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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる15


「コントール男爵家より手紙をお届けに参りました。ささやかでは御座いますが、こちらは贈り物です。ラミアノ殿。どうぞお納めください」


・・・またかい。


あたしの家に馬車でやって来た使いの者は、礼儀正しくまず手紙を差し出す。続いて木の箱に梱包された品物を家の入口まで持ってくると、そこに置いて丁寧に一礼し、また馬車で帰っていった。


ひとまず入口に置かれた木箱を家の中へ運び入れる。重さから察するに食い物っぽいな。

木箱を開封すると、緩衝材の干し草が出てくる。

それを掻き分けると高価な果物が入っていた。美味そうだ。


思い返せば七日前。

冒険者ギルドでうっかり魔言を唱え、人生二度目の魔法を使った出来事は、街の冒険者達が皆知るところとなってしまう。

以来、あたしの元には街の商家や貴族様から手紙と一緒に花や果物が届くようになった。


手紙に書かれているのは見合いの申し込み。

相手はコントール男爵の跡継ぎである長男坊。その第三夫人に迎えたい、というお誘いであった。

これで見合いは五件目。見合いをすっ飛ばして結婚の申し込みも二件あったし。どうなってんだよ。


・・・いや、わかってるって。心当たりなんて一つしかないからな。

魔法を使えるようになったからだ。

実際のところ、まだ灯りの魔法しか使えないし、成功したり失敗したりを繰り返している状態なんだが。


この時のあたしは、少々の戸惑いはあったものの全然浮かれてはいなかった。

死ぬまで冒険者を続ける。

そう決意したばかりだったからだ。


断るにしても手紙が必要になるだろう。だが、どうやって書けばいいのか。あたしにゃさっぱりわからん。

ギルドで代筆の依頼を出さなきゃな。


「ラミアノさーん。手紙のお届けッスー」


・・・また来た。

やれやれ、といった感じで家の入口に向かい、扉を開ける。そこには軽装備の男が一人、立っていた。


「冒険者ギルドから手紙ッス。この受領札に印を付けてもらうッスよ」


冒険者ギルドから?ということは、この男はギルドの配達依頼を請けた冒険者だな。

何か知らんけど受け取っておこう。

ちなみに受領札は、手の平サイズの木の板だ。受取人の印ならなんでもよく、塗料を垂らしたり、焼き印を押したりすれば良い。


あたしの場合はこうだ。

腰の短刀を抜いて受領札に目印となる傷を付ける。これでよし、と。


「確かに渡したッスよー。んじゃ、あっしはこれで」

「あいよ。ご苦労さん」


配達してきた冒険者を見送って家の中に戻り、手紙を開封する。

えーと、なになに・・・。


手紙の中身はすぐに理解できた。

配達してきた冒険者は『冒険者ギルドから』と言ってたが、実際の差出人は冒険者ギルド幹部のジフィルだった。

肝心の中身は先日の会合の続きについて。あたしら『一閃』の三人とジフィル、そして領主様の使いのザハロさん。この五人であたしらの今後についてもう一度話し合うため、三日後に冒険者ギルドに召集とのことだ。


先日の会合で解散した時は、これからどうしたらいいのか、全くわからなくなっていた。けれど、今は迷いはない。

おっさんは貴族となって王領へ行く。

ダルは冒険者ギルドへの就職に前向きだ。

そしてあたしは冒険者を続ける。

あたしら三人はそれぞれの道へ進むことになるんだろうな。


ここ数日の間、身の回りで起こった出来事が多すぎて頭がこんがらがっていたが、時間と共に少しずつ整理できてきた。やっぱり決められることから一つずつ決めていくのが確実だね。ダルが子供の頃からこんな具合に仕事を片付けてたんで参考にしてみたが、正解だったようだ。


・・・おや。家に近づいてくる人の気配がする。また誰か来たようだ。


「おい、ラミアノー。生きてるかー!」


外から聞き慣れた呼び声と共に家の扉がノックされた。

出なくてもわかる。ダルだ。

噂をすれば何とやら、か。


「まだ生きてるよー。ちょっと待ちなー」


ダルと会うのは先日の会合以来。まずはダルから近況報告がされる。

あたしが『進む道を決めた』とおっさんに言った言葉は、『冒険者を続ける』という正しい意味でダルへと伝わっていた。

そしてギルドで魔法を使ってしまったこともおっさんから聞いたダルは、気になって様子を見に来たそうだ。


「・・・というわけで、会ったこともない連中から見合いの申し込みとか来るようになっちまってさ。断りの手紙を作るためにギルドに代筆依頼出そうかと思っててな。・・・もぐもぐ」


あたしの近況も伝えると、ダルは同情するでもなく困惑の表情を浮かべた。

ちなみに食べているのはカットした果物だ。なんたら男爵家から贈られた果物を皿に乗せ、二人で摘まみながら話している。


「俺にはよくわからんが、それ、受け入れる選択もあるんじゃないか」

「・・・・・・え?」

「いや、だからお前、結婚してもいいんじゃないか、って思ったんだが」


・・・・・・。

あれ?言われてみれば確かに。

断ることしか考えてなかったぞ。


この時の心理状況は、後になってからも説明しづらい。

まぁ、何となく想像は付いてんだよ。

ごちゃごちゃした状況を一つずつ整理していこうとした結果、全部断るのが一番手っ取り早かった、とか。

後は単純に、日頃から女らしさとは縁遠いあたしが見合いや求婚の誘いに不慣れだった、とか。


兎にも角にも、ダルに言われるまで『断る』以外の選択肢があると全く気付けなかったのだ。


首を傾げたまま腕を組み、うーんと唸って考え始めたあたし。

それを見て、ダルは呆れてため息を吐く。


「はぁ・・・。そういやさ、三日後にまたギルドに召集されたんだが、お前のとこに連絡行ってるか?」

「ん?あ、ああ。ダルが来る少し前に知らせの手紙、受け取ったよ」

「そうか。なら、ついでにお前に求婚してきた相手の似顔絵を閲覧してみるってのはどうだ?」

「似顔絵?何だそれ?」


いたずら小僧のような笑顔を浮かべるダルが言うには、冒険者ギルドの資料閲覧室で街の貴族を始めとする有力者の似顔絵を閲覧することが可能なのだそうだ。


映像や写真を撮るカメラがないこの世界において、会ったことのない貴族同士が相手の容姿を事前に把握するためにはどうするか。

その者を知る他者から特徴などを聞く。これが一般的ではあるが、他の方法として、出来の良い似顔絵を見ることが挙げられる。


オルカーテでは、街に住む貴族の似顔絵を集めて管理している場所が幾つかある。

代表的なのは役所。そこには及ばないが冒険者ギルドにもある程度の数の似顔絵が保管されている。

無論、誰でも簡単に閲覧できるというわけではない。貴族だとか、それなりの立場の者であることが条件だ。ただし平民でも特殊な事情がある場合、必要な手続きを踏めば閲覧できるという。


「・・・それが、今回のようなケース。貴族の側から会うことを要求してきた場合、ってわけかい」

「そうだ」


本当にダルは色んな事を知っている。

実際のところ断る方針に変わりはないが、せっかくだから閲覧させてもらおうか。その方が面白そうだ。

資料閲覧室は一応知っている。あそこには領の地図が保管されているから、冒険の移動ルートを決めるために『一閃』の三人で何度か利用したことがある。

とはいえ、利用手続きは全部ダルに任せていたんだよな。


「閲覧の手続きってどうやるんだ?」

「あー。お前、今ギルドに行ったら、冒険者連中から色々質問攻めに遭うぞ?」


そう言われて、先日の事を思い出す。

ギルドの一階ロビーで魔法を発現させてしまい、騒ぎを起こした一件である。

魔法の物珍しさからあっという間に周囲の冒険者達に取り囲まれ、矢継ぎ早に色んなことを聞かれたのだ。

受付から何事かと駆け寄ったおっさんにさっさと帰るよう促され、逃げるようにギルドを後にしたんだっけ。


「・・・どうしよう。やっぱ止めとくか」

「代わりに俺が手続きしといてやるよ。お前は三日後まで家で大人しくしていろ」


あたしはダルに言われるまま委任状なるものを一筆書き、貴族からの手紙と一緒にダルに渡した。


預かった手紙は手続き済んだら届けるから、今日また後でここに来るぞ。これからも貴族から手紙が届くかもしれないが、それは当日持ってこい。

あたしにそう指示を出したダルは「ギルドへ行ってくるぜ」と事も無げに言い、あたしの家を出てギルドへ向かった。


やっぱり、ダルは頼りになるねぇ。


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