表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千代子さん 〜動物職員と人間職員の勤務報告書〜  作者: 杉崎 朱
西藩 出張篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

千代子さん 8話 〜西藩篇 1話〜

千代子がそう言うと、虎雪は大福を持った左手を自分の顎に当ててこう言った。


「・・・難しいですね」

「「どこが?!」」

+++

言葉を話せるようになった”動物”と人間が共存していく世界。

地球に落ちた小さな小さな隕石から発する特殊磁場の影響で動物が言葉を話せるようになった。

また、磁場の影響か、高い知能をもったハクビシン《千代子ーセンダイジ》と、愉快な仲間達の現代ファンタジー

5月某日ーーー東京


AM 8時05分

東京駅




気温は然程高くない朝。しかし、日差しだけは強く、夜行性の”ハクビシン”こと《千代子センダイジ》はホームで目を細めながら太陽から黒く、本来はまんまるの目を背ける。


そんな千代子を見つけて走り寄ってくる2つの影がある。一つは人の形をした影。もう一つは、人型の影に比べて大分薄い色の丸い影だ。



「親分!お待たせいたしました!買って来ましたよ、名物の東京ひつまぶし弁当と八王子の有名塩大福です!」


言いながら両手を挙げて、お弁当と大福の入った紙袋を掲げたのは千代子の部下、人間の女性の部下であり”東藩”隊員の《須藤スドウ 虎雪コユキ》である。


「今日の食事のお供は特別に”有名シェフ監修!贅沢フカヒレスープ”ですよー!!あといつものメーカーのほうじ茶でーす」

虎雪の隣に浮いている丸い生き物も両手を掲げて購入したスープとお茶を千代子に見せるようにしている。この丸い生き物は正体が未だ不明の”東藩”隊員《達博タツヒロ》である。


そう、この3名は本日から京都へ出張するのである。西藩の元へ行くのだ。

千代子の率いる”東藩”は、東京に本拠地を置く”動物と人間との間の問題解決を目的”とし、主に東日本を管轄している隊である。


そして、これから向かう京都には、東藩と同じ仕事内容の西日本を担当している《西藩ニシハン》がいる。本日は西藩の拠点である役場の監査をしに千代子は向かうのである。虎雪と達博は護衛でついて来ている。護衛なので、事件や狙われる事がなければ特に現地でデスクワークなどをするわけではないので、もはや虎雪は旅行気分である。達博は護衛のくせに、時間があれば国の重要文化財を見る気満々である。ちなみに今回の監査や視察のスケジュールに重要文化財の近くすら通る予定はない。そんな事はお構いなく達博も虎雪同様にウキウキと浮かれているのである。

「金戒光明寺三重塔とか、慈照寺銀閣とか、慈照寺東求堂は行きたいですね〜!!あと、兄貴あれは絶対食べましょうね、にしん蕎麦!!本場でにしん蕎麦食べてみたかったんですよ〜!!!」

「修学旅行かよ」

千代子は半目になりながら2人を見る。本当にお気楽だなと思いながら、今回自分が行う仕事内容を今一度脳内で整理して、2人を見上げて言い聞かすように話す。


「いいか、俺は仕事をしに行くんだ。お前らは修学旅行みたいに思ってるんだろうがな!!

 京都の役人が不正をしていないか、事件の調書の確認、改竄がないかの確認、また経費の横領をしていないかの帳簿確認、重要事件の帳簿保管状態の確認、適正な労働環境であるかの確認、確認ばっかだけどな!!」

「親分、確認だけの為に直接京都に行くんですか?聞けばいいじゃないですか?」

「虎雪さん、兄貴は抜き打ちで行くんですよ。西藩には今日から兄貴が行くことを伝えてはありますが、何をするかは伝えてません。多分、いつもと同じように街に出て治安調査をするのだと思ってます。まぁ、治安調査は今回もするんですけどね」

「そういう事だ、抜き打ちテストするのに、『抜き打ちテストしますよ』って事前に告知したらそれはもう”抜き打ち”テストでは無いって事だよ。普段から出来ているかどうかを調べなくちゃいけねぇ。俺が行く時だけ綺麗に整えようっているのは、個人にも国にもなんのメリットもないんだよ」


千代子がそう言うと、虎雪は大福を持った左手を自分の顎に当ててこう言った。


「・・・難しいですね」

「「どこが?!」」


千代子と達博が二人同時に言い放った。












「うわー!晴れてよかったですね!凄いすごい!あれ、有名な宿泊施設付きのレジャーランドですよね!椰子の木いっぱい植えられてて南国みたいですねー!!」

出発して20分もすると東京都を抜け出し、普段目にしない景色が新幹線の窓の外を流れていく。その光景を虎雪はひつまぶし弁当を食べながら眺めている。


「最近は東北に行く事が何度かあったが、神奈川、静岡は来てなかったからな」

窓の外になど目もくれず、仕事用の極薄の端末を操作しながら器用にひつまぶし弁当を食べながら千代子は答える。


「俺、まだ海に入ったことがないから行ってみたいです!こうやって乗り物からとかみたことは有るんですけど・・・静岡って、海水浴場が有名ですよね!千葉はサーファーが多いイメージですけど」

「お前、海水入ると溶けそうだよな」


千代子は目の前で窓の外を眺めながらお弁当を食べる二人を放っておきながら仕事を進める。

大体の仕事は昨日までに行った。東藩の脳みそ問題児である《宇美乃ウミノ 蛸蔵タコゾウ》と《二之宮ニノミヤ 紅葉モミジ》この2名に事細かく仕事の指示を出してきた。斎藤にも伝えて有るからもうそこは大丈夫だろう。多少だが任せても問題もない事務仕事も組み込んだスケジュールにした。これで、斎藤と城戸の手も本当に若干だがゆっくり仕事ができるだろう。と、千代子思う。

チームでの仕事は業務の分担を全員平等には出来ない。適正や能力差が有るからだ。ここで疑問だ生じる。


では、何の為に毎年公務員は12月に雇用を継続できるかどうかの試験を行っているのであろう。と問題視する者も出てくる。勿論現在の公務員は、試験に全員合格が出来たから残れているのである。


80点以上が合格の試験で、100名が受けて60名が合格したとしよう。合格出来た60名は、80点以上をとった事は確かで有るが、80点なのか、90点なのか、100点満点なのかはやはりバラつきが出る。

不合格の40名からしたら、合格した60名全員はエリートとでも思うのだろうか。しかしながら、100点満点をとったものからすると、90点や80点でも劣等生なのかと思ってしまう事がある。仕事中に垣間見えるものでそう思えてしまうのである。

100点、90点、80点、全員が平等で有ることは難しいが、せめてその落差の幅を縮める事ができるようにを千代子は考えて今回自分の出張中の業務を事細かく分担したのである。



「さて、虎雪、塩大福でも食うか」

ひつまぶし弁当を食べ終わり、仕事を一段落させた千代子がデザートを虎雪に要請する。

「親分、はいどうぞ!あ!!そうだ、今日一回都庁に寄って来たんですけど、その時入り口で《甘味処 風鈴》の風鈴ちゃんがおはぎを渡してくれようと待ってて下さったんですよ!」

「あんだと?!そういう大事なことはもっとはやく言えよ!!」


《甘味処 風鈴フウリン


千代子が贔屓にしている甘味処だ。新宿にある、新宿とは思えない街並み、商店街にあるいわゆる古民家カフェだ。先週もその甘味処に行って、餡蜜とおはぎを食べながら看板娘のばーさんと話したな。と千代子は思い出す。その甘味処で働いている、自身と同じ種族”ハクビシン”。名前は風鈴、性別はメスだ。そして店の名前と同じだ。その風鈴が、出張に行くからとこの3名に朝早くから差し入れのおはぎを渡そうと待っていてくれたのである。


「俺は家から直接駅に行っちまったからな。風鈴ちゃんにはメッセージ送っておくさ」


そう言いながら、虎雪のカバンに入ってた風呂敷を受け取り、早くおはぎを食べようと布の結び目を解いたら大きな紙に書かれた手紙が出てきた。



『ネコちゃんへ

 お土産の千枚漬け忘れちゃだめだからね』



「いけねぇ、先週ばーさんから頼まれてたのすっかり忘れてたわ



 つか、ネコじゃねぇし!!」



そういいながら、律儀にその手紙を写真に撮り、仕事用の端末の壁紙に設定にする。忘れないようにだ。そして手紙も几帳面に二つ折りにして、制服の内ポケットに入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ