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千代子さん 〜動物職員と人間職員の勤務報告書〜  作者: 杉崎 朱
東藩篇

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6/15

千代子さん 6話 〜東藩篇 3話〜

蛸蔵は、自分のスキンヘッドを手のひらでパチーーーンと叩いた。

+++

言葉を話せるようになった”動物”と人間が共存していく世界。

地球に落ちた小さな小さな隕石から発する特殊磁場の影響で動物が言葉を話せるようになった。

また、磁場の影響か、高い知能をもったハクビシン《千代子ーセンダイジ》と、愉快な仲間達の現代ファンタジー

「んぁあああっーーーー!!!」




「わぁああっ!!なんですか蛸蔵さん!!寝てたんですか?!日頃から糸目だから起きてるんだか寝てるんだかわかりませんでしたよ!!早く試験勉強しましょうよ!俺たち本当に頭弱いんですから!」

「ごめん、ごめん、いや、なんか今夢見てたんだけどさ、結構良いところで終わっちゃって・・・あれ、あれだよ。半年前のテロの件!俺知らなかったからみんなに聞いて回ったんだけど、みんな話してくれるのは良いんだけど、いつも時間がなくてみんな同じところで話が終わっちゃうんだよねぇー・・・あれ?紅葉くん知ってる?半年前のテロの話。誰かに聞いた?」

「あー、それなら俺最後まで聞きましたよ。千代子さんの赤ちゃん助けた武勇伝ですよね?」

「そうらしいんだよ!千代子さんと斎藤さんがやりとしてて、監禁されているであろう動物従業員の居場所が特定出来たところまではみんなから聞いたんだけど、いつもそこで昼休み終わっちゃってさぁ〜」



5月某日ーーー東京


PM 1時20分

都庁の休憩スペース


千代子をトップとした他数名で構成されている《東藩-ヒガシハン-》の隊員の2名がここで勉強をしている。

人間、男性。名前は《宇美乃ウミノ 蛸蔵タコゾウ》と《二之宮ニノミヤ 紅葉モミジ》である。


「へぇ、っていうか、あの時いなかったんですね。」

二之宮紅葉は今年の4月に入社した新卒新入社員である。そのため、入社早々千代子の武勇伝を他の隊員から聞いていた。当時在籍していたもので、半年前のテロの現場にいなかった隊員はいない。全員出動をしているに決まっている。


そう、二之宮紅葉の目の前にいる、宇美野蛸蔵を除いて。



「俺ね、試験があの時近くてさぁ〜携帯電話は電源切ったままにしてたんだよね〜!」

「え、でも宿舎から渋谷って近いですよね?爆発音とか、ヘリコプターの音とかでわかりません?」

「それがさぁ、邪魔されたくないし、集中したいからってイヤホンして爆音で音楽流してたんだよね!」

「それ集中できるんですか?」

「だからさ、勉強もあるから長い時間は聞けないけど、ささっとで良いからその続き聞かせてくれない?!」

「え!?今っすか?!じゃぁ・・・本当にざっと話ますからね」

「ありがとーー!ちゃんとノートとるからね!」

「いや、そのノートは勉強に使ってください」










「半年前のあの日ーーー」


紅葉が筆記用具を置いて向かいに座っている蛸蔵に話かける。

しかし頭の中では違うことを考えてしまう。宇美乃 蛸蔵。武術の使い手。そのため、体つきが異常である。筋肉のつき方が物凄いのである。自分も同じ戦闘員枠として入ったのになんでこんなに違うのかと思うほど。

そうか、これがキャリアの差なのか。と自分を納得させる。

しかし、おつむのレベル的にはあまり差が無さそうだ。


「話してもらって俺が一番印象に残っているのは当事者の斎藤さんから聞いた話でした。」

「斎藤くんから!!で?で?動物従業員が閉じ込められているところがわかった千代子さんはどうしたの!?子供おぶってたんでしょ?!」


「そうです、





38階に動物たちはいたんですけど、なんと!なんで動物たちがそんな数一緒のところにいたのに出てこれなかったかと言うと・・・バックヤードはバックヤードでも、大型冷蔵庫のバックヤードにみんな監禁されたいたんです。なので、動物によっては冬眠状態になってしまうものいたので、なかなか一致団結してってわけにはいかなかったみたいですよ」

「あ〜なるほどね!そうだよね!だって元気だったらみんなで力を合わせれば出て来れちゃいそうだもんね!」

「そうなんです。で、鍵をかけられた冷蔵庫の大型南京錠を千代子さんが拳銃で破壊して動物たちは無事に全員冷蔵庫から抜け出したみたいです。」


「で、千代子さんは犯人のところに行かなかったの?」


「行きました行きました!動物従業員たちの方が建物の構造に詳しいからって赤ちゃんを任せて千代子さんは屋上に向かったんですよ」


ドキドキドキドキーーーーーー


宇美乃が知りたいのはきっとここからだ。

心臓の鼓動が聞こえているような幻聴を起こしそうなほどの気迫のある顔をしている。



「爆破されたビルは43階建、犯人の居たビルが35階建だったんです。千代子さんは、屋上に向かう途中、手芸屋の売り場にあるカーテンを持って行ったんだ。そして43階から、カーテンをモモンガの飛膜みたいにして飛び降りたんです」

「ヤッベェーー!!!モモンガーーー!!!千代子さんやっるぅーー!!!」

「そこで、実行犯とやり合った・・・というか、秒で犯人を仕留めたみたいです。飛び降りてから、犯人が2、3言文句を言ってたみたいですけど、捕まえるまで5分かからなかったみたいですよ」

「え?そんな単純なヤツに渋谷のあのビル爆破されちゃったの・・・?」

「それなんです。千代子さんが捕まえたヤツは”トカゲのしっぽ”・・・・って例えにしちゃいけないんでしたっけ」

「でも、トカゲの吾郎君が言ってたけど、結構トカゲの皆さんそのことわざ気に入ってるみたいだって言ってたから良いんじゃない?」

「・・・じゃぁ、使わせてもらうと、”トカゲの尻尾切り”だったみたいです。実際捕まったヤツの能力だと、今回使われた爆弾やシステムは絶対に作れないだろうって言われてるみたいですし」

「なるほど、俺が半年間ずっと聴きたがってた結末はかなりあっけない感じで、その先の真実はまだ解明されていなかったわけですか・・・ショック!!!」

「まぁ、でもその捕まった犯人が最近口を割ったらしいですからね。多分ロクな情報は持ってないと思いますけど・・・尻尾なんで」

「そっかぁ、真相はまだわからないんだねぇ・・あれ?子供は?」

「そうです、赤ちゃんの件ですが、実はその赤ちゃん来年から施行される予定の、新しい動物共存法律の追加の案件データが入ったUSBを飲み込んでしまったみたいなんです!」

「千代子さんの推理通りー!でもベタすぎるーー!!」


蛸蔵は、自分のスキンヘッドを手のひらでパチーーーンと叩いた。


「データが無くなれば施行は遅れるであろうって事で子供ごとって事みたいです。千代子さん曰く、そもそもそういったお偉いさんのところの子供が飲み込んでしまう状況もよくないし意味わからないし、医師に診察してもらっただろうけど、その医師が動物共存法律反対派でない確証もないだろうから、そういった線から話が漏れて狙われたんじゃないかって言ってましたよ。現にその医者は姿眩ませたみたいですから。他にも理由がありそうな顔を千代子さんはしてたみたいですが、頭のいい方が考えることにはついていけないです本当」


はぁー。とため息をつきながら紅葉は言った。


「そっか、じゃぁ、これは未解決事件なんだね」

しみじみと言う蛸蔵に、紅葉は気を取り直して言う。

「さぁ!蛸蔵さん!試験勉強しますよ!千代子さんが”最特公”になってから、公務員で居続けるには毎年試験を受けて合格したものだけって事になったんですから!これで落ちたら未解決事件の解決より、そもそも食いっぱぐれちゃうんですよ!」

「あぁ!!確かに!それは困る!!」



そう言って、紅葉はテキストを開き、先ほど話をするために置いたペンを持ち直す。

そして、蛸蔵も、ノートを開いてから時計を見る。あと何分勉強ができるかなと思ったからである。



「あれ。紅葉君、昼休みって何時までだっけ?」

「13時30分までですけど?」

「・・・・今、13時45分。時間過ぎてる・・・!!!またやっちゃったよ!!!」

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