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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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【番外編】マーカスの苦悩


マーカスが第七ホラス村の村長となる前の話。マーカス視点。



領都オルカーテの領主館、そのとある一室で俺は頭を下げている。隣にいるガルナガンテもだ。


「またえらく派手に暴れたものね。・・・ガルナガンテ、マーカス」


はぁ・・・やっぱりこうなった。

なんでいつもいつも、俺はこいつと怒られなきゃならないんだ・・・。







俺はマーカス。領都オルカーテの会計監査補佐官で十七歳だ。

隣のガルナガンテは同僚。同じく十七歳だ。


俺とガルナガンテは、ここオルカーテで生まれ育った同い年の幼馴染。

幼少期から悪ガキだったガルナガンテに、俺はとにかく振り回された。こいつのせいで痛い目に遭ったことは数え切れないし、命が危険に晒されたことすらある。


ガルナガンテは男爵貴族ノルテック家の六男で、生まれる前から跡継ぎから外れることが決まっていた。自由奔放にのびのびと育ち、仲間と笑い、みんなの先頭に立って突っ走っていく。

気易くて貴族らしくない奴だった。そしてなにより正義感があった。


俺も商家の四男で跡継ぎになることはなかったし、商人以外にやりたいことがあればやってもいいと言われて育った。

しかし俺はガルナガンテと違い、慎重派だった。

何をやってもいいと言われたら、逆に怖くなって安定志向になってしまうんだよ。

だから、ひとまず勉強して商人になるか、って思っていた。


幼少期、そんな俺たちの関係は、暴走するガルナガンテ、それを止める俺、だった。

やらかす原因はいつもこいつの暴走なのに、怒られるのはいつも二人セットで、こいつと俺、だ。

俺の精神は常に擦り切れていた。


そんな俺たちだが、十一歳から学生時代を迎え、それぞれの道へ進んだ。

正直俺はほっとした。やっとこいつの暴走から解放されたのだ。俺の擦り切れた精神は元に戻っていった。


学生時代、俺は比較的裕福な平民が通う領都の学び舎で、そこそこ優秀な成績を修めた。

商人になる道もあったが、安定志向の俺は食いっぱぐれのない役人、その中で事務官への道へ進むことにした。


ガルナガンテは王都の貴族学校に行った。周りが優秀すぎて何度も鼻っ柱を折られたらしい。成績は平凡だったもののなんとか卒業に漕ぎつけるくらいには努力した、とは後の本人の弁だ。


・・・それが、どうしてこうなった。

お互いに十五歳で学生を卒業したら、なぜか進む道が重なった。

俺たちは共に領都オルカーテで役人として勤めることになり、俺の隣にはまたこいつがいるようになった。


ちなみにこいつは十五歳の卒業と同時に、貴族学校で同級生だったという女性を連れ帰ってきて結婚した。

この世界では成人と呼ばれるのは十五歳からだが、結婚に年齢制限などはない。本人と互いの家が認めれば成立する。ただし十五歳未満は外聞が悪いとされるため、ほとんどの場合において十四歳までは婚約という形をとるのだが。


話を戻そう。

こいつが結婚したことも、同僚となったことも、確かにとても驚いた。だがこいつの中身は、なんら変わっていなかった。

そう、こいつは突っ走って暴走するのだ。

会計監査補佐官という立場上、不正があれば正す。だが、やり方が強引で影響が大きくなってしまい、その度にこいつと俺は関係各所に頭を下げに行き、始末書を書かされた。

もう少し穏便に収めるか、あるいは予め根回しをすればいいのだが・・・若かった。


そして、十七歳になった俺たちは、今回またやらかしてしまった。

きっかけは、この領都オルカーテを通過する馬車に対して、通行税を見逃す代わりに賄賂を要求する役人がいる、という噂に関する調査だった。

事件のあらましは省くが、結果として役人が何人か辞めることになり、平民も何人か捕縛された。また、捕縛された平民の中に第四ホラス村の村長の親族がおり、村長も責を負ってその任を辞することになった。


そうして俺たちは呼び出された。

レティシア・ツアィアノ・ホラス様。

ホラス領領主様にして、ホラス侯爵当主様。


呼び出された俺たちは、領主室へ通される。

部屋では、俺たちの上役のセロトラエさんが既に片膝をつき中礼の姿勢を取っていた。

他には護衛と何人かの役人がいて、レティシア様は執務机の上で忙しくペンを走らせている。

俺たちもセロトラエさんに習って、中礼の姿勢を取った。

下げた頭の上を、透き通るような声が飛んできた。


「あー、少し待ってね。これ書いたら応対するから」


頭を下げているので断定はできないが、おそらくレティシア様の声だろう。

そのまま待つことしばし。


不意にパンと柏手が響く。


「よし、それじゃやるわよ。面を上げなさい」


セロトラエさん、ガルナガンテ、そして俺は顔を上げ、レティシア様を見上げる。

瞬間息が止まる。威圧感がすげぇ。


「名乗りを許すわ」


俺はごくりと唾を飲んだ。


「会計監査官セロトラエと申します。この者達の上役であります」

「会計監査補佐官ガルナガンテと申します」

「同じくっ、会計監査補佐官マーカスと申します」


ひー、緊張で若干声が上ずってしまった。

レティシア様は特段気にせず、三人に対して順番に視線を合わせ、少々早口で名乗る。


「ホラス領領主のレティシアよ。そのまま聞きなさい」


今回の件のご沙汰が下るのを察して、俺の呼吸はまた止まる。

レティシア様が一呼吸置いて、口を開く。


「報告書は読ませてもらったわ。またえらく派手に暴れたものね。・・・ガルナガンテ、マーカス。此度の件は、ホラス領領主であるわたくしの不徳の致すところであり、其方らの責任は問わぬ」


どうやらお咎めなし・・・になったようだ。

いや、今回の件は確かにやり過ぎた。けれど俺たちが悪いわけじゃないから、こうなる可能性もちょっとあるかな、とは思ってたんだ。良かった、良かった。領主様がご理解がある方で本当に良かった。

止めていた息をふうっと吐く。おっと、いかんいかん。

ほっとして少し緩んだ姿勢をまた正す。


「異動を申し渡す。・・・ガルナガンテ」

「はっ」

「其方から会計監査補佐官の任を解き、第四開拓村、通称『第四ホラス村』の村長に任じる」

「拝命しました」


え?あいつ村長になるの?

ああ、今回の件で辞めた村長の後釜か。

でもこれ、左遷なのか、栄転なのか、全然わかんねぇ!

レティシア様は一つ頷き、ガルナガンテから俺に視線を移す。


「・・・マーカス」

「はっ」

「其方から会計監査補佐官の任を解き、第七開拓村、通称『第七ホラス村』の開拓団団長に任じる」


は?開拓団団長?

ってか、開拓村って今第六までしかないから、第七って新規開拓すんのか?

場所どこになるんだよ。


「マーカス、返事をせよ」

「あ、は、拝命しました!」


か、考える間もねぇぇぇ!


「セロトラエは後任の人選を」

「はっ!」

「ガルナガンテ、マーカスの両名は、至急引継ぎを行い、十日後に出立できるよう準備を整えなさい」

「「はっ!」」


十日後?引継ぎも含めて?嘘だろ・・・無茶苦茶言ってくれるぜ。

本当にどうしてこうなった。


「それとマーカス、其方、独り身よな?」

「はっ、独身であります」

「結婚を約束した者や、恋人は?」

「おりません」

「・・・ふむ、それはまずいな」


さっきからわかんねぇ事ばかりだ。身軽な方がいいじゃねぇか。

だが、知ったふりすることが状況悪化を招くのは良く知ってる。

だから聞く。


「その・・・ご説明をお願いしたいのですが」

「散村を統合して集落にしようとしているのに、そこに独身の村長を投げ込んでみよ。まとまるものもまとまらぬわ」


ん、ああ、分かってきた。

開拓したら、開拓団団長の俺をそのまま村長に据えるつもりなんだ。

そんで、その村長が独身だと第一夫人の座を巡って村の中で争いが起きる。

だから、最初から第一夫人の座を埋めた村長、つまり既婚者の村長が望ましい、と。

・・・貴族の説明、端折り過ぎだろっ!


「理解しました」

「ふむ・・・其方、結婚する気はあるか?」

「はへ?あ、いや、そりゃ、ありますけど」

「ならば出立までに第一夫人を決めよ。相手はこちらで用意する者から選ぶがよい」


レティシア様は傍らに控えていた役人を手招きすると、一言指示を与える。

役人は立礼し、部屋から出て行った。

うわ、これは、結婚相手をリストアップしろ、って指示っぽいな。

領主様の命令なんぞ逃げられん。覚悟を決めろ。


「ありがたくお受けいたします」

「では以上だ。其方ら、下がってよい」

「「「はっ!」」」


十日で出立準備して、仕事の引継ぎやって、そして結婚すんのか、俺。

なぁ、ガルナガンテよ。お前の暴走に、俺の人生は振り回されっぱなしだ。

まったく、どうしてこうなった。

あーあ、素直に商人になってりゃ良かったなぁ。


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