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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる5


「おっさーーん。周囲を見て来たけど、誰もいなかったよ。こいつ一人だったようだね」


おっさんと交戦していた見知らぬ男を殺した後、軽く周辺の見回りを済ませて、あたしは先刻の戦闘現場に戻ってきた。現場は広い範囲で血が撒き散らされて、匂いもすごいことになっている。


「まぁ座んなよ。足、痛むだろ。ああ、一応周りに注意を払っといておくれよ。・・・そんで、何があったんだい?」

「んじゃ座らせてもらうか。よいしょっと。・・・えっと、お前が火ぃつくもん探しに行った後から話すぞ」


怪我している足を気遣いながら、おっさんは丸い石にそーっと腰掛けた。

座りながらも右手で杖をつくように剣を握っている。いざという時にすぐ立ち上がれる姿勢だ。


おっさんの話によるとこうだ。

あたしが薪を拾いに行くためにここを離れてから、おっさんはこの場所で大人しく座って周囲を眺めていたのだが、しばらくすると街道を歩く人影が見えたのだそうだ。

座ったまま「おーい」と叫ぶと向こうもこちらに気付き、街道側から歩いてやってきたのがこの見知らぬ男だった。腰に短剣を下げて、小弓と弓筒を背中に装備していたから、その男に対するおっさんの第一印象は冒険者か狩人だった。


なるほど。「おーい」という呼び声は、あたしを呼んだわけじゃなかったのか。


それで接近してきた男は座ったままのおっさんを見て、「怪我してんのか?」と尋ねてきた。だからおっさんは「そうだ。動けないから助けてくれないか」と話を持ち掛けた。

すると男は何も言わず腰から短剣を抜いて、斬り掛かってきたという。

おっさんは咄嗟に背もたれにしていた荷物を盾にして男の初撃に対処すると、その荷物の裏にあった剣を手にして立ち上がった。

そして剣を抜きつつ男の追撃を剣で逸らした。


微かに聞こえた剣撃の音はこの時のものだったようだ。

ここまでの話から推察すると、男は追い剥ぎの類だろうか。


剣を抜かれて狼狽し距離を取ろうとする男。対しておっさんは踏み込んで間合いを詰めようとする。だが足の怪我で踏み込むことができず、男に距離を取られてしまった。

男は踏み込んでこないおっさんを見て、立つのが精一杯だと判断し、今度は背中の小弓を手に持った。そして矢を一本放ったところで、あたしが男の背後から現れた。


「・・・というわけさ。この男は俺も知らん」


『突如おっさんに降り掛かった災難だった』ってわけかい。

事の顛末を聞いてあたしの中の認識は、この結論で固まった。

もしかしたらおっさんの知り合いだったり、そうでなくとも相手から何か恨みを買っていたり、という可能性も考えた。でもおっさんの説明に何かを誤魔化す感じはしなかった。

この世界に理不尽な事なんざありふれている。これもそんな理不尽の一つだろうさ。


「にしても躊躇なく斬ったなぁ。・・・ラミアノ。普通の奴ならあの場面、状況を確認するために声を掛けてからどちらが悪いか判断しようとしただろう。だがお前は見た瞬間に斬っていた。信用してくれてたのか?昨日会ったばかりの俺を」

「んー。違ってたらどうしよう、なんて考えてたらこっちが死ぬだろう。それに・・・」

「うん?」

「もし違ってたら、そんときゃおっさんも斬ってたさ」


それを聞いたおっさんは、一瞬きょとんとした目を向けたが・・・


「ふっ・・・はははっ!そりゃそうだ。ふはははっ!」


破顔して愉快に笑った。


これは別に冗談ではない。

おっさんとあたしの剣技は大きな実力差がある。けれどおっさんが足に怪我を負っていること、そして昨日の打ち込みで立ち回りを見たことが大きい。

今この場で斬り合いをしたら、あたしに分があると踏んだのだ。


そして、それはおっさんの認識と合致した。

仮に今、こいつ(ラミアノ)とやり合ったら分が悪ぃな、と。

つまり子供の冗談だと思ったから笑ったのではなく、自分(おっさん)の実力とこの状況下での有利不利を、あたしにほぼ正しく見切られたと悟ったが故に、面白くて笑ってしまったのだ。


「痛っ・・・つぅ。笑うだけで傷に響きやがる」

「おっさん。ダルが戻るまで大人しくしときな」


動けないおっさんを尻目に、あたしはさっきの場所で一度捨てた木の枝を掻き集め、まずは火を熾す。

次に、まだ生暖かい男の死体や荷物を漁り、金目の物や使えそうな道具を選り分け始めた。

お、冒険者タグがあった。


「この男、冒険者タグ持ってたよ。名前はゾグラン。七等冒険者だね」

「そうか。本人の物でない可能性も一応あるが、それはギルドに提出だな。死体はもうしばらくこのままだ。ダルと救援の大人が戻ってくる。彼らに説明したら処理しよう」


ここらは岩場だから穴を掘ったり土を被せたりするのに適していない。埋めれるところまで引きずることになるな。

ダルが来てからやりゃいいか。

・・・うん?


「もう一つ識別タグあったよ。こっちも名前はゾグラン。でもこれ、冒険者タグじゃないよね」

「そいつぁ、商人タグだな。そうか、商業ギルドの人間でもあったか」

「おっさん。どうすんだ、これ。商業ギルドに提出すんのか?」


あたしは商業ギルドの事をよく知らない。おっさんに任せるしかない。

判断を委ねられたおっさんは少し考えていたが・・・


「いや、それも冒険者ギルドに提出だ」

「・・・ふーん」


少し意外だったが、まぁいいや。


それからさらに選り分けを進めたが、少額の貨幣以外には大した物は無かった。でも男が装備していた短剣と弓は結構使いやすそうだったな。

選り分けを済ませたあたしは、おっさんと他愛の無い会話をしながら、もちろん周囲の警戒もしつつダルの帰りを待った。


救援を呼びに行ったダルは、鐘一つ分くらい経った頃、荷車を引きながらようやく戻ってきた。後ろに大人を一人連れてきている。

あの人は・・・。そうだ、確か商人のベックさんだ。土木工事の現場で働いてたとき、木材を卸しに来てるのを何度か見た事があった。


あたしらの元に来るなり、彼らは叫んだ。


「うわぁ!なんだ、これ!血だらけじゃねぇかっ!」

「ひ、人が死んでる!?」


事情を知らない彼らがこの惨状を見せられれば無理もない。

おっさんは、あたしにしたのと同じ説明をダルとベックさんにもすることになる。

ダルとベックさんは終始落ち着かない様子だったが、なんとか話を聞いてくれた。

ここであたしらとベックさんの面識を補足すると、ダルとベックさんは互いに何度か話したことがある。その光景を現場でよく見ていたから、あたしはベックさんを認知していたけれど、ベックさんの方はあたしの事をよく覚えていなかった。ベックさんとおっさんは初対面同士だ。


あたしが男を殺したことを知ったダルの反応は「すげぇじゃん!」だった。後から思えば、あたしもダルもガキの癖に図太い神経していたものだ。

続いて、状況を把握したダルから報告がなされた。


「ビス村に行ったら行商に来てたベックさんが居てさ。村で荷車の積み荷空けてもらったから、その時の処分費用とベックさんの手間賃でゴルダの銀貨一枚使わせてもらったぜ」


ベックさんはオルカーテに店舗を持つ商人なのだが、実家がビス村で、彼の兄弟もこの村に住んでいる。そのためよく行商としてビス村を訪れるらしい。

彼の荷車を使うために、積んでいた商品を採算度外視で処分してもらったそうだ。ダルの交渉は流石だし、事前に金を預けたゴルダの判断も良かったのだろう。


「ベックさん。この死んでる男はビス村の村人ではないんだよな?」

「ああ。ビス村は俺の生まれ故郷、そして俺の地元だ。こんなヤツは知らねぇな」


念のためダルがベックさんに確認をとる。

これからビス村へおっさんを運ぼうとするのに、村人を殺しちまった、なんて揉め事にしかならねぇからな。

ベックさんの話から『死体の男はビス村の村人ではない』ということがわかった。浮かんだ懸念が払拭されたので、おっさんを荷車に乗せて運べると思ったのだが。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!ダルの話だと、怪我人を乗せてほしい、ってことだったが、流石にあの死体は乗せらんねぇぞ?」


ベックさんの言い分は当然だ。

あたしらは、死体は埋めていくから安心してくれ、と伝えた。

だがベックさんは更に懸念を漏らす。


「その死体の男が本当に追い剥ぎだったとしても、俺からしたらあんたらも完全に信用できねぇ。だから、俺らの村に入れるわけにはいかねぇよ」


ここでいう『俺らの村』とはベックさんにとって地元でもあるビス村のことだ。

まぁ確かに言われてみればそうだよな。

立場的にあたしらは、争い事をした冒険者。人を斬った余所者。村に引き入れたら揉め事の種になるんじゃないか、と思われても不思議はない。


「ここで起きた諍いでどちらに非があるか、俺にはわかんねぇ。一度冒険者ギルドを通すのが筋だろう。だから提案だ。ビス村じゃなくてオルカーテに運ぶなら手伝ってやるぜ」


ベックさんは妥協案を示してくれた。

今からだと夜になっちまうが、オルカーテに運び、冒険者ギルドに説明をするのが一番間違いない。


「ベックさん。それでよろしく頼む。追加で謝礼も支払う」


怪我した足を伸ばし座ったままの姿勢でおっさんがベックさんに頭を下げ、ベックさんも力強く頷く。

よし、決まりだ。


話がまとまったので、さっさと死体の処理だけしてしまおう。これはあたしとダルでやらなきゃな。

土のある場所まで二人で引きずって、軽く穴を掘って処理した。埋めたというよりは土を被せて覆ったというのが正しいが、あまり時間は掛けれないからな。


現場の処理を済ませたので、ようやくこの場所からオルカーテに向けて移動を開始する。

おっさんと荷物を乗せた荷車を、あたしとダルで引き始めた。ベックさんは後ろから押してくれている。

ちなみに、ベックさんが一番後方なのは、もしもあたしらが良からぬ事を考えたとしても逃げやすい位置に、という意味もあるのだが。


荷車を三人掛かりで懸命に引いた結果、陽もとっぷりと暮れた頃、ようやくオルカーテに到着した。

街の西門は閉じる直前だったが、ギリギリ入れたのは運が良かった。

この街の門は東西南北にそれぞれあり、南門以外は基本的に夜一つの鐘で閉ざされる。王都方面へ繋がる南門だけは常に開きっ放しなので、最悪南門に回れば入れるのだが、今回は夜一つの鐘が鳴ってすぐのタイミングで、なんとか入れてもらえた。


引いた三人もへとへとだったが、おっさんも相当キツかったはずだ。

冒険者ギルド近くの診療所へ運び込まれたおっさんは、すぐに治療を施された。

あたしとダルは報告のため冒険者ギルドへ向かった。

ギルドへ行くと受付のお姉さんに大層心配された。あたしが血まみれだったからだ。まぁ全部返り血なんだが、それを伝えたらさらに心配された。


簡単な事情聴取だけされて、本格的な報告は明日おっさんと三人で、ってことでその日は終わった。クエストは当然失敗だが、採集してきた中途半端な数の薬草は一応納品させてもらえた。


翌日、おっさんは杖を突いてびっこを引きながらギルドへやってきた。そしてあたしらと一緒に長い事情聴取を受けることになる。

襲ってきた男の人相とか会話した時のやり取りとか、結構細かいところまで聞かれた。

男の遺留品、というか我々の戦利品はベックさんが一時保管してくれていて、ギルドにはこの日に提出した。

あたしら三人に対するギルドの仮処分はひとまず最低3日間のクエスト受注禁止。

男が所持していた識別タグが本人の物という前提の元に、ゾグランという男の身元や素行についてギルドの方でも調べるらしい。


結局、あたしとダルの処分は当初の通り3日間の受注禁止だけで済むこととなったが、おっさんだけは受注禁止30日間と罰金の本処分を受けた。確かカントク責任がどうとか言ってたっけな。とはいえ怪我をしたおっさんはしばらく療養生活に入るので、実質罰金だけのようなものなんだけどさ。


あたしとダルの処分明けの日のこと。

四日前のクエスト失敗など気にも留めず、あたしとダルは二人でギルドへ土木工事のクエストを請けに行った。

そしたらなぜか受付のお姉さんから『駆け出し卒業』を言い渡された。

クエストは失敗したのにな。

でもこれで堂々と冒険者を名乗れるぞ。


そうしてしばらくは、ダルと二人で土木工事の現場へ行ったり、街近郊で採集をして楽しく冒険をしたりしていたのだが。そんなある日、ギルドへ行くとおっさんの姿があった。

そうか、そろそろおっさんも処分が明けた頃か。

一階ロビーの壁際にあるテーブルに座っていたおっさんは、あたしらを見つけると手を振って呼んできた。

出会ったときと同じ様に髭を生やすこともなくサッパリとした風貌だ。身だしなみも整えられていて、無精者が多い冒険者の中ではやはり珍しい。

久しぶりだな、と互いに挨拶し、積もる話でもしようかとあたしとダルも一緒のテーブルに着く。


「おっさん。怪我はもういいのかい?」

「ああ。傷は塞がったし、歩くのは問題ないな。そのうち走れるようにもなるだろうさ」


どうやら怪我の具合は快方に向かっているようだ。

おっさんには家庭があるし、生活のためにも冒険者に復帰できて良かったな。

あたしらの方も駆け出しを卒業して元気に冒険者をやっていることを伝え、互いに近況を報告したところでおっさんは姿勢を正した。


「ダル。ラミアノ。助けてくれてありがとう。そして、クエスト失敗させて済まなかった」


おっさんは頭を下げてきた。

まぁ、これを言うためにあたしらが来るのを待っていたんだろうな、とは思ってた。


「ゴルダ。頭を上げてくれ。ゴルダもようやく冒険者復帰できたところじゃないか」

「そうだよ、おっさん。それにおっさんも言ってたじゃねぇか。あれは失敗してもいいクエストだ、ってさ。こうして皆生きて帰ったんだから良かったじゃん」


ダルとあたしはそう言って笑い、おっさんは頭を上げてもう一度「ありがとう」と言った。

用件は済んだかと思ったが、おっさんは姿勢を正したまま続けた。


「ここからはお願いだ。俺を二人のパーティーに加えてくれないか」


それを聞いてあたしとダルは顔を見合わせた。

『パーティーを組まないか』ではなく『パーティーに加えてくれ』と来たもんだ。


「あたしはいいと思うけど、どうする、リーダー?」


初めての呼ばれ方をされて一瞬苦い顔をしたダルだったが、あたしの言葉で覚悟を決めたようだ。


「俺もいいぜ。ちょっと驚いたけど」


そう言ってダルは立ち上がり、テーブル越しにゴルダに手を差し出す。


「歓迎するよ、ゴルダ」

「ああ。よろしくな、ダル。ラミアノ」


こうして、駆け出しを卒業したばかりの七等冒険者ペアにベテラン五等冒険者が加わるという異色のパーティーが結成された。

パーティーの名は『一閃いっせん』。

傍目(はため)には、14歳と12歳の子供に28歳のゴルダが付き従っているように見えたため、同じ冒険者の中にはゴルダを嘲笑の的とする者もいたが、それは結成してしばらくの間だけだったという。

彼ら『一閃』は直ぐに頭角を現し、数年で街一番の冒険者パーティーへと駆け上がるのだった。


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