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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる20


魔法士として冒険者ギルドに勤め始めて二年が経った。

あたしの仕事場は冒険者ギルド本館ではなく、その隣にある素材工房の二階だ。


ここに勤める魔法士はあたしの他に男性が二人。

彼らは別の部屋で作業しており、互いの仕事が混ざらないようにフロアの構造上隔離されている。

あたしは自分の仕事場で一人黙々と作業をする日々を送っていた。


貴重な魔石や魔道具が幾つもあるこのフロアには、ギルド職員も基本的に立ち入れない。

部屋に来るのは運搬作業員と・・・。


コンコン。ガチャ。


「よぉ。ラミアノ。気分転換に若い連中の訓練、見に行かねぇか」

「返事を待ってから扉開けなよ、ダル」


ノックと同時に部屋に入ってきたのは、ギルド長のダルだ。


ここの仕事場では、あたしは会話をする相手がいない。

だからあたしが塞ぎこんだりしないよう、ダルは時々顔を出してくれている。


「そうだねー。ちょうど仕事のキリが良いから行ってみるかー。見学の後、そのまま昼食にしようよ」

「ああ。そのつもりだぜ」


仕事場に鍵を掛け、あたしはダルと一緒に訓練場に向かう。


「そういや、こないだお前がやった剣術の講習、評判良かったぞ」

「そうかい。他人を教えるなんて初めてだったから反応良かったなら嬉しいよ」

「誰か参考にした奴でもいたのか?」

「屋敷で雇っている息子らの教育係がさ、教えるのとても分かり易いんだよー。そういうのは参考にさせてもらったかな」

「へーえ」


歩きながら他愛もない会話をしつつ、訓練場へやって来た。

あらかじめ指示をしていたのだろう。入口でギルド職員があたしらを待っていた。

そのギルド職員に六番の訓練エリアまで誘導してもらい、扉も開けてもらう。


どれどれ、見させてもらおうかねー。

訓練エリアの中では、四人の冒険者が陣形や動きの確認をしながら声を出し合っている。

このパーティーは若手の有望株と言われていて、いずれこの街の上位になるんじゃないかと期待させる雰囲気を持っていた。

ふんふん。これは数年後が楽しみだねぇ。


しばらく彼らの訓練を遠巻きに眺めていると、先程のギルド職員がダルの側にやって来て、何やら報告を入れている。んー、急な仕事かねぇ?


「・・・そうか、わかった。ありがとう。君は持ち場に戻ってくれ。おい、ラミアノ」

「んぁ?」

「見学の途中だが切り上げるぞ」


どうやら急用ができたらしい。

ダルは見学させてもらってた若手パーティーに手を振り、退出することを身振りで伝えて、あたしと一緒に訓練場を後にした。

本館に向かって歩きながら、ダルはあたしに声を掛ける。


「ラミアノ」

「仕事かい?」

「いや、そうじゃない。ゴルダがオルカーテに戻ってきててな。今ギルドに来ているぞ」

「えっ!おっさんが!?」


あたしもダルも、おっさんとはかれこれ10年以上会っていない。

副長から聞く話だと、50歳を超えて今なお王都ギルドで指導教官を続けているそうだが、どんな風貌になっているか想像もつかないな。


通路を通って本館一階フロアまで行くと、随分と騒がしく、フロア中央でちょっとした人の輪ができていた。

輪の中心にその男は居た。

12年前、冒険者としての功績で騎士爵となったその男は、国王陛下からメイラードの家名を賜った。王都に居を移してはいるが今だにオルカーテ所属の冒険者として現役であり、オルカーテ唯一の三等冒険者である。

一緒にいるのは副長だ。何やら楽しそうに副長と立ち話をしている。

威厳と風格を漂わせるその男は、副長の父親でもあるのだ。


あたしらと一緒に冒険していた頃とほぼ変わらぬ体格を維持し、着ている服の中に鍛え上げられた分厚い筋肉が収められていることがわかる。周囲の冒険者達は一目で格上だと思っただろう。


だが一方で、その男はぱっと見、冒険者ではなく貴族に見えた。

貴族が身に纏うであろう華美な服を着ているし、身嗜みが整えられている。よく見る冒険者のような無精髭も無く、だいぶ白いものが増えてはいたが髪も綺麗にまとめられている。

高貴さを誇示するようなその格好は、男によく調和して馴染んでいた。


ああ、こりゃ貴族様だわ。

丁寧な挨拶しとこかな。


そう思ったのはほんの一瞬で・・・。

こちらに気付いたその男と目が合うと、口から自然と言葉がこぼれ出た。


「おっさん!なんだよその服、結構似合ってるじゃないか!」

「よう、ゴルダ。随分老けたな!」

「ぬかせ!このクソガキ共が!」


周りで見ていた冒険者達がピタッと固まる。

あたしら三人の関係を知ってる者も知らぬ者も居る。

知らぬ者は緊張を走らせた。貴族様と揉め事か、と。

知ってる者はあたしらの表情ですぐに察した。冒険者なら『いつものこと』だ、と。


「「「・・・・・・」」」


あたしら三人は顔を見合わせ、


「「「・・・っふ。ぶわっあはっはっは!!」」」


そして笑った。盛大に。


お互いに拳を合わせ、肩を叩く。

10年以上の間隔など、まるで始めから無かったかのように。


「お前さぁ。この格好はな、仕方無ぇんだよ」


おっさん曰く、領主様への挨拶と報告が最優先だったから、この街に着いて真っ先に領主館に行き、用を済ませてからそのままここへ来たそうだ。本当は今着ている貴族の衣装ではなく、王都ギルドで着用している指導教官の制服でここに来たかったらしい。


「親父。昼をここで食べてく時間あるんだろ?部屋を用意してあるから移動しよう」


立ち話もなんだから、と副長があたしらに声を掛ける。

ギルドでは職員の食堂ではなく部屋を用意してそこで食事を取ることがある。

例えば、外部の偉い人を交えた会合をする場合とか、ギルドの幹部同士で機密性の高い話し合いをする場合などだ。

あたしも何度か利用する機会があったから、副長の言う『部屋を用意する』という意味はすぐにわかった。

今日は二階の第四作業室を押さえているのだ、と副長は言う。


副長がおっさんを先導しようとしたときだ。

若い女性のギルド職員がこちらへ駆け寄ってきた。


「こちらでしたか、ギルド長、副長。例の書類を本日中に決済して頂きたいのですが」

「む、あれって本日中だったか。わかった、今すぐ行こう。ゴルダ、ラミアノ。悪いが先に二人で行ってくれ。俺達は仕事を片付けてから行く」

「あいよ。先に行って待ってるよ」


若い女性のギルド職員はダルと副長に付いて行こうとしたが、ぱっとこちらに向き直り、あたしとおっさんにそれぞれ深く頭を下げると、改めてダルと副長の後を追って去って行った。


「うん?今の娘は・・・」

「あー、マルティーナっていうんだけど・・・おっさん、覚えてっかな。12年前、領主様からの討伐依頼を遂行中にさ、賊に足をやられて第四ホラス村に送り届けたマルコスって冒険者とその家族がいただろ」

「いたな。確か嫁さんと幼い子を連れていたか」

「そう。そん時の幼女が今の娘だ」


「ああ、それで・・・」と呟くおっさんは優しい目になる。


マルコスという冒険者は、オルカーテとその周辺の村との配達を生業としていたが、賊に足をやられて冒険者を引退しなければならなくなった。

それでも命を助けられた礼を言うために、家族揃ってミルドーラフ家に出向いて来たことがある。ダルの家にも礼に来たそうだ。


あの時助けた子供が成人して、今では冒険者ギルド職員となり、ここで受付嬢をやっている。

人の縁ってのは不思議なもんさ。


「そんじゃおっさん。一足先に第四作業室に行こう。二階だ。案内するよ」

「ああ、頼むぜ。ラミアノ」


移動を始めようとしたあたしらが通れるように、と周りの冒険者達が道を開けてくれる。

片手を上げて彼らに挨拶しながら、あたしとおっさんは歩き出した。


「なぁ。俺の息子はちゃんと仕事できてるか?」

「副長かい?補佐として不可欠の人材だって、ダルが言ってたね」

「・・・ふ。そうか」


副長の仕事ぶりを直接知っているわけではない。だからダルの言葉を借りて答えたのだが、おっさんの頬が微かに緩んだのは見逃せるわけがない。

すぐにあたしの視線に気付くと、それを取り繕うかのようにおっさんは話を切り替える。


「っと・・・お前、ダルとは喧嘩とかしてねぇよな?」

「喧嘩になんないよ。あたしが我を通そうとすると、大抵ダルが一歩譲ってくれる。それで問題無いと思ってんだろうな。譲ってくれないときは、あたしが間違ってる。昔からそうさ」


子供の頃ダルと出会っていなかったら、あたしはどうなっていたか。

そりゃあ今頃、生きていなかっただろうよ。


「俺ぁ、おまえら二人がくっつくと思ったんだがな」

「あたしとダルはそういう運命じゃなかった、ってことさ。でもね、互いの道は分かれても進むべき方角は一緒だよ。たぶん、これからも、ね」


おっさんと軽口を交えながら館内の階段を上がってゆく。

踊り場を照らす柔らかな陽の光に包まれると、あたしの足取りは一層軽やかになるのだった。


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