【番外編】道は分かれ、また交わる13
オルカーテに連れ戻されたあたしら『一閃』は、街に着くとその日の内にひとまず解放された。このまま牢に入れられることもあり得るかと思ったが、そうはならず何よりだ。
あたしらを連行した領軍兵士達も、出発時はほとんど口を開いてくれなかったが、道中では他愛のない会話くらいはしてくれるようになり、解放するときにはだいぶ態度が軟化していた。
そんな領軍兵士から解放と同時に伝えられたのは、領主様の命令。
『明日冒険者ギルドに召集』だとさ。
翌日。
ギルド二階の一室であたしらを待っていたのは中年の男性二人。
一人は見知ったギルド職員。名はジフィル。冒険者ギルドの幹部で、仕事ができる男だ。
もう一人の男は身なりの整った見知らぬ人物だった。
「初めまして。冒険者パーティー『一閃』の皆様。私はホラス領領主レティシア様の使いの者でザハロと申します。本日は召集に従っての来訪、ご苦労様です」
部屋に入ったあたしらに、初めて会ったその人物は礼儀正しく挨拶をしてきた。
領主様の使いという言葉に反応したか、一緒に座っているダルとおっさんの背筋がピッと伸びる。
ギルド職員のジフィルを通さず挨拶したということは、この集まりの主催者は彼ということになるね。同時に、ジフィルも『召集された側』ということがわかる。
こちらも名乗りを済ませると、ジフィルは席を促してきた。あたしらは席に着き、ザハロさんとジフィルも続いて着席する。
皆が腰を落ち着けたところで、
「レティシア様からいくつか伝言が御座います」
そう前置きして、穏やかな口調でザハロさんが話を始めた。
まず、賊を捕縛するために第四ホラス村を混乱させた件について。
あたしらは一切不問となった。何らかのペナルティがあっても不思議では無かったが、心底ほっとした。なんだ、話のわかる領主様じゃないかい。
次に、領主様からの討伐依頼について。
依頼は達成、ということになった。
賊の全体像みたいなモンはあたしらには知らされていないので、今回の件が賊側にどれほど損害を与えることになったかはわからない。かといって、全滅させるまで依頼が終わらない、というのではキリが無い。だから「ここまでの働きで一旦清算しましょう」ということなのだろう。
ちなみにギルドには表向き『領主館からの採集依頼』ということになっており、ジフィルも直前まで領主様直々の討伐依頼だったとは知らなかったそうだ。報酬は既にギルドの口座に入っているので確認せよ、とのこと。
「続いてギルドからの報告事項を・・・。ジフィル殿、よろしくお願いします」
「はい。報告させて頂きます。報告事項は二つ御座います」
ザハロさんに促され、ジフィルは資料を片手に読み上げる。
「まず一つ目。オルカーテ会計監査補佐官ガルナガンテ殿より、達成後報告依頼が出されておりまして、こちらの報酬は明日、口座に入ることになります」
あー、役人さんに同行して護衛した件だな。
ふむふむ。要はいつも通りということだ。
特別な手続きを取らない限り、依頼達成の報酬は2、3日遅れて口座に入る。だからむしろ領主様からの報酬が特別で、おそらくは最速で入金手続きをしたのではないかと思う。
「次に二つ目。今回の討伐依頼達成に伴い、皆さんの冒険者等級が昇級します。ゴルダさんが三等、ダレンティスさんとラミアノさんが四等になります。おめでとうございます!」
・・・はぁ!?
あたしやダルは遠からず四等冒険者になる、と思っていたし周囲からもそういう目で見られていた。もちろん嬉しいが、理解が追い付かない、というわけではない。
それよりも、だ。
「さ、三等・・・。お、俺が・・・?」
おっさんの声が震えている。
いや、無理もない。これには流石にあたしとダルだって驚いた。何せ、三等冒険者など今までオルカーテに居なかったからだ。もしかしたら、あたしらが生まれる前には居たのかもしれないが、少なくともここ二十数年、オルカーテ所属の冒険者からは輩出されていないはずだ。
「『一閃』がオルカーテのトップパーティーに登り詰めたのは、ダレンティスさん、ラミアノさんという若手二人の活躍によるところが大きいことはもちろん存じております。そして、その二人の手綱を引いてパーティーをまとめ上げているゴルダさんの手腕を、冒険者ギルドは高く評価しています」
この言葉は、ジフィルが手にしている資料に記載されてはいない。
だから冒険者ギルド幹部のジフィルの言葉であり評価である。
「やったな、ゴルダ!おめでとう!」
「おっさん!すげぇよ!」
「あ、ああ・・・・。ありがとう二人とも。ダルもラミアノも四等おめでとう」
あたしとダルはおっさんを祝福した。
おっさんの凄さは、あたしとダルが他の誰よりも知っている。
だからおっさんの昇級は心底嬉しかった。もしかしたら、自分達自身の昇級よりも。
あたしらの祝福が済むのを待って、ザハロさんは一つ咳払いをする。
「・・・こほん。それでは話を続けさせて頂きます。ある意味、ここからが本題となります」
ん?
今までの話が前段なのか?
「レティシア様は、三等冒険者ゴルダ殿に騎士爵の叙爵を国王陛下に推挙する用意がある、とのことです」
・・・はぁぁぁぁ!?
爵位!?
あたしもダルも、そして当の本人であるおっさんも、目を丸くして固まる。
「ただし、ホラス領から王領に居を移すこと。そして新たな家名を名乗ること。この二点を条件とされております」
え?え?どういうことだ?
固まっていたおっさんは我に返って椅子から立つと、ザハロさんに向いて姿勢を正す。そして右手を胸に当ててお辞儀をした。
「・・・わかった。いや、わかりました。領主様の御意向に従う・・・従います」
提示された条件の意味はよくわからなかったが、この返事の意味はわかった。
おっさんは貴族になるんだ。
そしておっさんとのパーティーは、もう・・・。
「王領での職務ですが、王都冒険者ギルドの指導教官の席をご用意しております。後進の育成に努めて頂きたく、是非ゴルダ殿にお願いしたいとのことでした」
「謹んで・・・お受けする・・・します」
つまりは冒険者を引退して若手を育てる立場になるってことだ。
慣れない口調だったが、おっさんはザハロさんをしっかり見据えて返答した。
「ゴルダ殿、どうぞ楽にしてください」
「わかった。そうさせてもらう」
促されておっさんは礼を解き、椅子に腰を下ろす。
おっさん抜きの『一閃』なんてあり得ない。これからどうしたらいいんだ?
あたしもダルもなんて声を掛けたら良いのかわからず、おっさんも何を言えばいいのかと考え込んでしまって、少しの間沈黙の時が流れた。
「ダレンティス殿、ラミアノ殿」
その沈黙を破るザハロさんの呼び掛けに、やや下を向いていたあたしとダルの顔がくいっと上がる。
「レティシア様はお二人にも新たな道をご用意されております。・・・ジフィル殿」
「はい。ダレンティスさん、ラミアノさん。冒険者ギルドの職員に就職しませんか」
え?
それはあたしやダルも冒険者を引退したらどうか、ってことか?
「オルカーテの冒険者ギルドは現在幹部職に空席がありまして、お二人に是非お願いしたいと考えているんですよ」
突然の提案で頭が真っ白になる。
今まで前へ進むことしか考えてなかった。引退する前に死ぬだろう、なんてことは冗談で口にすることがあったが、実際に自身が引退するなどとは全く考えた事がなかったのである。
あたしは思考停止状態になってしまった。だが、ダルは違った。
「俺は・・・ありがたい話だと思ってるんで、前向きに検討させてほしい」
「・・・っ!?ダル?」
思わずダルの方へ振り向く。
ダルもゆっくりとこちらを向いた。
「・・・ラミアノ。俺はな、結構前から考えていたんだ。四等冒険者まで登り詰めたら危険な冒険から足を洗おうって」
「ダル・・・」
「冒険者は続けるつもりでいたさ。だが、冒険はどこに落とし穴があるかわからない。五等冒険者になった頃から、ある日俺が死んだら家族はどうなるんだ、って考えることも多くなった。死んだら終わりであることと、死ぬまで終わらないってことは違う。だから死ぬ前に終わる道を作ろうと思ってた。俺は終着点を決めていたんだ」
「・・・それが四等冒険者ってことか?」
「そうだ」
知らなかった。ダルがそんな風に考えていたなんて。
「ラミアノ。お前はどうする?俺と一緒にギルド職員をやってみるつもりはないか?」
「あたしは・・・わかんねぇ」
今日まで冒険者だったあたしは、明日からも冒険者のはずだった。
急に新しい道を示されても、全然考えがまとまらない。
「『一閃』の皆様。ジフィル殿。改めて集まる場を設けますので、ひとまず本日は解散しましょう。各自で考えることもあれば、互いに相談することもあるでしょう。そのために時間を置いた方がよろしいかと存じます。ジフィル殿、彼らの昇級に関してギルドとして公表するのはしばらく待ってください。周囲の雑音が入らないようご配慮願います」
膠着してしまったあたしの思考では、もうこれ以上は生産的な話にならないだろう。そう悟ったザハロさんが助け舟を出す。
その提案に、あたしらは頷くしかなかった。
「おっさん、ダル。しばらく一人になって考えてみるよ」
「ああ」「わかった」
あたしらが席から立ち上がると、ザハロさんは思い出したように言った。
「そういえば、ラミアノ殿。レティシア様は貴女に別の道もご用意されておりましてね。今日は準備が間に合いませんでしたが、次の機会にご提案できると思います」
「別の道・・・?」
「ええ。少々根回しに時間が必要なもので。さらに言えば用意できない可能性も御座いまして。先程『時間を置いた方がいい』と申しましたが、あれはこちらの都合でもあったわけです」
どこか謎めいた言葉だったが、冒険者を続けるかどうかを考える事で精一杯だったあたしは何も聞き返すことができず、ギルドの部屋を出るのだった。




