不思議なスキル「スキル化」を使って英雄を目指す
今日は顕現の日。今年15歳になる俺、アクトは遂に念願のスキルを授かる事ができる。
これでチートスペックのスキルを貰って無双して、英雄視されて金銀財宝に女の子からちやほやされるんだ!やっと俺の時代が来たぜ!
「グフフフフ…」
「どうしたのいきなり変な笑い方して?また変な事考えてるの?」
おっとあまりの喜びに笑いが漏れてしまったようだ。しかし変な事とはひどい言い草だな、俺の崇高な展望を語ってやらねばな!
「変な事なんかじゃない。俺のこの先の輝かしい栄光を思うと少し笑みが溢れただけだ。仕方ないから聞かせてやろう。」
「やっぱり変な事考えてた。そんなの聞かなくて良いよーだ。」
全く失礼な幼馴染だ。俺がスキルを手に入れた暁にはきっとギャフンと言わせてやるぜ。
「ほら行くぞ!早くしねぇと遅れちまうだろ!」
「そういうけどさー、アクトは家の手伝い終わったの?」
「もちろん昨日のうちに終わらせたさ。」
「じゃあ私のとこ手伝ってよー」
「全く、仕方ないなあ。」
本当に仕方ない奴だ。さっさと手伝ってやってカノンには俺の輝かしい栄光の1ページをみせてやらないとな!
カノンの手伝いも終わって一息つく。
「ありがとうね、なんだかんだいつも手伝ってくれて。」
「大した事じゃ無いしな。それにお前には俺の栄光を見届けて貰わなきゃな。」
「全くもう、わかったよ。ちゃんと横で見てるから。」
よくわかってるじゃないか。
「さて、そろそろ行くぞ。」
「そうだね、行こっか。」
俺たちはスキルを授けてくれるビクテム教会に向かうのだった。
―――あれから3年、俺は冒険者として各地を巡って依頼をこなしていた。
貰ったスキルはスキル化とか言うなんかよくわかんないスキルだったけど、このスキルで手に入れたスキル達が強くて俺は着実に輝かしい英雄への道を進んでいた。
ある時は村を襲う魔物達を退治して、ある時は病気の子の為に厄介なダンジョンをクリアしてきた。またある時は迷い子を探したり…あれ?
いやいや、みんな困ってたのを助けたしめっちゃ感謝されたし英雄に向かって着実に進んでるはず!…報酬が大した額じゃかったとかは些事だ、英雄たるには多少の利益度外視した人助けも必要だろう…多分!
そんなこんなで今日も依頼を受けに俺はギルドに向かう。さて、今日は何の依頼を受けようか?流石に手持ちが寂しすぎるから今日は割のいい依頼を受けないとな。
そう考えながら依頼を眺めていると、横から誰かに話しかけられる。
「あの…私とパーティーを組んでくれませんか?」
「ん、君は?」
後ろを向くとどう見ても幼げな少女がそこに立っていた。ぱっと見13歳くらいで、どう考えてもまだスキルも持って無さそうなのに何でギルドなんかに居るんだ?とりあえず、そんな子とパーティーを組む訳にはいかないな。
「悪いけど、まだスキルも貰ってないような子と組む訳にはいかないかな。それに君みたいな子が不用意にギルドなんて出入りするもんじゃないぞ。」
「…私、15なのに。」
え?…いやいやいやそんな訳ないでしょ。どう見たって15歳には見えないって。詐称かどうか、ギルドに登録してるか確認すれば一発でわかる。
「なら、とりあえずギルドカードを見せてもらっても良いかな?」
まあ出せないだろうな。きっとまだ15になんかなってない
「その…これで良いですか?」
…偽物じゃない…よな?って事は本当に15って事!?だとしても何でギルドの依頼板を眺めてる俺なんだ?普通パーティーを探すってなったらもっとほら、酒場とかパーティー募集とかあるじゃん!
「えっと、何で俺なのかな?パーティーを探すならもっと他に良い方法があるだろ?」
「それは…酒場は未成年と間違われて追い出されちゃったし、それになんか雰囲気が怖かったし…募集も特に入れそうな所が無くて…」
確かに、ちらっと今やってるパーティー募集を見るとその殆ど全てがランクいくつ以上とかの中堅以上を募集してるものだった。
とはいえなあ、だからと言って俺に初心者をほいほい引き受けてるような余裕も無いんだよなあ。そう考えながら頭をかく。
「お願いします!他に当てがないんです…」
…仕方ないなぁ。まあ困ってる奴を助けるのも英雄の務めだからな。
「まあ、今回だけなら良いぞ。」
「ありがとうございます!」
「それで君の名前は?俺はアクトだけど。」
「私はミセルです。」
とはいえ、わざわざ初心者の為に易しい所に行きたくはないな。何か丁度いい依頼はっと…
「おっ、これは…」
このダンジョンは比較的難易度緩めだけど人気のない穴場だったはず…それに報酬も悪くない。
「これにしようか。」
「あっはい…お任せします。」
そんなこんなでとりあえず、ギルドから出ることにする。
「それはそうと、ミセルさんはどういうスキルを授かったんだ?」
うっかりしてて聞くのを忘れていたけどとても重要だ。攻撃系なのか防御系なのか、はたまた補助系なのか。これによってできる動きにかなり違いがある。
「私はその…結界みたいな感じの…です。」
「防御系かな?なら丁度良いかな。」
ちょっと歯切れが悪かったのが気になるけど、防御なら役割も被らないし丁度良いな。まあスキル化に関しては正直よくわからなくて戦闘で使えたもんじゃないんだけど。
「そ、それでアクトさんのスキルは何ですか?」
「あー貰ったスキルは正直ちょっとまだよくわかってないんだけど、他にスキルがあってそっちは攻撃系だね。」
「そ、そうなんですか…良かった。」
スキルを聞いてほっとしてるのを見る限り、スキルの系統が被るのを気にしてたのかな。特に低人数のパーティーだとその傾向が強いしやっぱり気になるもんなのかな?
正直あんまり気にした事ないってかスキルが謎すぎてそれどころじゃなかったっていうね。
そんな事を話しながらダンジョンに着いた。道中でも何度かモンスターと遭遇して多少連携の兆しも見えてきたところだ。
「ここが目的のダンジョンですか…なんだか不気味です。」
「まあ確かにちょっとな、人が来ないってのも大きいだろうけど。」
女の子にはちょっと怖かっただろうか、まあそんなことを言っていたらとても冒険者なんてやってけないから慣れるしかないな。
「さて、ダンジョンに入るぞ。」
「…はい!」
ミセルさんはダンジョン自体初めてだろうから緊張してたけど、俺にとっては何度か来ているダンジョンだ。懐から前来た時に描いたマップを開く。
「…やっぱり、このマップはもう使えなさそうだな。」
ダンジョンは段々とその姿を変えていく。人の出入りが激しい所だと極めて緩やかで、数年前のマップがまだ使えることも多いのだが、このくらい人の出入りが少ないと6ヶ月もそこそこにマップは役に立たなくなってしまう。
この辺が初心者に優しくない上に低層帯しかなく中級者以上にとって旨味が少なく、また出てくるモンスターの強さもまちまちなのが厄介だ。
「人気の高い所により多く人が集まり、こういう少ない所はどんどん過疎になる。ダンジョンも世知辛いよな。」
「…?どういうことですか?」
「おっとごめん、ただの独り言。」
そうこうしながら探索してるうちに、ダンジョン内で初めてモンスターに遭遇する。幸いあちらからは気づかれていないようだ。
「ミセルさん気を引き締めて、今からあそこにいるモンスターと戦うよ。」
「はい!」
モンスターは3体、あれはゴブリン系だな。群れで行動するのが厄介ではあるけど、飛び道具を持ってないし丁度良いかな。
「じゃあ俺がまず引きつけるからミセルさんはタイミングを見てスキル使って。」
「わかりました。」
モンスターの1体に忍び寄り、剣で突き刺す。ここを刺せばゴブリン系は基本的に一撃だ。
「グギャアアアァァァア!」
「ギャギャ?」
「グギャ!」
すぐに剣を抜き一目散に退く。飛び道具を持ってないのは把握してるので後ろ向きに下がっても大丈夫だ。足音から、ちゃんと追ってきてるのがわかる。
「ミセルさん!」
「はい!…ステイシス!」
ミセルさんを中心に広がった透明の膜のようなものが、モンスターにぶつかるとモンスターは動きを止めて固まった。
「止めを刺して!」
「え、えい!」
ミセルさんがモンスターの心臓部に短剣を刺す。横のもう1体は動き出す前に俺が仕留めた。
「よし、ちゃんと倒せてるし良いね。そしたら先に進もうか。」
「はい。」
そうこうしながら着実に先に進むのだった。
…そう、思っていたんだが、
「グオオォォォォォオオオオオオ!!」
あれからまた何体かモンスターを倒しながら進んでいる道中で、明らかに人のものではない雄叫びがダンジョンに響いた。
「なっ、何ですか今の!」
ミセルさんがそう聞いてくるけど、このダンジョンにこんな雄叫びをあげるモンスターが出るなんて聞いた事がない。
「…わからない。いや、もしかして…」
ダンジョンにまつわる噂話の1つ、中級冒険者パーティーが全滅した話。見つかってしまったが最後大きな声と共に壁さえ突き抜け襲ってくるモンスター…
まさか、あれが…
「危ないっ!」
無防備なミセルさんを押し退け剣を構える。
瞬間、壁を突き破って何かが突っ込んでくる。それになす術もなく俺は吹き飛ばされた。
「ぐがっ!」
壁にぶつかり衝撃で全身が悲鳴をあげる、だが幸いにもまだ骨が折れた訳じゃないようだ。
そこで俺は初めて、そのモンスターを目にすることになった。
―――それは、本当に化け物としか言いようの無い異常な見た目をしていた―――
牛とも馬とも似つかない獣顔に不気味なほど紫の体躯、4本の足を持ちながら両腕を持ちその右手には…いや、あの大振りの棍棒に見えるものはその右手と一体化している。
その理解の及ばなさから呆然と眺めるがままとなっていたが、ソイツが動き始めたところで俺は我に返った。
それと同時に痛みが戻ってくる。それを食いしばって堪えながら、あれを使う事を決意する。
「ミセルさん!離れて!」
「…あっ、ぁあああぁぁぁ…」
…だめだ、ミセルさんには聞こえてない。俺が引きつけるしかない!
「来いよ化け物!俺はここに居るぞ!」
「グオォォ…」
こっちを向いた。いいぞ、そのままこっちに来い!
「グォォオオオオ!!!」
…これだけ離れれば巻き添えにはならないだろ!
「くらえ!スキル………………
……カノン!」
そのモンスターはその輝く光線に貫かれ、上半身と下半身を分断され絶命した。
…それを見届けた俺は、そのまま意識を失った。
…目が覚めると、ミセルさんが手当てをしてくれていた。
「ああ…」
「あっ…だっ…大丈夫ですか?」
「うん…それより、ダンジョンの中でよく無事だったね?」
「それが…」
ミセルさんの向く方に目をやると、そこにはまだあのモンスターの亡骸が残っていた。
「あれのお陰か、モンスターが全く近寄ってこないんです。」
「成る程、アイツの死骸が放つ魔素が、他のモンスターに近寄らせないのか。」
「それと…ごめんなさい。私、何も動けなくなって…」
「まあ、よくある事だよ。流石にこんな過酷な事はまず無いだろうけどね。」
俺も警戒が甘すぎたし反省だな、とりあえず今日は生き残れただけ御の字だろう。
「とりあえず今日はこのままダンジョン内で野営をしよう。正直まだ十全には動けないし。」
「はい!」
そう言いながらも野営の準備はミセルさんに任せっきりで、俺は周囲を警戒しながら体を休める他なかった。あの死骸がどれだけ持つかわからない以上、いつ戦闘になっても良いようにしないとな。
焚き火ができる様な木片がダンジョン内に無い以上、保存食を切り分けて食べるだけの夕食をとりながら、おもむろにミセルさんが聞いてくる。
「その、不躾な事を聞くんですけど…あのスキルって本当に後天的に手に入れたスキル何ですか?…私、あんなスキルがあるなんて聞いた事が…」
まあ、気になるよねそりゃ…まあ、隠してる程のもんじゃないし話してもいいか。
「実は俺も、このスキルをどういう経緯で手に入れたのか、覚えてないんだ。」
「えっ!?」
「俺の貰ったスキルを使って手に入れたって事は分かるんだけどそれ以外がさっぱり。」
「なら、使ってみれば分かるのでは?」
「そうなんだけど、なんかいつも使えなくてな…ってあれ?」
「どうしました?」
スキルを確認するとスキル化が発動出来る様になっている。今までずっと使えなかったのに、何で今?
「…何でか分からないけど、使えるようになってる。」
「えっ!?じゃあきっとスキルが増やせるって事じゃないんですか?それに、使ってみれば何が起こるのか分かりますよ! アクトさんが気を失ったとしても私がいますし!」
「確かに…じゃあいっちょやってみるか。」
スキル発動、っと…対象を選べって…なんかミセルさんしか選べないんだけど。
「うん…どういう事だ?」
「どうしました?」
「いやなんかね、対象に選べるのがミセルさんだけっぽい。」
「えっ?…でも一度発動したスキルって…」
「うん、一度発動したスキルは対象を失わない限りキャンセルできない。」
「じゃあやっぱりもうやるしか無いですね。…私がスキル増えても許してくださいね?」
「それは良いんだけど…」
なんか重要な事を忘れてる様な気がする。でももうやるしかないんだし気にしてても仕方ないよな。
「よし、じゃあ使うぞ。」
「はい…あれ?なんか…これ、あぁ…」
ミセルさんに深いモヤがかかり姿が見えなくなる。そこで俺は忘れさせられていたスキル化の効果を思い出す。
「…ああ!!!っつキャンセル!止まれ止まれ止まれぇ!」
モヤを追い払わなきゃ!早く止めなきゃミセルさんが!
必死になって払ったモヤの先には……
……もうミセルさんは跡形もなく消えていた、残ったのはバッグと…服と…食べ途中だった干し肉だけ…
「ああ……ああああぁぁぁぁ……」
なんで今の今まで忘れていたんだ?俺は前にも知っていたはずなのになんで!?
「なんで…なんで俺は……ぁぁぁぁあああああ!!!!!」
…目が覚めるとダンジョンの中だった。あれ…ああ昨日アイツを倒してそのまま野営したんだっけ?しかし熟睡とは全く俺も不用心だなあ。
…ん?何で俺は女ものの服なんか持ってるんだ?…あれ?アイツに殺された冒険者の物が近くに落ちてたのかな?
とにかく、一応受けたミッションがあった訳だしとにかく終わらせて報告しないとな。あんなの俺みたいなソロじゃないと被害が拡大して大惨事間違いなしだ。
…誰か分からないけど軽くお墓くらい立てて置こうか。まあダンジョン内だから長くは持たないだろうけど、気持ちだけな。
さて、行くか。
ここまで読んでくださりありがとうございました。してやられたとか思ってくださればこちらとしては幸いです。これを分かってて読み始めた方は、流石ですね。