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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる14


ギルドに召集され、あたしら『一閃』のメンバー全員の昇級を告げられた日。

おっさんとダルが冒険者を引退する道を選ぼうとしていること。

そしてあたし自身の身の振り方を考えなくてはいけなくなったこと。

今までに想定してこなかった展開が立て続けに発生し、頭の中がごちゃごちゃになってしまったあたしは、気が付けば家のベッドで横になっていた。

自分の足で帰宅したことは理解できているが、ギルドからどうやって家に帰ってきたのかさっぱり覚えていない。


「冒険者を引退・・・かぁ」


冒険者パーティー『一閃』を結成し、三人で冒険してきて11年。

そりゃ、永遠に続くなんてことはないさ。

でも、なんで今なんだよ・・・。


『一閃』を結成する切っ掛けとなった11年前の出来事。

あたしとダルとおっさんの三人で、ギルドの採集依頼を受けた日のことを思い出す。

あの時は散々だった。おっさんは怪我するし、採集に来てたのに戦闘になったし。

でもあの経験を経て色々と自信を付けることができた。今となってはいい思い出だ。


そういやあの頃に比べて、最近のおっさんはよく「疲れた」って口にするようになった。

そりゃそうか。おっさんは今39歳。もうすぐ40だもんなぁ。


ダルが言った言葉も、少しずつわかってきた気がする。

『死んだら終わりであることと、死ぬまで終わらないってことは違う』か。

冒険者は『死んだら終わり』の職業だ。

でも他の道を選べないわけじゃないもんな。


そして、『死ぬまで終わらない』というのは冒険者の生き方じゃない。

・・・それは、あたしの生き方だ。


ははっ。なんかスッキリしてきた。

あたしはあたしの生き方を通せばいいじゃないか。

ダルやおっさんのように守るべき家庭も無い。そして剣を振るう以外の道も無い。

ならば冒険者を続けるさ。死ぬまで、な。


この瞬間。

あたしは、ダル、おっさんの二人と道を違える決意を固めた。


「んじゃ、魔言の練習して寝るとするか」


だが決意を固めたわずか数秒後。

あたしの生き方を大きく変える出来事が起こる。


《光よ、集まれ》


暗闇の室内、ベッドで横になりながら無心の状態で唱えたそれは、灯となって顕現した。

部屋の天井にかざした手の平がじんわりと光り輝き、部屋の中を照らしたのである。


・・・なんか綺麗だな・・・んんんっ!?


それが魔法だと自覚する。と同時に目の前が暗転した。

あたしは気を失ったのだ。







目覚めたときには翌朝だった。

寝床からすぐに身体を起こすことができた。

気怠さなどは無く、寝起きとは思えぬほどに妙に頭が冴えている。


はっきりと覚えている。

寝る前の日課である魔言の練習をしたら、あたしの手が光って、そして意識が落ちた。

確かにあたしは魔法を使えたのだ。


・・・よし。もう一度できるか確かめてみよう。


そう思ってやってみるが、ちっともうまくいかなかった。

なんでだ?


仕方がない。魔法のことだし、おっさんに聞きに行くか。

そう思い立ち、即家を出る。

早朝の街中を通り、爽やかな気分でおっさんの家まで歩く。


「おっさん、おっさん。あたしだ」

「もぐ・・・よぉ、ラミアノ。まぁ、入れよ」


家の扉をノックして呼び声を上げると、朝の食事中だったらしいおっさんが口をもごもごさせながら扉を開け、中に招き入れてくれた。

台所に居るおっさんの家族に軽く挨拶だけしてから、おっさんと共に居間に移り、小さな机を挟んで席に着く。


「家族と食事中だったか。邪魔して悪ぃな」

「気にしなくていいぜ。そんでどうした。まさか、俺のことを説得しに来た、とかじゃねぇよな?」

「へ?説得?」

「・・・え?いや、だから昨日、俺やダルが冒険者引退するってことでお前、深刻な顔して帰ってっただろ?」


・・・あ。忘れてた。


「いや、おっさん。それはもう良いんだ。・・・ん?良くはないけど、それどころじゃないんだ」

「はぁ?そういや、お前。すっかり吹っ切れたツラしてんな」

「ああ。あたしはあたしの道を行く、って決意したからな」

「・・・そうか」


おっさんはそう言ってにかっと笑う。

喜びと、少しの寂しさが混じった笑顔だった。


「じゃ、聞こうか。何がそれどころじゃないって?」

「おっさん。あたし昨日初めて魔法が使えたんだ」

「・・・・・・は?」


数秒掛けて再起動したおっさんに、あたしは昨日寝る直前に魔法を使えたこと、今朝やってみたら再現できなかったことを伝えた。

片手で頭を抱えて聞いていたおっさんは、苦い表情になっていた。


「再現できないって・・・そりゃ俺にもわからんさ。何せ魔法を使えた試しが無いんだからな。お前も知っているだろう。俺は魔力持ちではあるが、魔言は未だ成功したことがない。おそらく才能が無いんだろうがな。だから俺から助言できることはない。まぁ・・・昨日使えた時の感覚を思い出すのが良いんじゃねぇの?」

「むーん・・・昨日の感覚か・・・。ちょっと今ここでやってみていいか?」

「ここで?・・・まぁいいか。俺も興味あるから見といてやるよ」


何の根拠もなく提案するあたし。大して気にも留めず了承するおっさん。

長年互いに命を預けるような、それでいて気心の知れた相手に対する日常的で自然なやり取り。この先も続けていけたら、などと頭の隅をよぎっちまうね。

そんな思いを振り払うように、あたしは座ったまま手を前にかざし魔言を唱える。


「光よ、集」《まれ》


・・・ちっとも完全な魔言にならない。

おっさんの前で何度か繰り返すが、ここでも上手くいかなかった。

うーん。なんで昨日はできたんだろう。


「なぁ、ラミアノ。俺ぁ、もう少ししたらギルドに行く用事があるんだが」

「んー?何の用事か聞いていいかい?」

「領主様からの討伐報酬の確認、それと役人さんからの護衛報酬も今日入金されているはずだからそれも確認して・・・。ついでに金を引き出してくる。今後俺は王都へ引っ越すことになるから、色々と入用でな」


なるほど。おっさんはもう新しい道を進み始めているんだな。


そういや護衛報酬の話もギルド職員のジフィルが言ってたっけ。今思い出した。

なんか魔法の事に全部持ってかれて、それ以外の事が頭の中からすっぽりと抜けてしまっている。

そうだな。家に戻るなら、その前にギルドに顔を出していくか。


「なら仕方ないな。おっさんの前なら何か見せられるような気がしたんだが、これくらいで一旦切り上げるよ。あたしも報酬の確認はしときたいし、おっさんに付いて行く」

「わかった。一緒に行こう。魔法を見られなくて俺も残念だ。白湯でも飲むか?」

「ああ、もらうよ」


魔法を再現しようと繰り返していた動作を止め、椅子に座り直し、軽く背中を反らして天井を見上げた。

あたしにとっちゃ、下手な戦闘よりも魔法の訓練の方がよっぽど疲れるんだよな。

台所まで行って戻ってきたおっさんは、あたしの前の卓上にトンと木のコップを置いた。

コップに注がれた湯を遠慮なく一口すすり、あたしはふっと息をつく。


「おっさん。そういや聞きたいことがあってさ。昨日領主様の使いの人が・・・何て名前だっけ?」

「ザハロさんか」

「そうそう、ザハロさんだ。そのザハロさんが言ってたじゃないか。おっさんが爵位もらう条件みたいなの。あれって一体何なんだ?」

「正確な事は俺もわからん」

「え?おっさんもわかってなかったのか?」


えーと、おっさんに提示された条件は二つだったよな。

ホラス領から王領に居を移すこと。新たな家名を名乗ること。

あの時おっさんは、その条件に対して躊躇うことなく了承した。

なぜその条件なのかよくわからなかったあたしは、後でおっさんに聞けばいいや、と思っていたのだが。


「そりゃそうさ。予告なしに言われたんだからよ。もちろん後日ちゃんと確認するぜ?ただ何となく想像は付く。以前面会した時に領主様がヒントになる話をしてくれてたからな」

「へぇ。それ、聞いてもいいかい?」

「流石に全部は言えねぇぞ。その場で確認しなかったのもそれが理由だからだ。言える範囲なら・・・そうだな。まず俺が貴族になったら、領主様の派閥に属することになるだろ?その場合、ホラス領に留まっていると領内の敵対派閥に真っ先に狙い撃ちされる、なんてことがあるんじゃないかな。あるいは、俺を王領に送り、王都冒険者ギルドとオルカーテ冒険者ギルドを太く繋げて情報を得たい、とかかもしれん」

「なるほど?領主様はホラス領内で敵対派閥と闘ってるのか。フレシュナーの家名ではなく新しい家名にしろと言われたのも、敵対派閥から睨まれるのを避けるためかい」

「おっと、喋り過ぎたな。今の話は俺の想像がかなり入っているから、触れ回ったりするなよ」

「あいよ。貴族様ってのは色々大変そうだねぇ」


冒険者だって同業者同士の縄張り争いみたいなモンはある。貴族様だってそれに似たようなのがあるだろう。

何にしても貴族様にまつわる情報は取り扱い注意だな。気を付けよう。


「もらえる爵位のことも教えとくれよ。あんまり聞かないけど『騎士爵』ってのはどんなんだい?」

「一代貴族だ。子供に継がせることはできないし、治める領地もない。名誉だけの称号と思っていいぜ。それでも権威は付いてくるから色々と役には立つさ」


貴族とはいえ一番下っ端さ、とおっさんは笑う。

一番下でも貴族様は貴族様、とあたしゃ思うがね。


一代貴族だから『家の再興』ってわけでもない。それでもおっさんにとって爵位は特別だ。嬉しいに違いない。

冒険者の等級が冒険者としての名誉であるように、爵位が貴族としての名誉であるのは理解できる。

そしておっさんはその両方を名誉だと思える人生を歩いてきたんだ。

若かりし頃のおっさんが、望んでも叶わなかった道。それが四十間近になって突如目の前に現れたってのも面白い。

人生ってのは不思議なモンだねぇ。


「さて、もうそろそろギルドへ行くぞ。支度してくるからお前はそのまま座っててくれ」


立ち上がって冒険者の装備を整えるおっさん。これから冒険に出るわけではないが、冒険者ギルドに行くのだから当然のことだ。

あたしは日常生活では装備を外しているが、外に出るとき武器だけは常に担いでいる。

冒険者としての習慣ってヤツだ。


お、支度が済んだようだな。


「ラミアノ。待たせたな。ギルドへ行こう」


おっさんの家を出たあたしらは、賑やかな街の通りを歩き、冒険者ギルドに到着する。朝の混雑は解消していたが、それでもギルド内は多くの冒険者で賑わっていた。

あたしらは受付に行くと、二人揃って冒険者タグを提出し、まず入金を確認した。

続けて金を引き出すため、おっさんだけそのまま受付で手続きを進める。


「んじゃ、あたしはそこで座って待ってるよ」


あたしの用事は済んでいるので先にギルドを出ても良かったわけだが、魔法の相談に乗ってもらおうと朝早くおっさんの家に押し掛けておいて礼の一つも言っていないことが気に掛かり、壁際の空いているテーブル席で待つことにした。


その時のあたしはちょうど『気が緩んでいた』のだろう。

座席に座り、テーブルに頬杖をついて、受付で手続きをしているおっさんを眺めながら、おもむろにもう片方の手を伸ばした。

そして・・・。


《光よ、集まれ》


さっきまでおっさんの家でやっていた反復動作、すなわち魔言を、よりにもよって完全な形で唱えてしまった。

要するに魔法を成功させてしまったのだ。


ギルド一階ロビーの壁際が一気に明るくなり、周囲に居た者達は何事かと騒めく。

やがてあたしの手から発せられる光がゆっくりと収まってゆくと、ロビーに居た連中の視線が一斉にこちらへ向けられた。


や、やっちまったぁ~~~~っ!


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