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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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里帰り1


「えっ!?ビルナーレさん、ジュネさんと結婚されるんですか!?」

「うん。お陰様でね」

「わぁー。お二人とも、おめでとうございます!」

「ありがとう、エルナさん」「えへへ。ありがとうございます~」


ギルドの査察が行われた日の翌日。

ビルナーレさんとジュネさんにお話をする時間を作ってもらった私は、ラミアノさんに付き添ってもらい、本館の空き作業室で二人と面会していた。

そこで二人が近々結婚することを聞いたのだ。


ビルナーレさんは副長の息子。長男だから、いわば跡取りだ。

対するジュネさんは孤児で、副長の実家で身請けされた使用人。

つまり『身分違いの恋』を成就させたということになる。

きゃー素敵っ!


世の多くの女性達が好む『身分違いの恋』。御多分に漏れず私も好物である。

ビルナーレさんとジュネさんの幸せをお裾分けしてもらった。そんな気分だ。


「自分が長男ということもあって、ジュネとの結婚については幾つか条件があったんだけど、その中の一つに職場での立場を固める、というのがあってね」


ビルナーレさんは王都冒険者ギルドの職員となって4年目。繰り返しになるが、彼の父親はここオルカーテ冒険者ギルドの副長だ。

そして今日面会して、会話の中で初めて知ったこと。副長のお父さん、つまりビルナーレさんのお爺さんも王都冒険者ギルドにお勤めなのだそうだ。

三代に渡って冒険者ギルドに勤める家系ということになるが、そのお爺さんがとても仕事に厳しい人らしい。

ビルナーレさんはギルド勤めが決まったとき、お爺さんから『家柄ではなく仕事の成果で立場を作れ』と言い渡されたという。

曰く、『平凡であっても構わないが、無能であってはならない』とのこと。

なるほど。厳しいお爺さんだ。孫相手でも容赦ない。


「今回の戦争で通信による仕事の成果が認められ、結果として私の職場での立場が向上・・・要するに出世したので、ジュネとの結婚について祖父から許しを貰えたんだよ」

「私はずっと、二番目でも構いません、って言ってたんですけどね・・・」


流石に詳細は聞けなかったが、幾つかの情報を繋ぎ合わせて想像するに、ビルナーレさんには他家から縁談が来ていたんだろう。

無難に、ジュネさんを第二夫人にする、という選択肢もあったのかもしれない。

でもビルナーレさんはその選択をしなかった。ジュネさんを第一夫人として迎えるために職場で実力を示し、見事成し遂げた、というわけだ。

「二番目でもいい」と言うジュネさんだって、それだけ想ってもらえたらやっぱり嬉しさ倍増に違いない。


「だから最初に『お陰様で』って言ったけど、本当にエルナさんのお陰なんだよ」


そうだったのか。

箱の魔道具は回収され、特別室も閉鎖されてしまったので、もう陽の目を見る機会が無いのが残念だけど、お二人の恋のキューピッドになれたのなら、私が企画した通信システムも本望だろう。


「祝宴にラミアノさんとエルナさんをお呼びしたかったんだけど、親父にはエルナさんの都合を付けるのは難しいって言われてさ。実際、どうなんだい?」


ビルナーレさんの親父さんとは、つまり副長のことである。

部屋の窓辺から外を眺めていたラミアノさんにちらりと視線を飛ばす。

私の視線に気付いたラミアノさんは、やれやれといった様子で肩を竦めて小さく首を振った。

副長もラミアノさんも、私の事情をご存じだからだ。


個人として考えた場合、外出制限がある私にとって、催しの場所が王都というのはハードルが高すぎる。

ラミアノさんが出席するなら小間使いとして付いていく手段もあるのだが、それよりも優先したいことがある。

私はこの秋、一度里帰りをしたいのだ。

だから仮に外出できる機会が得られるのなら、まずは故郷の村への里帰りを実現したい。


「ごめんなさい。出席はできないですけど、いつか王都には行ってみたいと思っているので、その時は必ず挨拶しに行きますよ」

「そうだね。楽しみにしているよ」


ビルナーレさんも一応聞いてみたという感じだったけど、私みたいな子供を招待しようとしてくれたのは嬉しいよね。


そんなこんなでビルナーレさん、ジュネさんとの面会を終えて、ラミアノさんと共に仕事場へ戻る途中。

お二人の祝宴について、歩きながらラミアノさんに尋ねてみた。


「ラミアノさんは出席されるんですよね?」

「うん。そのつもりだよー。昔馴染みの顔も見たいし」


この時点では私は知らなかったのだが、ビルナーレさんのお爺さんというのはゴルダ・メイラードさんという方で、昔ラミアノさんと一緒の冒険者パーティーだったそうな。

つまりラミアノさんが言う昔馴染みとは、そのゴルダさんを指すわけだ。

この時は『昔馴染みかー。王都に住んでいる知り合いかな』くらいの感覚で聞き流してしまったが、後でその事を知って、人の縁の不思議さを感じずにはいられなかった。


そうして仕事場まで戻ってくると、扉の前で待つ人の姿があった。ギルド長だ。


「ラミアノ、エルナ。戻ってきたか」


すぐにピンとくる。

昨日の査察の件だろうなぁ。


ラミアノさんが鍵を開け、皆で部屋の中へ入り、全員が椅子に座ったところでギルド長が頭を下げてきた。


「二人共、昨日はすまなかったな。いきなり仕事場に来られて驚いただろう」


査察は、監査団が特別室で通信士から話を聞き、通信を実演してみせるくらいだろう、と。ギルド長から事前に聞いていた内容はこんな感じだった。企画した私にまで話を聞きに来るのは、ギルド長の想定外だったはずだ。


ちらりとラミアノさんに目を向ければ、顎をくいっと上げて、「何か言ってやれ」と目線で返された。

このやり取り。数日前にもやったよなぁ・・・。


「えーと・・・ギルド長。偉い人から命令されたら、しょうがないんじゃないですか?」


私の発した言葉も数日前のそのまんまだ。

頭を上げたギルド長は苦い顔をしていた。


「お前さん。物分かりが良過ぎるだろう・・・」


そうは言っても、私が思い付いたことを好きなようにやれたのは、ギルド長を始めとした大人達が責任を持ってくれたからだ。

今回は私にも流れ弾が飛んできたけれど、昨日のギルド長や副長の表情や様子からわかったよ。断りようが無かったんだってことはね。


「そういや聞きたかったんだけどさ、ダル」


ギルド長への助け舟の意味もあるのだろう。

雰囲気を変えようとラミアノさんが口を挟んできてくれた。


「昨日の金髪の監査官。ラティって人物は聞いたこと無かったけど、どこぞの貴族の出だったかい?名乗りでは家名無しだったけどさ。ありゃ只者ただもんじゃないと思ったがね」

「悪いが、それは答えられない」

「ふーん。ならしゃーないね」


口止めされてるのだろうか。・・・ギルド長に対して口止め?

それはつまりラミアノさんの推察通りってことなんだろうけど。


「それともう一つ。副長の息子が結婚する件でさ。折角だからあたしは王都に行ってこようと思ってるんだけど、その間エルナをどうしようかね」

「転送魔法陣の運用効率を考えるならエルナに仕事を任せるべきなんだが、流石にそれは許可できん。何か問題が起こった時、責任が取れないからだ。だからスッパリと諦めて、エルナに休みを取らせようと思っている」

「ああ、そりゃいいね」


私はついさっきビルナーレさんとジュネさんから聞いたばかりなのだが、ギルド長はもちろんラミアノさんも事前に副長から話を聞いて知っていたっぽい。

淀みなく会話が進んでいき、ギルド長が私に向いた。


「と、いうわけでだ。エルナ」

「はい?」

「最低でも十日は休んでもらうぞ」


どうやら私に休暇を取らせようということらしい。

しかも確定事項のようだ。


「では一度里帰りしたいのですが」


恐らく私のためにあつらえたであろう展開に、私も筋書き通りの台詞を返すだけであった。


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