませることで、彼女の眠っていた力を覚醒させる狙いがあったのか?
どっちにしても、今回は結果的にうまくいった。リリアはその力を自分のものにしつつある。
だけど……これが彼女にとって本当に良いことなのかどうかは、まだ分からないな。
そんな考えを振り切るように、ボクは軽く首を振った。
「さて、こんな時はお茶でも飲むに限るな。ニャビィ、特製ブレンドティーをお願い。」
「にゃ! お任せであります!」
ニャビィが意気揚々と台所へ向かおうとしたその時、玄関から激しいノック音が響いた。
「なんだか嫌な予感がするにゃ……」
怒気を帯びた声。続いて複数の足音がドアの向こう側に響く。
「開けろ! 私は王国騎士団第三部隊長、ルシェリアン・レッドクリフだ!」
続いて、複数の重い足音がドアの向こうから響いてくる。
なぜ騎士団隊長が部下を率いてボクの家に?
「本日確認された北部での結界の歪み。重大な監視責任の懈怠と見なし、直接の事情聴取に参った」
なるほど、流石に今回の例外種の出現は現実世界にも影響が出ていたらしい。
リリアが息を呑む。
「騎士団が、どうして──」
「騎士団……面倒なのが来たな」
ボクは溜め息をつきながら、立ち上がった。
「さあ、早く扉を開けろ、そして、その怠け者の顔を拝ませてもらおうか」
まぁいい、ここは丁寧に対応を心がけようか。