1-12+α リリアの幼少期
本編では深くは触れられなかったリリアの過去を書きます
『また、あの時みたいに……』
記憶が蘇る。魔法学校での実技試験。制御できない魔力を、必死に制御しようとした日。
リリアがその特異な魔力を初めて自覚したのは、幼い頃だった。
小さな村の片隅、家族と暮らす日々はそれなりに穏やかだった。
リリアの家は村では少し名の知れた家系で、母親は村唯一の薬師として人々を助けていた。
父親もまた村の守護者として、冒険者たちの道案内を請け負い、多くの人々に信頼されていた。
だが、リリアが7歳の時、その日常は一変した。
ある日、村祭りの最中に行われた子供たちの魔力遊びで、リリアの中に眠っていた膨大な魔力が突如として目覚めたのだ。
子供たちが無邪気に小さな炎や水の玉を作り出す中、リリアは手を伸ばしただけで周囲の空間が青白い光で覆われ、突風が周りを巻き込んだ。
「危ない!」
誰かが叫び、大人たちが子供たちを抱えて逃げた。
リリア自身も状況が分からず混乱し、その場に立ち尽くしていた。
気づいた時には、周囲の木々が根こそぎ倒され、村祭りの屋台もいくつかが破壊されていた。
「リリア……お前、なんてことを……」
呆然と立ち尽くす父親の声。それは、彼女にとって初めての挫折だった。
それから村人たちの態度が変わった。かつては親しげに声をかけてきた人々が、今では彼女を避けるようになり、時には恐れるような視線を向けてきた。
「危険だ」
「あの子には近づかないでおこう」
「いつまた何かが起こるか分からない」
そのような囁きが、彼女の耳には痛いほど響いた。
家族ですら、彼女をどう扱えばいいのか分からず、距離を取るようになっていった。
リリアは、次第に人々との接触を避けるようになった。
日々、家の片隅で書物を読みながら、静かに過ごす日々が続いた。
そんなリリアに転機が訪れたのは12歳の時だった。
母親の友人である魔法使いのヘレンが彼女を訪ねてきた。
「あなたには、大きな可能性があるわ。制御できない魔力というのは、同時に無限の可能性を秘めた力でもあるのよ」
ヘレンの言葉に半信半疑だった両親も、リリアを魔法学校に送る決断をした。
学校での生活は、彼女にとって新鮮で、同時に試練でもあった。学校では基本的な魔法理論や実技が教えられ、リリアも熱心に勉強した。しかし、問題は実技試験だった。
初めての実技試験の日、リリアは緊張しながら杖を握りしめた。
試験の課題は、炎の魔法を用いて特定の標的を正確に焼き切るというものだった。
他の生徒たちは順調に課題をこなしていく中、リリアの順番が回ってきた。
「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら、彼女は魔法の詠唱を始めた。
杖の先端に青白い光が集まり始める。最初は順調だった。
しかし、次第に魔力の流れが激しくなり、リリア自身でも制御できないほどの力が溢れ出した。
『違う、そっちじゃない! 収まって!』
しかし、その祈りも虚しく、魔力は暴走を始めた。
教室の壁に魔力の波がぶつかり、衝撃で机が粉々になり、窓ガラスが砕け散る。級友たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、教師が必死に魔力の暴走を止めようとした。
やがて魔力は収束したが、その時には教室は半ば崩壊しており、リリアの心には深い傷が刻まれていた。
「危険だ」
「制御できない」
「近づくな」
級友たちから投げかけられる冷たい視線と言葉。それは、幼少期に村人たちから受けたものと同じだった。
事件後、リリアは学校の隅の部屋で一人うずくまっていた。
「もう嫌だ……魔法なんて使いたくない……」
そんな彼女の前に現れたのは、ヘレンだった。
ヘレンは、彼女の隣に静かに座り、優しく肩に手を置いた。
「リリア、あなたの力は特別よ。それは恐れるものではなく、磨けば素晴らしい才能になるの」
「でも……私は……暴走ばかりして……みんなを傷つけて……」
リリアの声は震えていた。ヘレンは微笑み、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「確かに、制御するのは難しいわ。でも、だからこそ、私たちは努力するの。大切なのは、諦めないこと。あなたには、支えてくれる人がいる。そして、あなた自身も自分の力を信じなければならないわ」
その言葉は、リリアの心に少しずつ希望の光を灯した。
それからリリアは、ヘレンの個別指導を受けながら魔法の制御を学び続けた。
ヘレンは彼女の魔力の特性を理解し、型にはまらない力をどう活かすかを一緒に模索した。
幾度も失敗を重ねながらも、少しずつリリアは自信を取り戻していった。
しかし、完全に克服するには至らず、彼女の中にはいまだに恐怖と不安が残っていた。
そして、現在──カゴメイオリと出会い、彼女の魔力を「型に収める」新たな手段が提示された時、リリアの中で抑えきれなかった過去の恐怖と、それを乗り越えたいという希望が交錯していた。
彼女の物語は、過去の自分と向き合い、その力を真に受け入れる旅そのものだった。