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千代子さん 〜動物職員と人間職員の勤務報告書〜  作者: 杉崎 朱
西藩 出張篇

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13/15

千代子さん 13話 〜西藩篇 6話〜

貴方は、知能と権利を持った動物と、対等に、そして仲良く生きる自信はありますか?


+++++++++++++

「・・・・・・・センプウキ?」

「おい、タコ。出し忘れただろお前」

「ずううみいいまああせえんーーーー!!」

5月某日ーーー京都


PM 14時37分

京都府 国立図書館前




「はぁ?」


千代子はこれ以上ないというくらい大きい口を開けて言った。

「だからぁ、その一番リーダーっぽいマッドサイエンティストが脱走だか失踪したんだかなんだかで行方不明なんだってば」

国領が千代子に言った。

「神宮、どういうことだ」

「そういうことだ」

「いや!話になんねぇよ!!」

ビシッと短い前足でツッコミの型を取る。


「あれですか?捕まりそうになったから逃げたとか?」

達博が相変わらずの小さい羽でパタパタと宙に浮かびながら今度は壱塚に聞いてみた。

「いえ、一度逮捕しました。それなのに姿を消したのです。自分で脱走したのか、はたまた誰かが逃したのかが全く分からないのです。マッドサイエンティストの自宅には警備を立たせていましたから自宅に一度も帰っていないのも確認済みです。分からないなんて事、ありえないのですが。今でも調査中です。

ここ最近ですが、動物と揉め事を起こして逮捕された人間、または逮捕されそうな人間が失踪するケースがこの件を含め京都内だけで3件続いてます。反対派が何処かで基地を作って次の企てをしているのかなどは分かりませんが。」

「最特公、そんなにマッドの話し聞きたいなら、逮捕してすぐに話しした時の映像があるみたいだから貰っとく?アタシたちだったらデータで送ってくれると思うから。ていうか、送らせるし。」


「・・・あぁ、見る。戻ったらな。とりあえずは市中周りを続ける」


その後千代子達は問題が起こった京都市内を廻り、報告書類と現場の照らし合わせを数件行った。報告書と現場の事故後の状態が一致し、特段報告書の制度に問題がないと踏んだ千代子達は府庁に戻る。市中周りの間に国領に要請させたマッドサイエンティストの動画を見始めた。



ぼりぼり・・・

ガサガサ・・・

ぼりぼり・・・




府庁、西藩拠点にて大きなスクリーンの真前中央で位置どりをして食い入るように千代子は聴取の映像を見ている。

「イワシ煎餅食いながら画面にも食い付くのか」

国領がスクリーンの前で大きな袋に入ったイワシ煎餅をもの凄い勢いで食べている千代子に向かって言うが、千代子は集中していて国領の声も姿もまるで認識していない。



画面に映った男は眼鏡をかけたいかにも学者という風貌の男だった。細身で研究に明け暮れている為日光に当たっていなさそうな青白い肌、痩せこけた顔に、怒りの感情は伝わってくるのに精気のない目をしている。


『なぜ分からないんだ!!あの場所には大事な資料が山ほどあるんだ!国の重要文献だってあるのにどうして動物を入れる!!何かあったらどうするんだ!今すぐ動物を出せ!!!』


過去の映像だというのに、男の気迫にやられたのか、達博がオドオドしながら言う。

「なんか・・・この人の目、危ない感じがしますね。薬やってそうな・・・」

「国領、どうなんだ。薬か?それとも洗脳されてたのか?」

千代子は達博の言葉を聞いて国領に問う。

「いや、薬の反応は出なかったみたいよ。でも、もうなんかすごく怖い感じだよね。聴取がこんな感じだから、この翌日に心療内科に連れて行こうとしてたみたい。この時の時刻が夜の9時ね。とりあえず一晩拘置して病院にって予定だったところ、翌朝の7時には拘置所から姿が消えていたとさ」



『そもそもなぜ動物に権利を与えた!!何の為にだ!ただでさえ物資も食料も今後の不足が確定しているんだ!動物に好きに生きられたら人間の自由の範囲が狭くなるだろう!!良いのかよ?!仕事だって動物が警察官になってみろ!!ゴリラの握力!像の図体の大きさ!!腕力のない人間の警察官は残れないぞ!!!

ほとんど確約状態だった職がなくなるんだ!幸せになれる可能性が減ることになぜ疑問を持たずのうのうと受け入れているんだ!!動物よりバカなのか?!』



発狂している男の映像を千代子はじっと黒い丸い瞳で見ながらボソボソと話す。

「まぁ、こいつの言いたいことはよくわかるよ。何回も言われてきた事だ。ただ、この精神状態のヤツが、拘置所から一人で脱走できるとは思えねぇな」

「なんでですかい?」

達博が宙に浮きながら全身を斜めに回転させながら千代子に聞く

「冷静な判断と冷静な行動が取れる精神状態ではないと見た。上手く脱走なんか出来やしないさ。バタバタ走り回って見つかって戻されるのがオチだよ。多分第三者が逃したと見た。ちょっとこいつのことは引き続き探してくれ。逃した奴も一緒にな」

「あいよ!任せといて!京都の警察も優秀だからね!」

国領が敬礼をしながら千代子に返事をした。








同日ーーー東京


PM 18時45分

東京都 都庁



「え?京都行ってまだ事件に遭遇してないんですか?」

都庁、東藩の執務室のデスクから電話をする男がいた。

名を《宇美乃ウミノ 蛸蔵タコゾウ》と言う。


「はぁ?京都行ったからってタイミングよく事件が起こってたまるかってんだ!このタコ!』

「はい!」

「今の”タコ”はお前の名前を呼んだ訳じゃねぇよ!!」

「え?!違うんですか?!」


聴取の映像を見た部屋、同じ位置で千代子と蛸蔵の噛み合わない会話が繰り広げられる。千代子の端末でスピーカー機能を使い会話をしているため、虎雪も達博も蛸蔵と会話ができる状態である。

「蛸蔵さん、今日はどんな仕事されたんですか?」

このままだと意味のない会話が続きそうだと判断した達博が、蛸蔵に本日の業務内容を聞いた。

「今日は斎藤さんの手伝いですよ!最近過去の事件の報告書を見返すことが多くて、たくさん重いファイルが執務室にあったのでそれを倉庫に戻してきました!」

「それは重い作業をお疲れ様でした!本日は燃えないゴミの日でしたが、先日お願いしてました壊れた扇風機は出して頂けましたでしょうか?」

続けて達博が蛸蔵に聞く

「・・・・・・・センプウキ?」

「おい、タコ。出し忘れただろお前」

「ずううみいいまああせえんーーーー!!」


千代子の端末のスピーカーから割れた蛸蔵の声が響く。


「いいですよ、また来週僕が出しますから。それより、他の方は今何してるんですか?城戸さんや紅葉君はもうおかえりですか?」

「いえ!斎藤さんも城戸さんも紅葉君も皆んなまだ勤務中ですよ!なんかついさっき無線で事件が入ったみたいで三人とも飛び出して行っちゃいました。」

「飛び出していった?動物事件って事か。何があった」

千代子が再び会話に入って蛸蔵に聞く

「それが、俺今日無線つけてなくてなんの事件だったかさっぱりなんですよ〜!みんな無線聞くなり血相変えて行っちゃったんで!斎藤さんが、俺には留守を頼む!!って言ってたので状況は全く分からなかったんですけどとりあえず元気に返事だけはしておきました!」

「そうかよ・・・」


千代子は呆れながら何も言わずにそのまま通話の終了ボタンを押した


「あ、そうだ!千代子さんそういえば冷蔵庫の納豆ー」

ブツッーーーーー


「・・・あれ?賞味期限切れてたから食べておきましたって言おうとしたんだけどな?切れちゃった」





「兄貴!!そんな突然切るなんて!!?」

「どうせ納豆の賞味期限が切れてたから食べておきましたって話だろう。それより斎藤たちが飛び出して行った事件の方が気になる」

「・・・まぁ、そうですね」

「おい、神宮。東京でなんかあったみたいだからちっと電話するわ。今日はもう解散で良いだろう」

「構わない」

「りょーかいっ!っと!」


千代子は神宮が本日の解散を了承した瞬間に端末のボタンを押して斎藤に電話を掛ける。


「「じゃぁ、最特公、お疲れ様でした」」

「じゃぁ〜ね〜!また明日ね!」


西野と壱塚が同時に、その後に国領が元気に挨拶をして彼らは部屋を去る。

部屋の鍵はオートロックで、室内灯は人感センサーの為、退室時の確認や戸締りの心配はないのだが、神宮は残って東藩に電話をする1匹と1人と1達博を少し離れたところから椅子に座って見ている。




プルルルルルル


プルルルルルル



部屋が沈黙している。重い空気ではないが、緊張感が少し漂っている。




プツッーーーーー

「ーーーーーはい!斎藤の端末!!城戸です!!」

「あ?城戸?俺だけど」

「すみません、オレオレ詐欺なら今振り込んでる時間無いんで!」

「お前のその下り本当イラねぇよ!!ずいぶん余裕そうだな!緊急じゃねぇのかよ!!」

「お疲れ様です。緊急事態ですよ!もうびっくり、人間が動物職員を人質?物質?にとって逃走中!居場所が不明!」

「逃走中って。犯人ロックオンして街頭カメラで追跡すりゃ良いじゃねぇかよ。モニタリング班は何やってんだ?」

「そうですよ!モニタリング班に頼めばもう捕まえたも同然!絶対逃げ切れませんからね!」



千代子と達博の言うモニタリング班とは、街頭に設置された膨大な数量の監視カメラで犯人を追っていくプロフェッショナルチームである。犯人の顔写真が有れば数分で居場所を割り出す。身元が判明すれば、国民のデータを基に、街頭カメラで一致する顔をシステムが判別して探し出す高性能のプログラムを開発した班である。





「その!!モニタリング班の人間職員が犯人なんですよ!!!」






京都にいる東藩の1匹1人1達博は言われた言葉を理解するまで少し時間を要した。







「はぁあああああああ?!?!?!」






千代子の大きな声は、斎藤の端末から割れた音で発せられた。


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