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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる9


ダルとおっさんが領主館へ呼び出された日の翌日。

前日と同じ様にあたしが早朝のギルド酒場に行くと、やはり前日と同じ様にダルとおっさんが既にテーブルに着いて待っていた。


お互いに軽く挨拶を交わしあたしは席に着こうとしたのだが、ダルが待ったをかけた。


「ギルド二階の部屋を借りている。場所を変えるぞ」


ふーん。穏やかじゃないねぇ。

こりゃあ、あれかい?なんかヤバい依頼でも貰ってきたんかねぇ?


こくりと頷いたあたしを見て、ダルとおっさんは黙って席を立つ。目線だけで『付いて来い』『あいよ』と会話し、出発前の冒険者達で賑わってる酒場を出る。

そうして二階の作業部屋まで移動してから、あたしら三人はようやく打ち合わせに入った。


やや重たい雰囲気の中、ダルから話が切り出される。


「昨日領主館に行った報告からするぞ。ゴルダには先に軽く話をしたが、俺が呼び出された件は『一閃』の指名依頼だった。依頼内容は、最近オルカーテ周辺で冒険者を襲っている賊の討伐だ」

「む・・・」


来たか、と思った。

調査ではなく討伐依頼を出してきたということは、賊の場所や規模の調べがついているんだろうか。


「そしてだな。これは領主様直々の依頼だった。極秘扱いで、表向きはギルドにも採集依頼ってことになっている」


マジか・・・。そりゃ断るのは無しだな。

酒場じゃ話せないのも道理だ。


あたしは腕を組んで黙ってしまったのだが、続けておっさんが口を開く。


「俺が呼び出された件も報告しておこう。ダルにもまだ言ってなかったな。結論から言うと、俺が元貴族フレシュナー家の人間だと領主様にバレた」


っ!?

あたしとダルが顔を見合わせる。


「あ~、心配すんな。お前らが漏らしたとか思ってねぇよ。領主様は真っ先にそこを否定された。パーティーに内紛をもたらす種を撒きたいわけではない、とな」


そりゃまぁ領主様には領主様なりの情報源があるのだろう。

だが、それを言ってきたということは・・・?


「それで領主様は、ゴルダに何を要求してきたんだ・・・?」


あたしが聞こうとしたことをダルが先に口にした。

もしかしたら言えないことかもしれない。

だが予想に反して、あっさりとおっさんは答える。


「いや、それが何も。単なる確認だとさ」

「「はぁ?」」

「他にも俺の身辺について詳しく調べていて色々質問されたんだがな。最後に『生まれが貴族』って確認を取ったら、用は済んだ、と言われて帰されたんだよ」


てっきり何かの取引材料にされたのかと思ったのだが・・・。

領主様のお考えはあたしらにゃよくわかんねぇな。

とりあえず、おっさんの件は一旦脇に置いて良さそうだ。


「ダル、おっさん。討伐依頼の方に集中しよう。別の事考えて片手間に請け負える仕事じゃないよ」

「ああ」「そうだな」


そうやって意思を統一させてしまえば、あたしら冒険者はスイッチが入り易い。

以後は作戦会議に没頭した。


あたしらが知っている情報に、領主様から入手した情報を加味して行動計画を立ててゆく。

オルカーテ周辺の賊被害は、ほとんどがオルカーテと王都の中間地点で起きている。だが、今回領主様から警備せよと言われた場所は、オルカーテと第四ホラス村の道中だった。

第四ホラス村は、オルカーテとホラス領北東にある国境砦の中間に位置する村で、領内の地理的要所だ。


「領主様はおっしゃっていた。領内には王都への道中を警備するという話を広げていると。実際、そちらは領軍から精鋭を配備するらしい」

「ダル。俺たちは配備が手薄な箇所の穴埋め役ってことか?」

「かもしれない。だがもしかすると・・・」

「・・・領軍を見せ札にして、本命は穴埋め役の方ってこともあるのかねぇ」


領軍が賊に襲われた事例は、今まで無かったはずだ。


「領主様からは、ご丁寧に警戒すべき日も教えてもらっている。だが全てを鵜呑みにするなという忠告も併せて頂戴していてな。要するに、いつも通りだ」


あたしら冒険者は事前に収集した情報を基に動き出す。だが状況は常に変化していくものだ。だから現場に着いたときには事前に得た情報を更新しながら対処していかなければならない。


依頼の重要性と難易度が相まって、朝からの話し合いは昼まで続いた。

そうして作戦がほぼ定まってきたところで、あたしは根本的なことを聞いていないことに気が付いた。


「そういや・・・領主様ってどんな方だったんだ?二人とも会ったんだろ?」


問われた男性陣は何とも言えない苦い表情を浮かべる。


「まだお若い方だった。だけど今まで出会った女性の中で一番怖いと思ったな」

「同感だ。領主室にいる間、ずっと首に刃物を当てられている気分だったぜ」


ダルとおっさんはそれぞれ似たような感想を述べた後、お互いに顔を見合わせてうんうんと頷いていた。

でもあたしが聞きたかった事とはズレている。


「聞き方を変えるよ。領主様は信用に値する方だったかい?」


再び問われた男性陣は、はっとして姿勢を正し、真剣な顔付きで言った。


「「信用できる」」


ダルとおっさんの声が重なった。


この依頼はなんとかなりそうだ。

あたしは直感的にそう感じたのだった。


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