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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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【番外編】道は分かれ、また交わる3


おっさんと出会った日の翌朝。

孤児院の人には朝食を抜くことを伝えて、集合場所のギルドへ向かう。


朝二つの鐘にはまだかなり早かったが、ギルドの前にはすでにおっさんとダルが居た。

そして、あたしたち以外に何人もの冒険者がいた。


「おっさん、ダル。おはよう」

「おう。来たか」

「おはよう。ラミアノ。朝早くなのに、たくさん冒険者いるなぁ・・・」


あたしとダルは、まだ街の中で完結する依頼しか受けたことがない。普段はもう少し遅い時間にギルドに来ても、何も困ることはなかったし、冒険者がこんなに集まるような場面に遭遇する事もなかった。

この時間にこれだけ冒険者が集まっているということは、この時間でなければならない理由があるのだろう。


孤児院で生活しているあたしは、朝早く孤児院の皆と一緒に街の清掃をしている。だからこの時間帯のギルドの様子も知っているかというと、そうではない。

孤児でやる清掃は街の人の邪魔にならぬよう、人が集まってきたらさっさと立ち去るのが暗黙のルールだからだ。

清掃が終われば一旦孤児院に戻って朝食を取るので、仕事を請けるためにギルドに来るのはその後になる。

だからこの時間にギルドに来ることなんて、あたしは一回もなかった。

おそらくダルもそんなに多くはないはずだ。


「まずは中に入って腹ごしらえをしようぜ。付いて来いよ」


おっさんに連れられてギルドの入口をくぐる。

うおっ!?ギルドの中もすごい人だ。

特に依頼掲示板の前は人だかりが出来ている。


「こっちだぜ」


おっと、いけね。おっさんに付いて行かねぇとな。


フロアにいる冒険者たちの熱気を感じながら、あたしら子供が普段は行くことのない奥の酒場へ進んでいく。

酒場に入ると、既に食べ物のいい匂いがしてくる。

あたしら子供からすると、ここに来ただけで何か大人に一歩近づいた気になるよな・・・。


ここもやはり冒険者たちで賑わっていた。

カウンターの前には5,6人くらい並んでいる。


「さ、後ろに並ぶぞ。それと、ほら」


おっさんは、あたしとダルにそれぞれ銅貨三枚ずつ渡してきた。

うわー。他所の人から奢られるなんて初めてだ。なんかドキドキするぞ。


もちろんこれは、注文して支払うのは自分でやれ、ということだ。

そして、なぜそうするのかというと、ギルドの酒場を利用したことのないあたしらに注文のやり方を教えるため、というのが理由の一つ。


そしてもう一つ理由がある。

弁当のまとめ買いができないからだ。


ギルドの酒場のメニューは、朝と昼は日替わり定食しかない。日替わり定食は銅貨二枚だ。

夜は日によってバラバラだが、品数も増えて酒なども飲める。

そして、朝でも夜でも弁当が銅貨一枚で買える。これが安いのだ。ただし、依頼を受ける冒険者に限り一人に付き一日一つだけ、という決まりがある。


今回あたしらは、三人とも日替わり定食と昼食用に弁当を買うことにした。だから代金は一人につき銅貨三枚。

ここでおっさんが、三人分の銅貨九枚を支払おうとすると、一人で弁当を三つ買ったという扱いになってしまうらしい。


ギルドの酒場の支払いは、現金ではなく、冒険者タグをカウンターにある魔道具にかざすことで処理される。

このとき弁当を買っていると、魔道具をかざしたときにチェックが入り、一日のうちに二つ以上買おうとすると、ここで止められてしまうのだそうだ。


もしも今回あたしらがうっかりした場合は、買占めとか転売とか、そういった悪意あるケースではないが、いずれにしろギルド職員に弁明しなければならなくなるし、口頭注意を受ける羽目になるだろう。

それを回避する意味もあり、おっさんは奢る分を先に現金で渡してきた、というわけだ。


首尾よく注文を終えて空いているテーブル席に座り、あたしらは日替わり定食を食べ始める。

・・・美味い。孤児院の食事より味が濃い。

もっと早くギルドの酒場の事を知っていればと思った。おそらくダルも似たような事を思っただろう。


「弁当は銅貨一枚か・・・。これ目当てで依頼を受ける冒険者もいるだろうな」

「これ持って街の外行くんだろ?昼食なんて滅多に食べないから楽しみだよ」


目の前の定食を美味い美味いと言いながら食べているのに、もう昼食の弁当の話をするあたしらを、おっさんは楽しそうに眺めていた。

定食を全部食べ終わったところで、おっさんは今日の段取りを話し始めた。


「今日は街の西にある湿地帯へ行く。街道沿いだからルートは問題ない。リダウ草、タラチ草の薬草二種を採る。足元がぬかるんでいる所にあまり入る必要はない。後で靴や服の手入れが大変になるから徹底的に避けろ。幸いにも天候は良好だ。採集は昼まで。現地から一番近いビス村ですら結構距離あるから鐘の音ではなく陽の位置で判断だな。そしたら昼食を取る。食ったら帰る。こんなとこだ」

「西の湿地帯はレコの根も採れる、って現場の人に聞いたことあるんだけど」

「ダル。いい質問だ。レコの根を採るには水辺に入る必要があるんだ。今日は採らないが、取引価格は結構いいんで、どんな場所に生えてるか向こうで教えてやるよ」


おっさんはあたしらの質問にも慣れた感じで説明する。


「いいか。この最初の段取りは大事だ。この先冒険者として生きていくなら、冒険前には必ず段取りを確認しろ」

「うん」「わかった」


実際のところ、冒険者でなくともあらゆる仕事において段取りは大事だ。

子供の頃の行き当たりばったりな性格は、ゴルダに指導されたこの頃から徐々に矯正されていったと思う。


「最後に。冒険は命あっての物種だ。この依頼は失敗してもいい依頼だ。命だけは守れ」


この依頼は、か。

言葉の裏側から、逆に失敗できない依頼もある、ってことがなんとなく伝わってきた。それがどんなものなのか、今はまだわからないけどさ。


ギルドを後にしたあたしらは、冒険に出るため街の西門へ向かう。

衛士に冒険者タグを見せながら名前と採集目的であることを告げると、すんなり通してくれた。


街の外へ出てしばらくは、あたしもダルもわくわくして興奮を抑えられずにいた。

最初はこうなるのもしょうがない。

朝陽を背に受けながら街道を西へ歩き、やがて長閑のどかな風景が広がるようになり、あたしらはようやく落ち着いてきた。


「そういや、おっさんていつから冒険者やってんの?」

「俺かー?えっと13の時からだな」


気持ちが平静な状態に戻ってきたところで、あたしはなんとなくおっさんの身の上話でも聞こうかと思い、話を振ってみた。

おっさんは軽い口振りで話し始めたのに、中身はあまり軽くなかった。


おっさんは、物心付いたときにはもう母親と二人暮らしだった。その母親も早くに亡くなり、おっさんは孤児院に入った。それがなんと、あたしがいま住んでいる孤児院なんだとさ。

冒険者になってからは金が稼げるようになり、さっさと結婚。

今は街に居を構えて息子三人の父親になる、と。


虫が喰ったように穴だらけな身の上話だった。所々、かなり端折っているのがわかる。

けど・・・詳細、聞きづれぇー。生い立ちのあたりは特に。


「はぁー。おっさん、冒険者になる前が既に大冒険って人生だなぁ」

「ははは。冒険者になってからの方が安定してるかも、な?」

「ゴルダ。俺たちにそんな話、してよかったのか?」


ダルに問われておっさんは、見下ろしていた顔を上げて遠くを見た。


「・・・なんでかな。自分が孤児だった話とか、家族以外にゃあんましてこなかったはずなんだがな。お前ら、ちょうど俺の息子らと同じくらいの歳だったんで、なんかつい家族に話すみたいに、な」


あたしらが子供だから、ってことかな?

だからといって軽んじているってわけでもなさそうなんだよな・・・。

おっさんも自分で理由わかってねぇみてぇだし、聞きづらいところは置いておいて、聞きやすそうなことを聞くとすっか。


「おっさん、ソロなの?パーティーとかは?」

「ここ半年くらいソロだな。ソロになる前は男三人で組んでたんだがな。片方が怪我で長期離脱。もう片方も結婚を期に引退するってんで、解散になっちまったんだよ。まぁよくあることだ」

「ゴルダんとこの息子らは冒険者にはなんねぇの?」

「長男のヤツが冒険者には憧れてるんだが、どうだかな。頭は悪かねぇから、俺としては学び舎に行かせるつもりなんだよ」


おっさんは色々と話してくれた。

おっさんの話はとにかく暗い影がちらほらあって、苦労してきたことがわかる。

たぶんだけど、冒険者ならば必ず通る道、というわけではなく、おっさんという一人の人間が乗り越えてきた苦難の物語なのだろう。

・・・そう思った。


歩き続けた街道を横道に外れて、徐々に水溜まりが増えてくる。

足元を気にしつつそれらを避けながら、やがて目的の湿地帯へ辿り着いた。


「着いた・・・んだが、あれぇ?こんなんだったか、ここ。だいぶ水量が増えてるんだが」


場所の目印となる大きな木の杭の側から周りの景色を眺めていたおっさんがぼやく。

辺り一面ちょっとした湖になっていて、ほとんど地面が見えない。

湿地帯は大雨が降る度に姿を変える。

以前こうだったからと思っていくと、全然記憶にない場所になっていることもあるのだ。


水溜まりはできるだけ避けたかったが、流石にこの水量ではそうも言っていられない。とりあえず背負っていた荷物は濡れないところにまとめて置き、採集場所で靴を脱いで裸足になり、目的の薬草を集め始めた。

おっさんが先導して深さを確認していたから、あたしらはせいぜい膝くらいの深さの場所しか足を踏み入れなかった。でも先導していたおっさんは足を取られたり体勢を崩したりして、体中泥だらけになっていた。


そうやって目標の半分くらいを集めた頃、事件が起こった。

といっても最初は前を歩くおっさんの足元で大きな魚が跳ねただけだった。

しかし、それに反応したおっさんが足を滑らせて、後ろに居るあたしらの方へ体勢を崩したのだ。

とっさに大きく足を後方に出して転ぶのを回避しようとしたおっさんだったが・・・。


「ぐああっ!!」

「ゴルダ!?」「おっさん、どうした!?」


おっさんの叫び声が水辺に響き渡る。

何かトラブルが起きたことをあたしらは悟った。


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