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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる8


ロッツアリア歴594年。

この年はリズニア王国ホラス領において、領内を騒がせる一つの事件が起きた年でもあった。


ダルが25歳。あたしが23歳。おっさんは39歳のとき。

冒険者パーティー『一閃』を結成して丸11年。この年で12年目に入った。

既に五等冒険者になっていたダルとあたしは四等冒険者のおっさんと共に、冒険に明け暮れる日々を過ごしていた。

そんなある日の夜。一仕事終えたダルとあたしの二人は、冒険者ギルドの酒場で軽く飲みながら食事をしていた。


「殺されたって・・・ハリスとガストンが?」

「ああ。王領の手前、領境近くの街道でな。護衛を依頼した商人は、荷を捨てて何とか逃げ帰ってきた、って話だ」


冒険者パーティー『激雄げきゆう』。

ハリスとガストンという六等冒険者ペアで、ベテランといえるパーティー。

あたしもよく知っている。堅実な仕事をする気の良い奴らだった。

彼らは王都までの商人護衛依頼と、それとは別に手紙の配達依頼を併せて請け負っていた。

その道中、賊に襲われて殺された、という話をダルから告げられたのだ。


「ダル。この手の襲撃は去年から立て続けだ。これで何度目だよ」

「そうだな。俺が知る限り、少なくとも五回目かな」


あたしも全部は把握していない。

だが似たような襲撃事件が去年から頻繁に起きている。殺されなかったものの深手を負って引退することになった冒険者もいた。

共通しているのは、オルカーテから出発したかオルカーテへ向かう冒険者ばかりってことだ。


「他の地への配達や護衛の仕事は信用が無いと回ってこない。だから被害に遭っているのは必然的に信用のあるベテラン冒険者ってことになるな」


ため息交じりにダルはそう言った。

賊の手口は、道中に複数人で待ち伏せるありふれたものなのだが、これだけベテラン冒険者に被害が出ているとなると賊にもそれなりの手練れが居るのだろう。

どうも去年あたりからオルカーテの周辺も、そして街自体もきな臭くなっている感じがするんだよなぁ。そんなことを思いながら、街で聞きかじった噂話を口に出す。


「それに最近は食料品の値段も上がる一方だし、窃盗犯罪も増えている。街の連中、新しい領主様が来てから碌な事がない、って噂してるぜ」

「・・・・・・」

「ふーん。ダルはそう思っちゃいない、ってわけか」


あたしらが住んでいる街オルカーテ。この街はリズニア王国ホラス領の領都でもある。

そして領都オルカーテを中心とした広大な領地を治める領主様が交代したのが去年のこと。

新しい領主様はレティシア様といって、王位継承権も持っている王族の方だそうだ。序列が低いから王位に就く可能性はほぼ無いらしいが。


領内が少し荒れだしたのもちょうど領主交代のタイミングだったので、街の住人達の間には密かにそんな噂話が流れるようになったのだ。


「そう判断するには情報が足りないってのが理由の一つ。他にも気になる事があってな」

「聞こうじゃないかい」


あたしは木のコップにがれた酒を一口飲み、タイミングを合わせたようにダルも自分のコップに口を付ける。そしてほぼ同時に、テーブルにコップの底をタンッと鳴らすと、お互いの姿勢がぐっと前のめりになった。


「オルカーテの護衛業務や配達業務といえば、冒険者ギルドともう一か所、商業ギルドもやっているだろ。だが、商業ギルドに被害が出てないんだ。一件も、な」

「む・・・そういえば」


言われてみれば確かに。

単純に、領内がゴタついている、というのであれば被害のバラつきがあるはず。冒険者ギルドだけでなく商業ギルドも被害が出そうなものだ。だが、そんな話は聞いてなかったな。


「つまり、襲撃者は商業ギルドを避けている、ってことかい」

「あるいは、冒険者を狙い撃ちにしている、ってことかもしれん。いずれにせよ情報が足らなくてな。ベックさんとか商人の連中にも聞いてみるよ」


その日はこんな感じで話を切り上げたのだが・・・。

この件はいずれ自分達に関わってくる。

あたしもダルも、そんな予感を抱いていた。







それから三日後の朝早く。

この日は新しい仕事を請けるため、『一閃』のメンバー三人は朝からギルド酒場に集合、という約束になっていた。あたしが酒場に入ったときには、すでにおっさんとダルが隅の卓に着いて待っていた。


「よう。待たせたな、おっさん」

「おぅ、来たか」

「ダル。もう次の仕事は決まったのかい」

「そのことなんだが・・・とりあえず座ってくれ。ラミアノ」


別にあたしが遅刻してきたわけじゃない。ダルとおっさんが早目に来ているだけだ。

あたしらは一つ仕事を片付けると、それを見計らってギルドから次の仕事として幾つかの仕事を打診される。複数ある候補の中からダルとおっさんが選定すると、大抵の場合は一つか二つまでに絞られている。

そして昔からダルとおっさんは迷ったらあたしの勘に頼るところがあり、最終決定の場面であたしの意見を採用することが多い。

そんな仕事の選び方を繰り返しているうちに、本来の集合時間よりもダルとおっさんだけ早目に来て請け負う仕事を絞り込む、みたいなやり方が習慣になっていた。


あたしが席に着いたところで、ダルは口元に人差し指を立て『秘密の話』という仕草をしてから、周りに聞こえないよう声を絞って話を切り出した。


「実はな、今日、俺とゴルダに用事が入っちまったんだ」

「んん?」

「まず俺なんだが、今から領主館に行かなきゃいけない。なんでも『一閃』に指名依頼があるようなんだ。もうギルド隣の厩舎に馬車が用意されていて、お前に事情説明し終わったら連れていかれることになっている。一応、話を聞くのはリーダーの俺だけでいいらしい」


ダルは今朝ギルドに来た途端、受付のお姉さんからそのことを伝えられたそうだ。


それにしても、領主館からの指名依頼?

あんまりいい予感は・・・しねぇな。


指名依頼という単語に気を取られていたら、今度はゴルダも小声で話をし始めた。


「次は俺だ。昨日、俺の家に領主館から使いが来てな。ダルのとは別件で、今日の午前中に来るよう呼び出しを掛けられたんだ。だから俺もこれから領主館に行ってくる」


あたしがここに来る前にダルとおっさんは話を通していて、お互いに領主館に呼び出されたことを認識することになったらしい。


「ダルには指名依頼のために馬車で迎えが来てるってのもその流れで知ってさ。ならダルと一緒に馬車に便乗させてもらえないかと御者の人に事情を話して頼んだら、すんなり了承してもらえてな。そんなわけで、ちょっくら二人で領主館に行ってくるぜ」


なるほど・・・?

ダルは『一閃』のリーダーとして指名依頼の話をするために、おっさんは何か知らんがそれとは別件で、それぞれ呼び出されたのか。結果、二人揃って領主館へ行く、と。


「わかった。そんじゃ次の仕事の選定は延期。今日はこれで解散ってことだな。また明日の朝、集合でいいよな?ダル、おっさん?」

「ああ。報告もそのときにするよ、ラミアノ」「わかった。また明日な」


ダルとおっさんは荷物を担いで立ち上がり、酒場を出ていった。

領主館か。オルカーテで一番広い敷地にあるでかい建物だ。

使いっ走りの仕事で門の前までは行ったことがあるけど、あたしはまだ中に入ったことは無いんだよな。確かおっさんも無いはず。

でもダルは今までにも何度か出入りしたことあるって言ってた。あいつ、役所にも顔が利くのかな・・・。


ともかく二人が居ないんじゃしょうがない。

一人で軽く朝食を取ったあたしは、荷物を背負ってギルドの酒場を後にする。

よし。久しぶりに孤児院に顔を出すか。


孤児院。あたしが成人するまで世話になった施設だ。退所してからも年に数回訪れている。

ガキ共のちゃんばら遊びに付き合ったり、簡単な読み書きを教えたり。まぁ色々だな。

今日みたいにプライベートだけでなく、ギルドからの仕事で行った時もある。でも仕事で行くのは稀で、大半はプライベートだ。なぜプライベートで行くのか、といえば・・・『育ててもらった恩返し』なのだろう。たぶん。


子供の古着を何着か買って、これを手土産に孤児院へ向かう。

金を稼ごうと思ったら身なりを整えるのが大事だというのは、あたしが子供の頃に学んだことだからな。


孤児院へ着いたらまず院長に挨拶するのだが、今日は先客がいた。

見覚えのある馬車があったからすぐわかる。孤児院を後援している貴族様だ。

先客の用事が済むまで少し時間を潰そうかとも思ったが、ちょうど貴族様が孤児院から出てくるところだった。


出ていく馬車の邪魔にならぬよう、ひとまず正面の位置から少し横に移動する。

・・・えーと、どうすんだっけ、こういう時。

ああ、そうだ。右手を胸に当て上半身を傾けて礼をするんだったな。

貴族様はこちらを気にすることなく堂々と馬車に乗り込む。馬にピシッと鞭が入り、馬車はあたしの前をゆっくり通過して孤児院から出ていった。


姿勢を戻したあたしは、遠ざかる馬車の方を見て思う。

あの貴族様はあたしが孤児院に居た頃もたまに来ていたが、当時は父親の後ろにぴったりとくっついて歩くお坊ちゃんだった。あの令息が今や当主様。立派になったものだ。


・・・いや、それはあたしもか。

冒険者になって食事や寝床に困らなくなった。冒険者の後輩もたくさんできて、あたしに頭を下げてくる子達も増えたしな。そいつらの世話をしたりするのは、まぁ悪い気分じゃない。


けれど・・・。


この胸の内に漂うような『満たされない感覚』に気付いているんだ。

ダルやおっさんには家庭がある。それは己の全てを賭けて守るべきもの。

後輩達は世話してやりたい対象ではあるが、そういうのとはちょっと違うんだよな。


あー。

三日前の夜、酒場でダルと食事をしていたとき、言われた言葉を思い出しちまった。

あれは、あたしが『自分は薄情な人間さ』『家庭なんか持ったら剣が鈍りそうなのが嫌だ』などと自虐的な冗談を口にしたときのことだ。


「ラミアノ。守るべきものを持たずに突っ走ってきたのがお前の強さではあるだろうさ。んで、守るべきものを持った瞬間弱くなる奴がいるのも事実だ。・・・でもな」


そこまで言って、ダルは酒の入ったコップを置き、軽く腰を浮かせて椅子に座り直した。


「俺は知ってるぜ。なんせガキの頃から見てきたんだ。お前が情に厚くて、面倒見の良い奴だってことをな」


その一瞬だけ、ダルは真剣な顔付きで言った。

だがすぐに表情を崩して、


「お前は守るべきものを持っても弱くはならねぇよ。むしろ益々強くなるんじゃねぇの?わっはっは!」

「なんだいそりゃ。あっはっは!」


・・・ああいうこと言われちまうとさ、あたしなんかでも思っちまうんだよ。

ダルやおっさんみたいに、家庭を持ってみたいな、と。

けれど男連中がちっとも下心持って寄ってこないんだよな。


はぁー。どっかに良い男いねぇかなぁ・・・。


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