煙草の匂い
ふわり。
眠っていると、微かな冷たい風と煙草の匂いがして。
瞼をゆっくりと開き、ベッドの上で寝返りを打つ。
すると、隣で寝ていたはずの彼が居ないことに気づいて。
もそもそと体を起こし、ベランダの方を見る。
ゆるやかに靡く白いレースのカーテンの向こう。
ベランダに浮かぶ、シルエット。
彼だ。
ベランダの手摺壁に凭れながら、煙草を吸っているようだ。
煙草の匂いが、ベランダからふわりふわりと漂ってくる。
私は昔から、煙草の臭いが苦手。
でも、彼の煙草の匂いだけは許せる。
彼が煙草を吸うたび、彼がそこにいるって気づけるから。
ベッドから降りて彼のところに行こうかなと思った…けど。
ゆるやかに靡く白いレースのカーテンの向こう。
月明かりに浮かぶ、彼のシルエット。
ベッドの上でアヒル座りをしながら。
私は静かに、煙草を吸う彼の後ろ姿を見つめていた。