表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
70/129

【番外編】道は分かれ、また交わる10


オルカーテと第四ホラス村の街道沿いで三日野営して、オルカーテに一日戻る。領主様から特別な指示が無い間は、このような4日間の活動サイクルを繰り返す。

賊の討伐依頼を受けたあたしら『一閃』は、効率性と持続性のバランスを取って動いていた。


任務遂行中、主にやることといえば街道沿いを歩きながら周辺の監視だが、基本的にのんびり過ごすことになる。

もしも討伐対象である賊と会敵した場合、一人が複数人を相手にする可能性が高い。ゆえに体力は温存し、休憩もちゃんと取る。


オルカーテに戻る日だけは狩りや採集をする。

ただし、これも本気ではやらない。常に余力を残しておくことは忘れない。

納品ついでにギルドに報告を入れる。『異常なし』という報告だけだが。


そうして十数日経った頃。


「ゴルダ、ラミアノ。お疲れさん。今回も空振りだったな」

「そうだな。まぁ討伐依頼と言っても、相手が網に掛からなきゃ何もできんからな」

「領主様からの指示書がギルドに届いてたんだろ?領主様は何か言ってたかい?」

「このまま続けよ、とさ」


この日オルカーテに戻っていたあたしらは、三人で軽く一杯やっていた。

大っぴらにできない依頼を遂行中だから、今日は酒場ではなく、ダルの家でささやかに飲んでいる。

ダルの嫁であるトワラは気を利かせて、料理と酒を用意しとくからあとは冒険者でどうぞ、というスタンスでいてくれる。こういう配慮は本当に助かる。特に今回は家族にも話せない秘匿情報を含む話題が多いから尚更だ。


「確か領主様が言ってた『警戒すべき日』ってのがそろそろだったよな。ダル」

「三日後だな。その前後も当然として、明日からは警戒レベルを一段上げていくぞ」

「ああ」「わかった」


領主様はあたしらに『警戒すべき日』を教えてくれた。ただ、なぜ警戒すべきかという理由は教えてもらえなかった。敢えて伏せてきた、というのがダルの見立てだ。

領主様が情報の出し方を工夫している、とあたしも感じる。なんとなくだがね。

あたしらはそれに乗っかるわけだが、直接会ったダルやおっさんに『乗っかってもいい』と思わせる何かが領主様にはあったのだろうな。二人が腹を括っているからこそ、あたしも腹を括れるというものだ。







一夜明けて。

オルカーテを早朝に出発したあたしらは、ちょうどオルカーテと第四ホラス村の中間辺りに到達していた。陽はだいぶ昇っていたが、昼にはまだ早い時間帯だったろうか。


この日は、街道の様子がいつもと少し違っていた。人通りがほとんどなく、すれ違ったのは早馬に騎乗した兵士だけだった。

その理由がようやく明らかになる。

第四ホラス村方面からあたしらの方に向かって、領軍の兵士達が行軍してきたのだ。


「ありゃあ『補給部隊』だな。オルカーテに向かってる」


領軍を見たおっさんがそう呟く。

確かに荷物を積んだ馬車や荷車が多い。


ホラス領には、領土を巡って他国と紛争状態になっている地域が無い。北東にある国境砦は唯一、領内の防衛箇所である。

補給部隊の役割は、第一に防衛箇所である国境砦まで物資を輸送すること。第二に他領との物資のやり取りをすること。ここで言うやり取りとは、物資を融通したり、物資を一時的に保管したり、他領から別の領へと中継ぎをしたり、など様々である。


主力部隊ではなく後方支援部隊なので軽んじられることもあるが、軍隊であることに変わりはない。

行き交う旅人や商人は行軍を妨げぬよう、街道から脇へ逸れて大人しく通り過ぎるまで待つのが当り前だ。下手に並んで歩いたり、近くをすれ違ったりすれば、それだけで領軍兵士から要らぬ誤解を招くことになる。


「ゴルダ、ラミアノ。まだ昼前だが、早目に弁当を食べちまおう。領軍が通り過ぎるまではどうせ動けないからな」


動けないのはあたしらも同じだ。

街道を外れたところで腰を落ろし、遠くから兵士の列を眺めて時間を潰す。

そうして昼を過ぎた頃には、領軍はすっかり通り過ぎた。


領軍が通り過ぎた後の街道を眺めていると、今度はその領軍の最後尾から大きく距離を取って商人の馬車や旅人がぞろぞろと移動してきた。足止めを食らっていた者達が動き出したように見えるが、必ずしもそういう者達だけではない。


「あいつらは追従目的か」


おっさんの呟きに、なるほどと思う。

領軍が通った直後の街道は、最も安全な状態になっている。

護衛を雇う金を節約した者や、中には休息を取る兵士相手に商売をする者もいるのだろう。


「今日はこのまま眺めているだけでいいよな。野営の準備も早目にやっちまおう」


別に警備をサボるつもりで提案したわけではない。普段はあまり人が通らないこの街道も、領軍が通った影響もあって今日は人通りがある。これでは襲撃する側の方がリスクが高いはずだ。

ダルとおっさんも同意見で、その日は早々に腰を落ち着け、遠目から街道の様子を眺めて過ごした。







翌日。

朝から街道を眺めれば、オルカーテから第四ホラス村に向かう人や馬車がちらほら見える。


「領軍が滞在した村は、一時的に物が減って金が増える。そうなると、今度は村へ物を持って行けば売れるわけだ。だからオルカーテから第四ホラス村に向かう商人が増えたかもしれんな」

「へーえ。なるほどねぇ」


たまにダルは商人目線で物事を見ることがある。それは冒険者だけをやっていると見落とすような着眼点であることが多い。

あたしには気付かない金や物の動き方、動かし方についても、今みたいにさり気なく教えてくれたりする。

こういうときのダルは本当に頼りになる。本人に言ったことは無いが。


だが理屈がわかってなくとも、直感でわかることもある。

人が動けば、金や物が動く。

そうやって色々なモノが変化した時ってのは、別の変化が生まれるモンだ。

結局この日は何事もなく一日が過ぎていったのだが、あたしは何とも言えない妙な胸騒ぎを感じていた。







次の日。まだ陽が昇っておらぬ早朝だった。

辺りは澄み切った空気で満たされ、東の空からじんわりと白みがかってきた頃。

それは突然訪れた。


キンッ!


遠くから鳴った、微かに響く高い音。

野営しているこの場所からさほど離れていない。


「ダル!おっさん!起きろっ!」


早朝の見張り番だったあたしは、寝ていたダルとおっさんに声掛けして目を覚まさせる。


「金属の打ち合う音がした。剣戟の音だと思う」

「ラミアノ、先行するなよ。三人で行くぞ」

「ああ。わかってるよ、ダル」


装備を整えるダルとおっさん。その間にあたしは現場まで持って行くことのない食料や毛布などの荷物を一纏めにして、茂みの中へ押し込んだ。

そうしてあたしらが準備をしている間にも、一回、二回と剣戟の音が聞こえてきた。どうやら戦闘していると見て間違いなさそうだ。


あたしらの位置は街道から外れた林の中。

音の距離と方角から、おそらく街道でやり合っている。


「待たせたな。ダル、ラミアノ、行けるぞ!」

「「おう!」」


最後に準備を整えたおっさんが号令を掛け、既に出れる状態になっていたダルとあたしがそれに応えた。

左腕に盾を装備したダルとおっさんが先行して、あたしはすぐ後ろから追う。

あたしは腕当てを装備しているが盾は装備しない。攻撃を受けずに回避する戦い方が得意だからだ。


街道まで出たところでようやく現場が見えてくる。

馬のいない荷馬車一台、荷車が二台。それを取り囲んでいる賊と争っている者達がいた。


本当に賊の襲撃があるとは、恐れ入ったねぇ。

なんで領主様はわかったんだろうな・・・。

今日は、領主様が事前に挙げていた『警戒すべき日』だった。

ここ最近、あたしらはずっとこの辺りの場所で監視していた。それでも襲撃の前兆は掴めなかったのにな。


・・・おっと。今は目の前の敵に集中だ。


現場に早足で近づきながら、徐々に速度を上げていく。

そして懐から小剣を抜いたところでダルから指示が飛ぶ。


「ラミアノ。弓を持っている奴から優先的に斬っていけ」

「あいよ」

「ゴルダ。俺と一緒に交戦中のヤツを助けに行くぞ」

「任せろ」


ダルとおっさんは二人で馬車の横で応戦している護衛の冒険者っぽい男の援護に向かう。あたしは単独で賊らの背面へ回る。そのまま一気に距離を詰め、最初に目に入った一人に狙いをつけると背中から小剣を突き立てた。続いて背負っていた剣を抜刀し、近くにいた賊の手首を斬り飛ばす。


「ぬあ!?」「うぎゃああああっ!」


背中に小剣が刺さった者は何が起こったのかわからぬまま前のめりにうずくまり、片手を失った者は悲鳴を挙げ両膝をついて倒れ込む。無防備になっている後頭部に剣の柄を叩きつけると、うつ伏せのままぴくぴくと痙攣して起き上がる様子もなくなった。


賊の人数がはっきりとわかんねぇ。多くて10ってとこか?

小剣を回収してる暇は無いな。とにかく周りから斬ってくしかねぇか。


あたしに気付いて向かってきた賊は二人。先に右からだな。

防具を身に付けていない右側の男は、仲間と挟み込もうと思っていたのだろう。あたしの死角の位置に回り込もうとしたが、あたしは一直線にその男に向かう。


「ひぃっ!?」


その男は小さく悲鳴を上げ、剣を大きく振り上げた。

隙が大きい構えになったのを見たあたしは、男の間合いに入った瞬間に脇腹をピッと撫で斬って、すぐに間合いを抜ける。


振り向いた瞬間、もう一人の胸当てを装備している男の斬り下ろしが目に入る。

体勢を捻って最小限の動きで躱し、相手の斬り下ろし動作が終わったその上から、武器を握っている手を目掛けて、あたしの斬り下ろしを重ねた。


「は・・・え・・・?」


武器を持ったままの手首がストンと地に落ちて唖然としている男に対して、横から首筋を斬り付けてトドメを刺す。

背後にはあたしに脇腹を斬られた男が膝を付いている。自らの傷口に手を当てて血だらけになっているその手を見て、戦意を喪失していた。これならトドメを刺すのは後でもいいだろう。


これで四人。

後は、荷馬車の側でダルとおっさんが足止めしている相手が二人くらい居る。その奥の荷車の脇で立っているのが三人。恐らく賊だ。死体も二つ転がっていて、性別がわからんローブ姿のヤツと軽装備の男。賊にやられた商人と冒険者ってところか。

荷馬車の方はダルとおっさんに任せて、奥に立っている三人を斬ろう。


あたしは剣をピッと一振りして刃に付いていた血を飛ばすと、逆手に持ち替えて奥の三人に向かう。真っ先に狙うのは、その中で唯一手に弓を持っている男だ。

あっという間に距離を詰め、剣をくるっと順手に持ち変える。そしてあたしの間合いに入るや否や飛び掛かって袈裟斬りにする。


「うぎゃあああああっ!」


肩口から腰へ斜めにスパッと斬り抜いた。斬られた男は後ろへバタンと倒れる。

一太刀でやられた仲間を見て狼狽した残りの二人は、数歩後ずさりすると、あたしに背を向けて別々に逃げ出した。


む・・・。

とりあえず片方やっとくか。


足をもつれさせて駆け出す男を追い掛け、背後から剣で凪払うと、剣先が逃げる男の肘を通り、腕から血飛沫が舞う。


「ひぃぃぃぃっ!た、助けっ」


ザシュ!


逃走動作が鈍ったところを、躊躇なく背中から剣で刺した。


これで六人。

反対方向へ逃げた一人はひとまず放置してダルとおっさんの援護に入ろう。


反転して馬車のある場所へ戻ると、ダルとおっさんの二人と賊二人が対峙していた。

そして馬車にもたれ掛かっている冒険者っぽい男が一人。足をやられて戦闘不能か。おそらく襲撃を受けた側の人間で、ダルとおっさんの救援でなんとか命を繋いでるようだ。


ダルとおっさんは手強いの引いたな。だが他に仲間はいなさそう。

てことは、あたしが戻れば三対二で数的優位になるわけだ。


瞬時に状況を把握し、賊二人組の背後へ素早く回り込み、間合いを詰める。

賊は二人とも上半身が皮装備。背後からは手首は狙えない。というわけで腿裏ももうら狙いだ。


低い姿勢で飛び込み、間合いに入った瞬間に男二人の尻の下を撫で斬る。

手応えあった!


10年以上も一緒にパーティーを組んでいるんだ。

あたしの背面攻撃を、ダルとおっさんも見逃すわけがない。


「今だ!」


ダルの掛け声と共に、ダル自身とおっさんが同時に飛び掛かる。

背後からあたしに腿裏を斬られ体勢を崩してしまった男二人は、ダルとおっさんの剣が降り下ろされるのをただ見届けるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ