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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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【番外編】うちの娘がおかしい1


エルナが記憶に目覚めた前後の話。ドナン視点。



うちの娘がおかしい。

おかしいのだが・・・さて、どこから話そうか。

トーナとの馴れ初めから話すと長くなるから、この村に来たところから話そう。


俺はドナン。

一つ年下の妻トーナと結婚して、十八歳のとき第七ホラス村に夫婦で移住してきた。


俺は狩人で、狩りしか取柄がない。

元々住んでいた村は狩り場が狭く、若造の俺は肩身が狭かった。

そんなとき第七ホラス村への狩人の移住募集があり、俺はすぐに手を挙げたのだ。


移住した第七ホラス村は、なかなか広い狩り場があった。しかも、小型、中型の獣が豊富だ。

俺は狩人として、そしてこの村の村人として働けるのが嬉しくて、狩りに励んだ。

その結果、移住するときに作った借金を返せる見込みがついたので、次に子作りに励んだ。


そして俺たち夫婦は、エルナ、リンという二人の娘を授かった。

なお、冬籠りの間に子作りしたため、二人とも秋生まれだ。


俺はトーナと共に幸せな生活を満喫していたのだが・・・。


四歳になった頃のエルナは、とにかくじっとしてられない性格で動き回って大変だった。

村のあちこちで色んな悪戯をして、俺はよく村長のマーカスさんに謝りに行ったものだ。


その日も、エルナの悪戯で村人に迷惑を掛けたことを謝るため、俺はマーカスさんの家に行った。エルナ絡みで謝りに行ったのは、そのときで四度目だっただろうか。


「村長、すまねぇ。またうちの娘の悪戯で村人に迷惑掛けちまった。俺の責任だ」

「ドナン・・・上がっていきなさい。少し飲むとしよう」


マーカスさんは、初めて俺を家に上げてくれて、酒を出してくれた。

その日マーカスさんは色んな事で参っていたらしく、俺はマーカスさんの愚痴を聞くことになった。

そして愚痴の話題は、最近の話から徐々に過去へ遡っていった。


幼馴染に散々振り回されて、その後始末をした若かりし日々のこと。

一度だけお会いした領主様がすげぇ怖かったこと。

自分は貴族ではなく平民出身なのに、貴族同士の利権争いを回避するためにここの村長に任命されたこと。


マーカスさんも最初は、

「問題児の後始末には理解があるし、子育ての大変さも分かっている、だから気にするな」

・・・くらいの話をするつもりだったようだ。

だが、酒が入り、日頃の溜め込んでいたモノが解放されて、出るわ出るわ。愚痴の特売日となった。

ってか、マーカスさん、こんな面白い人だったのか・・・。

名前こそ出さなかったけど、振り回した幼馴染って、たぶん隣村のガルナガンテ村長だよなぁ。


そんなことがあってから、俺はマーカスさんが用事で隣村に出掛けるとき、道中の護衛として時々付いていくことができるようになった。

元々月に一度くらいは買い物で訪れる隣村だが、護衛で同行できれば一緒に馬車に乗せてもらえるから、買い物が楽になるのが嬉しい。


マーカスさんの用事は、主に隣村のガルナガンテ村長との話し合いだ。

ガルナガンテ村長の屋敷でその話し合いが行われている最中は、俺は自由行動できるので、隣村の中を回って買い物を済ます。

買い物が済んだら、マーカスさんの用事が終わるまでガルナガンテ村長の屋敷の待合室で待機する。

・・・といった具合だ。

エルナの悪戯が切っ掛けだったが、マーカスさんと交友が深まって俺の生活はうまく回り始めていた。


ところが春になったある日、事件が起きた。

エルナが五歳のときだ。


朝起きると、隣で寝ていたエルナがおかしくなっていた。

カイシャガーとか、デンシャガーとか、セーブデータガーとか、他にも何かわけのわからない言葉を発している。


「トーナ、エルナを寝かしつけておいてくれ!俺は村長に相談してくる!悪い病かもしれん」

「え、ええ!わかったわ!」


村長や近所のナスタ、ダフタスも心配で家に来てくれたが、どうやら悪い病ではなさそうだとわかり、皆一安心した。

騒がせた謝罪と心配してくれた礼を言うため、俺は皆に頭を下げて回った。


どういうわけか、その日を境にエルナはすっかり落ち着いた子供になってしまった。

悪戯をしなくなったのだ。

走り出せば元気にタタタと駆けていくし、体調が悪いということは全くない。

ただ、なんというか雰囲気が子供らしくないというか。

まぁいいか。健康ならばそれでいいのだ。


それからしばらくして、エルナは村の大人によく声を掛け、よく話をするようになった。

以前は子供同士で遊んでいるだけだったが、大人と会話するようになってすぐに言葉遣いが変わっていき、丁寧な話し方をするようになった。

しかも、言葉遣いが大人っぽい言い回しになってきた。

例えば、以前は「なんでなんでー?」と尋ねていたはずだが、「これはなぜそうなっているんですか?」という感じだ。

確かに子供の成長は速い。成長が見て取れるのは嬉しい事だ。

だが、あっという間に大人になってしまうのはやめてほしい。父親の切なる願いだ。


さらに一年経って、エルナが六歳の春。

村に斎場が完成した。

今後は、村の結婚、葬儀、祭りなどといった祭事はここで行われる。

斎場が完成してしばらくすると、領都オルカーテの教会から派遣されてきたという司祭見習いがやってきた。

彼はワッツといい、斎場を管理する人らしい。

当面は彼一人で管理するようで、大変そうだ。


彼がやってきて数日後、エルナがおかしなことを言い出した。


「ねぇ、父さん。斎場のワッツさんに勉強を教わってくるから、自分の銅貨を使ってもいい?」

「なんの勉強だい?」

「文字の読み書きと、・・・礼儀作法、かな」


よくわからん。

まず、狩人には礼儀作法は必要ないものだ。

文字は読めた方が良いが、書く機会はほとんど無かった。


だが、エルナが持っている銅貨はエルナのものだ。

あれは、秋の収穫祭のときに渡した小遣いの銅貨を結局使わず、大事にしまっておいたものだということを俺は知っている。

だから俺は了承した。


「エルナの好きにしなさい」

「父さん、ありがとう」


その二日後、ワッツが家を訪ねてきた。

勉強の件かと思い、エルナは遊びに行って不在だと告げると、ならばちょうどいい、と言う。

うちの家の前で立ったまま、ワッツは丁寧な口調で話しかけてくれた。


「実は昨日、エルナに勉強を教えてあげたのですが、対価として銅貨を頂きまして」


そう言って、ワッツは懐から銅貨を一枚取り出した。


「まず、誤解されないで頂きたいのですが、勉強を教えてもらうためには対価が必要です。エルナはそれをしっかり理解して私に渡したので、私は受け取るべきと判断して受け取りました。そして、これはエルナが所持している唯一の銅貨だった、とも聞いています」


俺だって狩人だ。

先達から何か教えてもらったら、それに対して礼は言うし、食い物を持っていくことだってある。

だから分かる。対価が必要だったということが。


「そんなことがあったのか。俺はエルナが理解しているのであればいい。それはワッツさん、あんたが受け取ってくれ」


俺はそう言ったが、ワッツさんは銅貨をつまんだまま言った。


「それなんですが・・・エルナは賢くて、私の教えをあっという間に理解しましてね。子供なのに、礼儀作法を学びたい、ってところが気に入って教えることにしたんですが、私はエルナを生徒として気に入ってしまいまして。あの子にまた勉強を教えてあげたいと思っているんですよ。でもこれはあの子が持っていた最後の一枚で・・・どうしたものかと思い、ドナンさんかトーナさんに相談にきたんです」


なるほど、むしろワッツさんの方がエルナに勉強を教えたい、と思っているのか。

それに、エルナを賢い、と誉めてくれるのは嬉しい。


「もし良ければ、この銅貨、ドナンさんにお返ししますので、ドナンさんからエルナに持たせてやってくれませんか」

「いや、良くないな」


俺はふっと笑って、目を丸くしているワッツさんに言った。


「ワッツさんは干し肉は食えるかい?」

「え?干し肉は・・・好きですが」

「なら次からはうちの干し肉を持たせよう。それを対価としてエルナに勉強を教えてくれないか」


ワッツさんも、ふっと笑った。


「ええ、それで結構です。ではこの銅貨は頂いていくとします」


そう言ってワッツさんは、つまんでいた銅貨を懐に戻した。


「それでいい。エルナが渡したものだからな」

「ドナンさん、次の祭事では一緒に飲みましょう。今日はこれで失礼しますよ」

「ああ、楽しみにしてるよ」


互いに軽く手を振って別れる。


俺は家に入って、そのままなんとなく干し肉の貯蔵部屋へ向かう。

家を建てるときに、干し肉の貯蔵部屋を提案してくれた村の大工には感謝だな。

ワッツさんは、うちの干し肉を美味いと言ってくれるかな・・・。

貯蔵部屋の中で、そんなことに思いを巡らせた。


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