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千代子さん 〜動物職員と人間職員の勤務報告書〜  作者: 杉崎 朱
西藩 出張篇

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9/15

千代子さん 9話 〜西藩篇 2話〜

「お前賢いなぁ!!」

国領が壱塚を褒める。


「国領さん、今バカにされたんですけど気づきました?」

+++

言葉を話せるようになった”動物”と人間が共存していく世界。

地球に落ちた小さな小さな隕石から発する特殊磁場の影響で動物が言葉を話せるようになった。

また、磁場の影響か、高い知能をもったハクビシン《千代子ーセンダイジ》と、愉快な仲間達の現代ファンタジー

5月某日ーーー京都


AM 12時55分

京都駅



太陽が本日の一番高い所から少しずれた頃、千代子達を乗せた新幹線は目的地へと到着した。

本日は全国で晴天なり。東京と変わらず京都でも熱い日差しが注がれている。




駅の改札を出ると、目の前から見た目が騒がしい4人組が千代子たちの前にやってきた。

人間の4人組で、男性2名、女性2名。彼らが西日本の”人間と動物”の 問題解決を担っている《西藩-ニシハン-》である。




改札を出た千代子、虎雪、達博は向かいからやって来る赤い服を着た4人組を見つけて近寄る。



「よーっす!元気してたか?!」

4人の中から1人が飛び出し駆け寄ってきた。女の隊員であり。名前は《国領コクリョウ 朱留アカル》。全員お揃いの真っ赤なロングコートをはためかせながら彼女は千代子に駆け寄った。


「お前相変わらずウルサ・・・イッテェ!!お前顔近ぇんだよメガネが痛いんだっつの!!」

元気に飛び込んできた国領に向かって煩いと言いたかった千代子だが、言い終わる前に国領が抱きつき頭にすり寄ってきた。そう、彼女はメガネを掛けている。柄とレンズを繋いでいる部分がさっきから頭に刺さっているのである。


「ゴッメーン!私は痛くないから気付かないんだよね!ちょっと違和感は感じるんだけど!」

彼女、国領はケロっと言い放つ。

そんな彼女の後ろから西藩の残り3名がやってくる。


先頭に立つのは身長190cmはあろうかという大男。千代子達を見ても表情筋をピクリとも動かさず、年齢にそぐわない落ち着きぶりを放つこの男こそが、現在のこの西藩をまとめているいわばリーダー的存在の《神宮カミヤ 恭介キョウスケ》である。

その後ろには涼しい顔をした黒髪美人が微笑む。彼女は《西野ニシノ 江津子エツコ》。

日本人形の様な容姿の彼女の隣にいる、神宮とはまた違う意味の落ち着いた雰囲気を持ち、しかし、少々幼さが残る青年が《壱塚イチヅカ シン》。

西藩は、神宮、国領、西野、壱塚の4名で構成されている。



「遠路はるばる、感謝する。今回も治安調査をよろしく頼む」

千代子と国領がギャーギャー騒いでいる所に、神宮が挨拶をする。

「「神宮さん、お久しぶりです。今回もよろしくお願いいたします!」」

小学生の号令のように示し合わせて虎雪と達博が二人揃って挨拶をする。


そして、小雪は神宮の後ろの二人にも挨拶をする。

「江津子さんも、壱塚さんも、お久しぶりです!今回もよろしくお願いしますね!」

「よろしくお願いします!いっぱい京都の情報をインプットさせてください!」

虎雪に続き達博も挨拶と目的を伝える。ここでいう達博の”インプット”とは、脳みそに情報を蓄積させるという意味で、実は彼が精密機械だったという、機械的記憶媒体ではない。彼は本当に詳細不明の未確認生物である。コウモリの進化系という噂は都庁内で流れているが。


「二人とも、久しぶりね。東藩が来ると空気が明るくなって嬉しいわ」

「同じく」

賑やかで嬉しいと返す西野、続いて同意見であることを壱塚が返す。

「あ?西藩にはこの東藩の3人分の煩さを1人で担当してるこいつがいるじゃねぇかよ」

千代子が、そのずんぐりむっくりした指と爪先で国領を指差す。

「最特公、それは”明るい”じゃなくて”煩い”の」

「違いねぇ」

ニヤッと、悪人ヅラをして千代子は西野に同意する。この会話を国領が聞いていればまた騒ぎ出すのだろうが、生憎、国領は虎雪と髪の毛の話をするのに夢中であった。


「ねぇ!虎雪ちゃんさ!本当にいつも髪の毛綺麗だよね〜!私パーマかけちゃったからだけど、本当に傷んじゃってさー!そんなに髪の毛長いの毛先まで痛みなく綺麗なのなんで?!シャンプー?!トリートメント?!食べ物とかかなぁ?!ねぇ普段から食べてるの?!」

国領の勢いに、東藩では一番の明るさを持つ天真爛漫な虎雪も少々タジタジである。

「シャンプーと、トリートメントは市販のもの使ってて・・・特に良いものってわけでもないんですけど・・・」


「虎雪さんが普段から食べてるものは、兄貴と一緒におはぎはしょっちゅう食べてますよ」

「おはぎ?!」

虎雪がタジタジになっているのを見て、達博が助けに入った。そして、それを聞いた国領は即座にリーダー的存在である神宮に提案をする。


「ねぇ!!恭介!!今日のお昼みんなでおはぎにしようよ!!」

「主食にはしない、今日の茶請けで良いだろう」

「おやつって事ね!!」


よっしゃ!と喜びながら、国領は壱塚に美味しいおはぎのお店を調べておくように指示をする。そして、君もおはぎ食べるの?と今度は達博の生体に興味を持ったのか質問責めをしている。




「・・・お前、あいつの面倒大変だな」

千代子は神宮に道場の目を向ける。

「いや、そんな事はない。前回の治安調査の報告会以降、現地調査の回数を増やした。俺達は先週までの2カ月間殆ど直接会ってはいなかったんだ。」

「でも、西野は煩いって言ってたぞ」

「西野には毎日電話でもしてたんだろうな」

「それは煩いな」

そんな会話をした後、神宮は全員に声をかけた。



「さぁ、西藩の事務所に向かおう」









黒いワンボックス車で合計7名が西藩事務所へと向かう。東藩が都庁内で仕事をしているのと同様、西藩の事務所というのは、京都府庁内にある。東藩、西藩、共に行っていることは警察に似て非なるものである。勤務先や所属は警視庁や府警ではないのである。



エレベータを上がった一行は、西藩の広く綺麗な事務所に着く。

作業スペースと資料保管場を完全に分けているので、デザイナーオフィスの様な清々しい雰囲気だ。日光は惜しみなく部屋全体に入り、観葉植物も置いてある。


「カーーーーッ!!綺麗ですね、うちと全然違いますね、どうしましょう兄貴」

達博がまんまるい目の直径を通常の何倍も大きくして驚く。

「これは、綺麗ですね・・・デスクワークにもやる気が出ますね。私でもデスクワークができそうな気分になります」

「いや、お前はたとえ事務所が綺麗でも仕事の効率は変わらないに俺は100万賭けてもいい」

虎雪のやる気に満ちた言葉を千代子が一刀両断する。



「これは、働き方改革の一角です。資料保管を別の部屋にして、作業場を広く綺麗に清潔に保ち、余計なものを置かないことで集中力が上がると共に、視覚から入る無意識な情報で気が散ることも防いでます」


初めて壱塚が少々長く話した。

「なんだ、お前喋れるんじゃねぇかよ」

お?っと千代子が嬉しそうに壱塚に言う。

「必要であれば話します。大体は国領さんがムダ9割必要なこと1割で喋り倒しているので、僕はあまり話さないようにしているんです。不要な情報は脳が疲れるだけですから。それは皆さんに申し訳が無いです」

「お前賢いなぁ!!」

国領が壱塚を褒める。


「国領さん、今バカにされたんですけど気づきました?」

達博が国領に伝えるも既にもう聞いてはいなかった。




「さて、今回は何から始めるのが良いだろう。そちらのスケジュールがあるなら聞かせてもらいたい。こちらで準備してあるのは、ここ半年で起きた動物共存法律違反の資料だ。いくつかの事件をピックアップして、今回現地調査ができる申請も一応してあるが・・・」

神宮が千代子に言うと、千代子は駅で浮かべたのと同じ悪人ヅラをして西藩4名の顔を順番に見る。

そして今回の出張の本題を伝える。




「今回はいつもの出張と違うぜ・・・


監査だ。西日本各府県の公務員の経費の確認、調書の改竄が無いかの確認。全て申請どおりに改竄なく保管されているか、また保管方法が適切であるか。全てだ、全て!!」



「ほー、監査か・・・」

神宮をはじめとして特に誰も何も驚いていない。それはそうだ、彼らはしっかりと普段より仕事をしている。自分たちの管理下は問題ないし、公務員全体となると自分たちの預かり知らぬところに関しては正直どうでも良い。ありのままを見せれば良いのだ。



「そうすると、調書の改竄など、改竄を訂正するのに時間のかかるところの監査より、先に適切な場所に適切な方法で書類の保管がされているかを見た方がよいですね。物の移動はすぐにできてしまうから」


「西野正解。書類保管庫は達博が見張りな。もし途中で感づかれて大量のファイル抱えて飛び込んできた奴がいたら確保しとけ。俺は、ほか事務所や作業中の職員のところを直接目視して重要書類がその辺にほっぽりだされてないかを確認する。虎雪、お前は・・・国領と茶請けのおはぎ買ってこい。」

「え?!さっき新幹線の中で食べたじゃないですか?!」




単純に煩いから厄介者払いである。


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