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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる19


あたしがミルドーラフ家に嫁いで10年。

三人の子を産み、一番下の子が4歳となり、子育てが落ち着いてきた頃だった。

部屋で一番下の子の遊びに付き合っていると、家の使用人がやって来た。


「失礼します。奥様。居間で旦那様がお呼びです。お客様とご一緒でした」

「あいよー。すぐ行くって伝えといてー」


すぐ行くとは言ったが、客が居るなら一応身嗜みを整えておこうかね。

側付きの侍女に髪を手っ取り早くまとめてもらい、鏡を見る。ま、こんなモンだろ。

子育て中の母であるがゆえに、着ている服は汚してもいいような服だ。そこは別に咎められないだろう。


「んじゃ、この子をよろしくねー」


下の子の世話を侍女に任せ、あたしは階段を下りて居間へ移動する。

名を名乗って居間の扉をノックし、許可を得て扉を開ける。そして子爵夫人っぽく、たおやかに腰を折って挨拶をする。


「失礼します」

「よぉ、来たか。ラミアノ」

「なんだ、ダルじゃない」


居間の長椅子にウチの旦那と向かい合う形で座っていたダルは、背中越しのあたしが見えるところまで首をぐいっと回して陽気に挨拶してきた。

せっかく子爵夫人の仮面を被っていたのに、一瞬で外す羽目になる。


「ラミアノ。とりあえずこちらに座りなさい。ダレンティス殿から話があるそうだ」


旦那に席を勧められ、あたしも旦那の横に座る。

正面に座るダルは、一緒に冒険者していた頃よりも更に鍛え上げられて重量感のある体つきになっていた。ウチの長椅子はどっしりと座るダルをちゃんと受け止めている。頑丈で良い椅子だな。


ダルは四年くらい前にオルカーテ冒険者ギルドのギルド長に就任した。はっきり言ってとても偉い。

冒険者ギルドは元々、全国各地に横の繋がりを持つ、国から独立した組織である。だから建前上は貴族や国に干渉されない。だが実際は時代と共に貴族と繋がったり、持ちつ持たれつになったりもするので、完全に独立しているかと言われればそんなことは無いのだが。


その時代における力関係もあるので単純な比較はできないが、敢えて格付けをするなら、オルカーテ冒険者ギルドのギルド長という肩書は子爵家であるミルドーラフ家よりも格上で間違いない。


そんな偉くなったダルは懐から書状を取り出し、あたしへ差し出してきた。


「お前に領主様からの依頼状だ。ただし、『断ってもよい』と口添えされている」

「・・・?」


ぶっちゃけて言えば、そもそも領主様の依頼とは断れるものではない。命令に等しいものだ。

それにミルドーラフ家は領主派の派閥に属する貴族だし、個人的にもこのミルドーラフ家との縁談を持ってきてくれた恩が領主様にはある。

だから気持ち的には『命令された方が楽』まである。だというのに『断ってもよい』って・・・何だかなー?


少しだけもやっとしつつダルから依頼状を受け取り中身に目を通す。


えーと何々・・・。オルカーテ冒険者ギルドで魔法士としてその手腕を振るってほしい、とな。要するに「冒険者ギルドで働かないか?」ということだが、仕事の中身までは書いていない。


「魔法士として何をするんだい?魔道具を動かすのかい?」

「それもあるが、やってほしいのは魔石の充填だ」

「んん?もしかして冒険者ギルドに魔石充填の魔道具が来たのかい?商業ギルドにあるような・・・」


オルカーテ商業ギルドにある魔石充填の魔道具は、例えば『光』の魔力素材を使って『光』の魔力を魔石に充填できる魔道具だ。ちなみに『光』の魔力素材は希少性が高く、とても高価なんだよな。


「いや。来るのはこれからだが、商業ギルドの魔道具よりもっとすごいのが来る。属性を付与して充填できる魔道具でな。今まで王都にしか無かった魔道具。それも二台、ウチのギルドに設置されることが決まったんだ」


え・・・。すごくないか、それ。

属性を付与して充填できる魔道具って言ったら、リズニア王国で唯一、王都冒険者ギルドにあると聞いている。『無属性』の魔力素材を使って、他の属性、例えば『光』の属性を付与し充填できる・・・だったよな。『無属性』の魔力素材は他の属性の魔力素材と比較して安価だから、王都の魔力素材不足問題は属性付与型魔道具の導入後、劇的に改善した、って話だ。


頭をフル回転させ知識を掘り起こしているあたしを見ながら、ダルは口の端を上げ、問い掛ける。


「・・・で、お前。どうするんだ?」

「やる」


即答した。

その瞬間、何とも言えない高揚感があった。


そうそう。こうやって自分で決断するのが気持ち良いんだよな。

ついさっきまで『命令された方が楽』なんて考えてた自分に反省しろと言いたい。


「パスカート。許可もらえるかい?」

「一つ条件を付けさせてもらおう。君は冒険者だった頃、普通に野宿もしていただろうが、その気分でギルドに寝泊りなどせず、必ず帰宅すること。それだけは守ってもらうよ」


夫に許可を求めたら、至極当然の条件が返ってきた。

そりゃまぁ妻が外泊はまずいわな。


「ああ。ここがあたしの家だからな。ちゃんと帰ってくるよ」


冒険者だった頃と違って、今はあたしを待つ家族が居る。

そうか。ダルやおっさんもこんな気持ちだったのか。


「それじゃコイツを渡しておくぞ」

「そいつは・・・。用意が良いねぇ、ダル」

「ふっ。何年の付き合いだと思ってんだよ」


ダルが懐から取り出したそれは、傷だらけで年季の入ったあたしの冒険者タグだった。結婚を期に冒険者を引退したとき、ギルドに返却したんだが。・・・処分してなかったんだな。

念のため持ってきたっていうよりは、ハナからあたしがどうするかお見通しだったようだ。


冒険者タグを受け取り、そのままタグを握った拳をダルの拳に合わせた。

ゴツンと良い音が鳴る。冒険者同士の挨拶だ。

その音を聞いたあたしとダルは、パーティーを組んでいた頃を思い出して互いに口角を上げるのだった。







それから季節が一つ移った頃。

オルカーテ冒険者ギルドに属性付与型魔道具が設置された。

あたしは動きやすく品が良い軽装に身を包み、冒険者タグを持って馬車に乗る。貴族街を出て街の大通りをゆったりと走らせ、何年か振りに冒険者ギルドの前にやって来た。

剣を持たずにここに来るのは違和感たっぷりだね。


冒険者時代に出入りしていた時の懐かしい匂いがする。だが正面から建物を眺めると雰囲気や外観が前と違うことに気付く。

まず冒険者ギルドの隣にある建物が立派になっている。以前あそこは解体所だったが、今は看板に『素材工房』と書いてあるな。改築したのか。

それからギルドの入口正面にあった篝火かがりびが幾つか撤去され、代わりに魔道具が設置されているぞ。たぶん照明の魔道具だ。なんかすげぇな。


入口からギルドに入り、とりあえず近くの職員に話し掛けようとすると、向こうから挨拶してきた。どうやらあたしを待っていた職員らしく、そのまま二階に案内され執務室に通された。


部屋に入ると、書類仕事をしていた男が二人。

一人はダル。もう一人はやや細身の・・・どこか覚えのある雰囲気を持つ男性だった。

仕事の手を止めた彼らは立ち上がり、手を上げてあたしに近づく。


「よぉ。待ってたぜ。紹介する。こっちは副長のストワーレ。俺がギルド長になってからずっと補佐をやってくれている」

「ストワーレです。私の方はラミアノさんを存じ上げているんですが、そちらは覚えてないかもしれませんね。かつて『一閃』のメンバーだったゴルダの息子です」

「おっさんの・・・。ああ、そういえばおっさんの家で見たことあったわ」


そうか。おっさんの息子かぁ。

今は王都に行っちまったおっさんがかつてオルカーテに住んでいたとき、何度かおっさんの家に上げてもらったことがある。息子である彼と挨拶を交わしたのは2、3回程度だったと思う。しかも10年も昔だ。だからすっかり忘れていたのだが、今の彼には顔や雰囲気に一緒に冒険していた頃のおっさんの面影があった。

流石に言われなきゃ気付かなかっただろうが、言われたらすとんと腑に落ちた。


「よろしくな、副長。ここじゃあんたが上司だ。気軽にラミアノと呼んどくれよ」

「わかりました。ラミアノ、これからよろしく頼みますよ」

「ああ。こっちこそよろしく頼む」


自然と互いに手を差し出し握手をすると、握った瞬間副長はびくっと身体を縮こませた。


「うわ・・・。親父に手を握られたみたいだ・・・。ラミアノは今でも冒険者の雰囲気が凄いですね」

「ははっ。おっさんはまだ元気かい?」

「ええ。王都で指導教官を続けてます。あれは・・・私からしたら化け物(バケモン)ですね。実家に帰る度にそう思います。全然くたばる気配が無いですよ」


おっさんは達者でやってるのか。そりゃ良かった。


「けれど、その親父が昔から口癖のように言ってましたよ。ギルド長(ダル)とラミアノは化け物(バケモン)だ、ってね」

「あっはっはっ!そりゃ酷ぇや。あはははっ!」


茶目っ気たっぷりに言う副長。

おっさんの言い草を容易に思い浮かべることができたあたしは、手を叩いて笑うのだった。


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