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千代子さん 〜動物職員と人間職員の勤務報告書〜  作者: 杉崎 朱
西藩 出張篇

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千代子さん 12話 〜西藩篇 5話〜

「そうか、お前のようにマッドな性質の科学者か」

「アタシ科学者じゃないよ」

「突っ込むのはそっちかよ」

+++

言葉を話せるようになった”動物”と人間が共存していく世界。

地球に落ちた小さな小さな隕石から発する特殊磁場の影響で動物が言葉を話せるようになった。

また、磁場の影響か、高い知能をもったハクビシン《千代子ーセンダイジ》と、愉快な仲間達の現代ファンタジー

5月某日ーーー京都


PM 13時45分

京都府庁内


前日の食事会という名の飲み会は大いに盛り上がり終了した。

本日は14時に府庁集合。後に京都の治安調査に出かける予定の千代子は只今絶賛爆睡中である。


「兄貴〜!起きてくださいよー!そろそろ移動しないと間に合わないですよ!エレベーターの数が少ないから待たないと行けないかもしれないんですから」

「ウプッ・・・動物は二日酔いがなければ良いのによ・・・」

黄色い丸い球体の達博に千代子は起こされた。前日のお酒が残っているようだ。

千代子がいるのは府庁の休憩スペース。寝てしまっていたのである。府庁で待ち合わせなのでその点は良かったのだが。


「さて、今日は治安調査に出かけますよ!」

「・・・天然記念物だか世界遺産だかなんかそういったもんは見ねぇかんな」

「・・・ううう」

元気いっぱいな達博の後ろをよろよろと千代子が歩きながら、今日は治安調査予定地以外を回る気が無いことを伝えると、前を浮いていた黄色い球体から涙が流れていた。

「大丈夫、にしん蕎麦だけはきっと・・・にしん蕎麦は・・・」

えぐえぐと泣きながら、どうしてもにしん蕎麦だけは食べたいらしい。

「・・・今日は虎雪も二日酔いだろうから、晩飯は軽くで良いだろ。蕎麦にするか。にしん蕎麦」

「あああああああ兄貴ィイイ!!!」

右の前足で頭の後ろをぼりぼりと掻き、中々開き切らない黒い本来はまんまるの目を半開きであくびをしながら達博の思いを汲んで本日の夕飯を蕎麦に決めた。達博は、最終日に食べると言われていたが、旅にトラブルは付き物。もし何かのトラブルに巻き込まれたり、または予定が変更になって食べられなくなる可能性が・・と心配をずっとしていたのである。それが今晩食べられるのである。元気になるのである。


そのまま歩いてエレベーターホールに着いたら、運よく目的の階に行くエレベーターが到着してスムーズに向かうことが出来た。





「親分〜!!おっはようございますー!!」

「・・・おい虎雪。なんでお前そんなに元気なんだよ二日酔いはどうした」

「私、二日酔いになったことないんです!」

「・・・そうかよ」

まるで、昨日は酒など一滴も飲みませんでしたという位元気ハツラツの虎雪が千代子を出迎えた。その隣にいるのは西藩の4名だが、誰一人二日酔いなどの体調不良と伺える者はいない。

「え?お前ら何普通の顔してんの?西野、お前昨日飲んでたの酒だよな?あれ、お前一人で抱えて1本飲み切ったのは水瓶でなくて日本酒だったよな?おい、神宮、こいつ人間じゃなかったのか?」

「西野はいくら飲んでも酔っ払わないし二日酔いにもならない」

「西野化け物!!!」

「化け物だなんて。最特公、多分どっかの神経が切れてるんですよ」

「怖いような、羨ましいような」

「そうすると、二日酔いは兄貴だけですね・・・」

「人間ってバケモンなんだな・・・」


そこに、二日酔いの方には凶器と言える騒音が口を開いた。

「最特公!!おはようーーー!!さぁ今日は治安調査だよ、行くよーーー!!」

「ダァーーー!国領ウルセェよ黙れよ頭に響くだろうが!!!」




「調査書も見たが、今回西日本では人間対動物の問題、事件が少なかったな」

千代子が歩きながら市中を見回しながら行った。

「奈良はさ、鹿が普通にその辺にいるでしょ?昔からいるし、鹿は悪さするわけでもないし。むしろ喋れて嬉しかったけどね。動物に慣れてるんだよね。東日本がどうだかわかんないけど、西日本は山とか森とかそのままの所に住んでる人って多いからさ、日頃から動物を目にしてたんだよ。だから話すようになってもそんなに怖くなかっただろうし。むしろ話が通じるようになって楽しかったと思うよ。田舎は仕事とか地位とか関係ないから」

国領が千代子の質問に返しながら近くを通る小学生に手を振っている。小学生はこの赤いコートを着ている国領達を知っているのだろう。何をしているのかはイマイチわかっていないだろうが。と思いながら千代子は次は神宮に聞く。

「随分近所の住民と仲が良いんだな。子供が手を振ってくるなんてな。それだけちゃんと外に出て馴染みがあるんだな。あと、受け入れられてる」

「受け入れてくれているのは半分以下だ。まだ理解はされていない。国領は良くも悪くも、物事の良いところしか目に入らない習性だ。昨日から良い話が出ているのはその習性のせいであって、悪い話がないわけではない。さぁ、ここだ」


神宮が言って止まったのは国立の図書館の正門だった。そう、正門だった場所である。綺麗に門が破壊されているのである。破壊された瓦礫が近辺になく綺麗に清掃されていることから、破壊されたのは少し前であることが分かる。瓦礫は撤去されているが、門の修繕はされていない。残っている図書館を囲む赤煉瓦に触れながら壱塚が話し始めた。


「ここ、国立図書館は、動物職員を迎え入れていました。迎え入れてから、司書や歴史関係の方々から”神聖な本に動物を触らせるな”とずっと反対はされていました。それが行き過ぎて暴動を起こそうとしたのです」

「”起こそうと”?もう門が破壊されてんだ、立派な暴動だろうが」

「まぁ、本が大事なので流石に建物の破壊はしないと踏んでいましたが、動物職員は快く思わないでしょう。一旦他の勤務場所を提案して今はこの図書館は人間しか働いておりません」

表情の読み取れない顔で壱塚は言った。動物達の事を考えると心が痛むが、本を宝と思っているの人からするとそこに動物を置くのは気が気でないのだろうと双方の気持ちを考える。

そんな壱塚の横顔を見ながら西野が続ける。

「最特公、ここの動物職員は基本清掃がメインで、本には触れないって誓約書まで書いてるの。それでも人間側が納得しなくてね。爪の伸びている動物が触ると本が傷ついたり破れたりして劣化するって聞かなくて」

「みんな過去の文献に目が無いマッドサイエンティストがやってるって、この間ここ通りかかった人たちが言ってたよ!」

「そうか、お前のようにマッドな性質の科学者か」

「アタシ科学者じゃないよ」

「突っ込むのはそっちかよ」


途中から国領と軽口を叩き始めたが、《門が壊されただけで済んで良かったね》という簡単な話ではない。このような事件こそが、今まで起きている人間と動物の揉め事、争いの原因なのである。


千代子は、図書館の外壁と歩道を挟んで向かい側にある綺麗に整備された花壇の渕に飛び乗って座った。他一同も交通の妨げにならないように千代子の近くに固まった。

全員で図書館を見上げた。



5月の日差しは熱く肌にジリジリと刺さるが、風は些かまだ冷たい。風が吹くと、座っている千代子の頭にチューリップがふわふわとぶつかる。ぶつかると花の香りがする。チューリップの香りを肺いっぱいに吸い込んでから千代子は言った。




「じゃぁ、そのマッドサイエンティストの言い訳でも聞きに行こうじゃねぇか」

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