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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる18


数日が経過して。

夫のパスカートが仕事で五日間ほど家を空けることになった。社交ではなく、現地視察の類らしい。

夫不在となったミルドーラフ家では、三人の妻達の懇親会が開催されていた。


ラミアノが第三夫人ということ。平民出身の孤児で家同士の挨拶回りが無かったこと。貴族としての見栄を張る必要も無かったこと。

そういった諸事情により、ラミアノが嫁いできたタイミングで、ミルドーラフ家では特に祝宴を催すことはなかった。祝宴が無かったために、妻同士が親睦を深めるためにはその切っ掛け作りから始めなければならず、第一夫人であるライザは、ラミアノが早く家に溶け込めるような機会を作ってあげたいとタイミングを計っていた。

だからこの懇親会は、実質、ラミアノの歓迎会である。


「今日は夫がいないから、少量だけどお酒も用意したわ。それではいきますわよ!わたくし達と子供達とミルドーラフ家の未来に・・・乾杯!」

「「乾杯!」」


既に若干出来上がっているライザが陶器の器を片手に乾杯の音頭を取ると、ファンディラとラミアノも器を掲げて続く。


ミルドーラフ家は家長であるパスカートが下戸であるため、普段の食卓に酒が供されることはまずない。

若かりし頃の彼は酒の匂いを嗅ぐだけでも酔ってしまうことがあった。今はそこまで酷くは無いが、酒の香り自体が苦手であるため、家中の者達も勝手に飲むことは許されてはいない。

だからこそ、こういった不在時に限り、ささやかに飲むことが許可されているのだ。


まずはライザ、次にファンディラが自己紹介を兼ねて趣味や特技などの話をする。

もちろんここで深掘りはしない。今日聞きたいのはラミアノの話であるからだ。


「ラミアノ。貴女、冒険者だったのでしょう?」

「わ、わたくしも・・・その、冒険者だった時の話、聞きたいです」


ライザ、ファンディラに促され、何から話そうかと思ったラミアノであったが、ふと先日の一件で引き出された記憶があり、そのことをまず話そうと思った。

先日の一件とは、ライザとファンディラが互いに損な役回りを引き受けようとしていた件だ。


冒険者時代の似たような記憶。

あたし、ダル、おっさんの三人はパーティーを組むに当たり、色々な状況に応じた役割を決めていた。

例えば戦闘時の動き方。

相手からの攻撃を受けずに一方的にこちらが攻撃する場合はいいのだが、いつもそうとは限らない。時には相手の攻撃を一度受け、相手の足を止めてから反撃することもある。

そんな時は、おっさんが盾役、あたしが攻撃役。ダルは臨機応変に盾役も攻撃役もやる。そう決めていた。

攻撃を受ける盾役は最も大変であり、だが非常に大事な役目である。

おっさんが一番損な役回りを引き受けてくれていたわけだが、「それが一番効率的だからな」とおっさんは事も無げに言ってくれていた。


「・・・てな訳で、人は寄り集まったとき役割を求めるものだ・・・とあたしは思う。だからあたしもこの家に来た以上は役割を求めたい。二人とも、よろしく頼む」


持っていた酒の入った器をテーブル脇に置いてから、両手をテーブルに付けて頭を下げる。あまり貴族の女性らしくない礼だ。

だがライザとファンディラは嬉しそうに拍手してくれた。


「なにか、こう、冒険譚ぼうけんだんのようなものを伺えるのかと思ってましたら、良い意味で意表を突かれましたわ!」

「ん?冒険譚も結構あるよ?なんせ10年以上冒険者続けてたんだからな」

「まぁ・・・。わ、わたくし、そういう話も聞かせて頂きたいです。是非お願いしたいわ」

「血生臭い話もあるから少しずつ、な。えーと・・・」


貴族の令嬢であったライザとファンディラにとって、平民の冒険者の話は刺激的で面白いものだったらしい。二人が夢中で聞き続けるので、あたしは色々な体験談をずっと話し続けた。

午後の昼下がりから始まった歓迎会は、すっかりあたしの独演会になり、気が付けば部屋に灯りが必要な時間になっていた。


「あら、もうこんな時間ね。名残惜しいですけれど、日を改めましょう」


ライザの言葉がお開きの合図となり、後片付けを始めるために使用人を部屋に呼んだ。それを見てあたしは椅子から立ち上がり、部屋の蝋燭の前に移動する。


《火よ、集まれ》


「まぁ・・・」「魔法・・・」


指先に浮かび上がった小さな火を、蝋燭の先にちょんと移す。

最近習得したばかりの火種の魔法だ。

まだ三回に一回くらいしか成功しない。今、一回で成功したのは単なる偶然である。


「火を灯す役目は任せときなよ」

「くすくすっ・・・」「ふふふっ」


大した量でないとはいえ冒険者の頃では飲んだことがないような美味い酒が入っていたこともあって、あたしは上機嫌になっていた。無意識に良い所を見せたいと思ってしまったのだろう。

そんなあたしを見て、ライザとファンディラは貴族らしく上品に、しかし楽しそうに笑ってくれた。


しばらくすると使用人が部屋にやって来た。片付けの指示を出そうとして椅子から立ち上がろうとしたライザが、少しよろめく。


「奥様。大丈夫ですか」

「あらあら。久しぶりのお酒だったから少し酔ったみたいだわ」


少々慌てた使用人がライザの側まで行って寄り添ったが、お酒でふわふわした感じになってるだけで特に問題無さそうだ。

この時あたしは若干調子に乗っていたので、


「部屋まで抱きかかえて運んでいってやろうかい?」


と、つい言ってしまった。

ライザとファンディラ、そして部屋に来た使用人は思わず目を丸くする。


「え・・・。流石にわたくしを持ち上げるなんて無理でしょう?」


手をぱたぱたさせて、愛想笑いをするライザ。これは絶対に無理だと思ってるな。

言った台詞は冗談だったわけだが、できないことを言ったわけじゃない。

ライザは女性としてはやや背が高く、体格もしっかりしているので、確かに大人の男性でも普通は持ち上げることはできないだろうがね。


まぁ、あたしも酒が入っているし、お姫様抱っこは少々危ないから・・・よし、こうしよう。


ライザの前まで歩き、彼女の両脇に手を差し伸べる。そして赤子を持ち上げるように、軽々とライザを持ち上げた。


「えっ!?ひゃっ!?」


可愛らしい悲鳴を上げた後、口をぱくぱくとするライザ。

しばらく持ち上げて、そして床にゆっくり足が着くように優しく降ろす。


「す、すごい!こんなこと、初めてされましたわっ!」

「・・・ラ、ラミアノ。わ、わたくしも・・・」


握りこぶしを両手に作ってライザは興奮気味に声を上げた。

そして横から強請ねだるような声を掛けてきたファンディラを見れば、両腕をこちらに伸ばして子供が抱っこをせがむ様なポーズを取っている。これは断りづれぇ・・・。

諦めてファンディラも持ち上げる。ほーら、高い高ーい。


結局。

ライザを部屋まで運ぶ、ということにはならなかったのだが、ライザとファンディラが満足するまで何度も交互に持ち上げる羽目になってしまった。最後だけお姫様抱っこの追加サービスしておいた。

屋敷の中はこの後も夜遅くまで賑やかな声が絶えることなく続き、この日を境に以後も賑やかな女性達の声がよく上がるようになる。


後日のミルドーラフ家。

久しぶりに家に帰ったパスカートは、すっかり明るくなった家中の雰囲気にあてられて苦笑いになってしまう。


「君ら、私が居ない間に仲良くなり過ぎだろ・・・」


屋敷の中で楽しそうに笑い合ってる三人の妻達を見ながら、呆れ顔でボヤくのだった。


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