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千代子さん 〜動物職員と人間職員の勤務報告書〜  作者: 杉崎 朱
東藩篇

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千代子さん 3話 〜東藩篇 2話 前編〜

人間側は動物を理解してくれていると思ったが。なかなか全部の人間が動物と対等に、共存するなんて受け入れられる訳がねぇ。特に今回のあの犯人は、学生の時から動物虐待が癖だったようだ。虐待していた動物と対等に生きていけだなんて、そんなやつに理解ができるとは到底思えねぇな

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言葉を話せるようになった”動物”と人間が共存していく世界。

地球に落ちた小さな小さな隕石から発する特殊磁場の影響で動物が言葉を話せるようになった。

また、磁場の影響か、高い知能をもったハクビシン《千代子ーセンダイジ》と、愉快な仲間達の現代ファンタジー


5月某日ーーー東京


AM11時

都庁の中の一室で千代子達が騒いでいる部屋の隣の執務室。


この執務室では、千代子をトップとした他数名で構成されている《東藩-ヒガシハン-》という名称の隊が仕事をしている。主に人間と動物の間に起こった事件の対処をしたのち、ここで記録という事件調書を作成している。


隣の部屋で虎雪に説教をしつつ、おはぎを食べながら通常の3倍スピードで仕事をしている千代子の声を聴きながら、先日の事件の調書を作成しているのは、千代子の一つ下の階級である人間の男性《斎藤サイトウ サトル


「ウルセェな、あの猫」

チッと舌打ちをしながらキーボードをひたすら打ち続ける。

「猫じゃなくて、ハクビシンね。悟ちゃん、猫って言ってるの聞かれたらまた怒られるよ」

千代子を猫でなくハクビシンと訂正をする。斎藤の隣に座っているのは彼の同僚である人間の男性《城戸キド 景護ケイゴ》だ。


連日起こる、人間と動物の小さな喧嘩から大事件までを取扱い、調書を作成しているのは主にこの斎藤と城戸の二人である。他の隊員は事件現場に行くことは勿論だが、調書を含む、いわゆる総務に適性がある人材が少ないのである。その為、事件以外は外回り、いわゆるパトロールに出ていることが多い。

故に、調書やファイリングはこの二人の仕事になってしまっている。勿論、不本意である。


「デスクワークばっかりでストレス溜まっちゃってるんでしょ。一服しようよ。気づいていないと思うからいうけど、悟出勤してから3時間経つけど、椅子から微動だにせず何も飲んでないし。3秒以上手止まったことないからね」

城戸は斎藤の方を向き、呆れた様な、しかし心配そうな顔をして言う。

「3時間か。まだ1時間半かと思っていたが・・・」

「時間感覚大分狂ってるね。どれだけ集中してんのさ」


斎藤は掛けているメガネを外して、手元に置かれていた目薬を挿す。そして目頭を抑えた。

城戸は、実際の時間経過の半分しか経っていないと思っていた斎藤を見ながらクスクス笑いながら言う。


「今、いつの調書やってるの?」

「半年前のあのテロの調書だ」

「あーあー、あれ長いでしょ。やっと最近犯人が口開いたってヤツでしょ。いいじゃん、ちょうど集中力も切れたでしょ。一服しようよ」

「そうだな」




半年前のテロ。

平日の昼時に起こったビル爆破事件である。



「久々だったな。あんな大きい事件」

城戸がコーヒーを飲みながら斎藤に話かける。

「あぁ、最近は動物に対する批判が減って、人間側は動物を理解してくれていると思ったが。なかなか全部の人間が動物と対等に、共存するなんて受け入れられる訳がねぇ。特に今回のあの犯人は、学生の時から動物虐待が癖だったようだ。虐待していた動物と対等に生きていけだなんて、そんなやつに理解ができるとは到底思えねぇな」

メガネを拭き、窓に向けるようにして光にかざし、レンズに曇りがないか確認しながら斎藤は言う。





そう、半年前の話である。











ウウー・・・ウウー・・・・


都会に鳴り響くサイレンの音。

そして、都会の空に似合わない黒煙が立ち上っている。


渋谷に立ち並ぶ高層ビルの1つからその黒煙は出ていた。

何十台の消防車がきても、高層ビルの上部で起きている火災の消化はできない。来るだけ無駄になってしまっている消防車の中に、斎藤と虎雪の乗ってきた小さな車がぽつりと佇んでいた。


ビルは爆破をされており、出入り口を封鎖されている。幸い、ビルの開店時刻を過ぎたばかりだった為、客入りはまだ少なく殆どの人間と動物が避難できていた。そう、殆どである。全員ではない。


このビルは他のビル、商業施設に比べて”動物”が多く働くことで有名なビルだった。


最近では少なくなり始めた人間と動物間のいざこざだが、全くないわけではない。

しかし、このような爆破規模はしばらくなかった為に油断をしていた。

動物職員が多いこのビルは、国や経営者が動物達の働く場所として多くの仕事を提供して自立を促進していた。動物達も生きていく為にお金が必要でみんな喜んで就職をした。


動物嫌いな人間の恰好の餌食だ。


そう思いながら斎藤は虎雪と事件現場付近に到着したが、身動きが取れない。

ビルの中から避難してきた人達へ、ビルに入った時の同伴者がいるか確認をしている先発部隊からの報告を待っている為である。


そこでやっと待っていた報告が入った。


ジジ・・・ジジジー・・・

「爆破されたビルから避難してきた方達はビルから一旦距離をとりました!!

 同伴者の確認を行いました所、子供・・・赤子が一人取り残されているという女性が1人います!!」


無線を聞いた斎藤はすぐに虎雪に指示を出す。


「須藤!!ヤツを出動させる!!総理に許可を取れ!!」

「ダメです!!念の為と思ってさっきから総理宛に連絡してますが繋がりません!!」

「クソッ!!」

「親分、今日登庁してないんです!!昨日深夜までは都庁に居たってセキュリティの記録はあったんですが・・・」



千代子の出動は、本人の意思か、または総理大臣の出動命令がないと事件現場や会議などの公の場に出ることはない。よって、本人が事件発生の情報を仕入れる事が出来なければ現場に来ることもないのである。

現状、千代子にも連絡が取れていない今、このテロを知っているのかも不明なのである。今日は東藩の出勤場所である都庁にも顔を見せていないため本当に所在不明だ。



無線はこちらに関係なく続く

「---藤さん!斎藤さん! 取り残されている赤子救出に我々が向かいます!!宜しいですか?!」

「馬鹿野郎!!そもそも出入り口が爆破されてて人が通れる幅、入ったとしても通路も何もあったもんじゃないだろう!!」

「じゃあどうすればーーー」

無線の先で、自身達がビルに救助に向かうといった隊員に対して止めた斎藤の声が聞こえたのか、赤子の母親であろう女性の悲鳴が聞こえてきた。

「あああああーーー!!子供がっ・・・!!トイレに!!トイレのベビーベットに子供がいるんです!!どうして!!どうして助けに行って貰えないんですか?!」


女性の叫びに斎藤も怯む。爆破されてからもう45分経過している。

建物内の一酸化酸素ももう蔓延している。ベビーベットに寝かせた子供であるからして床から1メートル付近。もう限界だと隊員を向かわせる許可を出す為無線を口に近づけた斎藤に遠くから悠長に話しかける一匹の動物がやってきた。



「おーおー!!っんだよ!!人間が通れる隙間がねぇから俺を呼ぼうとしてたってっ事かよ。





ったくよぉ!!」




そう、千代子だ。




てんやわんわでパニック状態になっている事件現場周辺、タバコを吸いながらハクビシンが二足歩行で向かってきた。

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