【番外編】道は分かれ、また交わる7
冒険者パーティー『一閃』を結成してから季節が一つ移り変わった頃のことだ。
ダルから衝撃の報告がなされた。
「最近、彼女ができたんだ」
はぁ?いつの間に?
最近って、冒険者活動で忙しかったのに彼女なんて作る暇あったのか?
彼女の名前はトワラ。歳もダルと同じ14歳。
聞けば、商人ベックさんの姪っ子とのこと。
馴れ初めは、忘れもしない初めての採集クエスト。おっさんが怪我をして、救援を呼ぶためにダルがビス村に行った時だ。
ビス村はベックさんの生まれ育った村で、彼の親兄弟もその村に住んでいるというのは前に聞いている。
ダルがビス村に行った時、ベックさんだけではなく、ベックさんの兄弟、そして姪っ子のトワラもその場に居たのだそうだ。
その時に見た、叔父のベックさんと対等に交渉するダルの姿に、トワラは一目惚れしたらしい。
彼女はオルカーテにあるベックさんの家に移り住み、ダルに猛アタックしたのだそうだ。
すげぇ行動力だな・・・。
でも正直なところ、あたしは長続きすることは無いと思っていた。
なぜなら、その報告の後もダルは精力的に冒険者活動を続けていたし、護衛依頼なんかを請けたりしたら『一閃』でまとまって10日間以上も街を離れることだってざらにあったからだ。なかなか二人で会えてねぇんじゃないかな。
それ以来。ダルからトワラの話はまったく出てこなかったし、あたしも別れたのかと思ってちっとも話題にしなかった。
いつしかトワラのことは綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
さらにそこから四年の時が流れて。
ダルが18歳。あたしが16歳。おっさんは32歳のとき。
その頃には、あたしら『一閃』はオルカーテで一番の冒険者パーティーになっていた。
ダルとあたしは六等冒険者になっており、五等になるのも時間の問題だろう、と言われていた。
そしておっさんは四等冒険者になっていた。ぶっちゃけ四等冒険者は冒険者としての最高到達点だ。
ちなみに32歳で四等ってのは結構若い方になる。ギルドの職員さん曰く、『優秀な冒険者が大怪我することなく最前線で20年以上功績を積み上げてようやくなれる感じ』らしいからな。
そんなある日のことだ。
ダルから衝撃の報告がなされた。
「近々、トワラと結婚するんだ」
はぁ?お前ら、続いてたのかよ!?
久しぶりにトワラの話題が出たと思ったらこれだ。
流石に驚いた。とはいえこれは祝福すべきことだ。
ダルの祝宴の前後は冒険者活動を休みにして、あたしとおっさんもダルの新居への引っ越し作業を手伝った。
他にも手伝うことは山のようにあって、本当に大変だった。
冒険も休んで集中的に手伝いだけをやってんのにこんだけ忙しいってことは、やっぱ結婚って大変なんだなぁ。
そうして改めて気が付いた。
冒険者からも商人からも、そして同世代だけでなく大人からも。ダルの結婚を聞きつけた街の住人から手伝いの申し出がひっきりなしにやって来るんだ。
力仕事は冒険者仲間が片付けていき、家具やら祝宴の料理やらは親戚となるベックさんら商人達が手配した。
こいつ、すげぇ人望あるなぁ・・・。
かくして盛大な祝宴が開催され、ダルとトワラは結婚した。
トワラは綺麗な女性で、祝宴の最初から最後までとても幸せそうだった。
祝宴が終わり片付けも済んで、招待した連中が陽気な足取りで去っていく。
最後まで残っていたあたしもようやく家路に就くことにした。
成人前に孤児院から出たあたしは、その頃借家に一人で住んでいた。
帰宅するとすぐにベッドに倒れ込み、仰向けになって天井を見上げる。
そして一切の光を取り込まないように目をきつく瞑り、両腕を交差する形で顔を覆った。
はぁ・・・。あたしの方が先だったのになぁ・・・。
灯りの無い部屋の中で、結婚したダルのことが頭に浮かんでは消えてゆく。
そうして思考を堂々巡りさせている内に、ふわりと眠気が誘ってきた。
こんな日くらい休んでも・・・はぁ、やるかぁ。
このまま寝てしまおうかと思ったが、習慣になっていた、いつも寝る前にやっている魔言の練習を始めてしまっていた。
「光よ、集まれ」
ベッドに仰向けのまま右手を天井に掲げて繰り返す。
「光よ、集まれ」
不意にその瞬間は訪れた。
「光よ、集」《まれ》
・・・っ!?
一気に眠気が散った。
がばっと身体を起こし、発声の感触を確かめるように指先で口元に触れる。間違いない。これまで実際に見たのは片手で数える程しかないが、魔法士が唱えていた魔力の通った言葉だ。
この日、あたしは初めて魔言を唱えることができた。
目が冴えたあたしはその後も何度か繰り返し、何度か語尾だけの魔言を成功させ、そしていつの間にかぐっすり眠っていたのだった。
翌朝。
あたしはおっさんの元へ行き、少々強引に連れ立って一緒に冒険者ギルドの訓練場へ向かった。
「おいおい。なんだよ、こんな朝早くから引っ張り出しやがって。俺ぁ、昨日の酔いがまだ残ってんだからよぉ」
訓練場に着いて鍵を掛けた途端、おっさんは愚痴を零す。
普段から身嗜みが整っているおっさんには珍しく髪はボサボサで、少々酒の匂いが残っている。昨日の祝宴でかなり飲んだようだ。
あたしはどこから話そうかと少しだけ考えたが、結局簡潔に言った。
「昨晩、少しだけ魔言が使えるようになったんだ。魔法の発動はまだ無理だったけど。そんで印章の魔道具を借りたいんだが、いいか?」
「・・・それで、訓練場ってわけか」
自然とおっさんの目つきが真剣になる。
普段は冒険の最中に人目のないところで印章の魔道具を借りていた。今日は街に居るので、人目を避けるためにここに来たのだ。
ここしばらく冒険を休んでいたから魔道具を使った鍛錬をしてなかったが、早目に確認しておきたかった。
あたしが本当に魔力持ちになったかどうか、ということを。
おっさんは首に掛けていた印章の魔道具を服の中から引き上げるとあたしに手渡す。
まだ一度も魔力を通せたことがないが、声に魔力が通せたのだ。魔道具にも通せるはず。
そう思って魔道具を持った。
「うおっ!」
思わず声が出ちまった。持った瞬間、今までと感触が違うことがわかったからだ。
おっさんもそれを察して、訓練場にあった適当な木の切れ端を持ってきた。
「ラミアノ。そのままこれに印を押してみろ」
「お、おう・・・」
木の切れ端に魔道具を押し当てる。数秒待って魔道具を持ち上げると、木の切れ端にハッキリと印が押されていた。
「・・・おっさん」
「ああ。お前、魔力持ちになってるぜ」
魔法の鍛錬を始めて丸四年。
二日前までは何の前兆も無かったのだが、突如あたしは魔力持ちになってしまった。
そしてこのことは、後に人生を一変させる切っ掛けとなるのだった。




