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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
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エルナの初狩り


季節は移り春になると、村に籠っていた村人も村の外へ足を伸ばすようになる。

私はナイフと小弓と矢束を背負い袋に入れ、父さんと一緒に狩り場へ出掛けるため村の東門へ向かった。

ちなみに母さんはリンを連れて近所の畑で種蒔きをしている。


村の東門には門番のナスタさんがいる。ダフのお父さんだ。


「おはよう、ナスタ」

「おはようございます、ナスタさん」

「おはよう、ドナン、エルナ。狩りに行くのか」

「ああ、手続きを頼む」


狩りで村の外に行く場合は、ここ東門にて、どこで狩りをするのか申告する必要がある。また、同時に狩りをするチームは二組までだ。

狩りをするチームが同時に三組以上ある場合はトラブルの元になるため、この門で止められる。それ以外にも、互いの狩り場が近かったり、狩り場が離れていても移動ルートがもう一方の狩り場を通っていたり、といった場合も同様だ。

逆に狩人たちは、秋の季節本番になるとチームが三組以上にならないよう日程調整したり、合同で一つのチームにまとまったりして協力するのだ。


「今日はお前たちが最初のチームだ。場所は川の手前のララットがいる狩り場だな、よし、通っていいぜ」

「じゃあ、行ってくる。昼には戻る予定だ」

「行ってきまーす」


村の東門から出て、すぐ村の北へ向かう。整備はされていないが、村人が使う細道を通って進んでいく。

まだ雪が残っているところも多いが、土が見えているところからは緑の芽が躍動し、陽に向かって吹き上げ始めていた。

春の山菜も楽しみになってくる。ちなみに、狩りのついでに山菜を採っても構わないが、あくまでついでなので採り過ぎると門で注意される。

山菜に関しては、村全体で山菜を採る日が定められており、その日は自衛以外の狩りを一切不可として多くの村人が山菜採りをするのだ。


さて、今日狙うはララット。丸々としたネズミのようなウサギのような小型の獣だ。春先は冬眠から覚めたばかりで痩せている。その結果、良い点としては、本来は動きが素早いのだがこの時期はやや鈍く、矢の的として命中させやすい。悪い点としては、肉の味は落ちる。

とはいえ、奴らは繁殖力が強く、増え過ぎると新芽が食い荒らされるので、いずれにしても数は減らしておく必要がある。


村を出て三十分ほど歩いただろうか、雪解けの水が流れる川辺に来ると・・・いた、ララットだ。

もぞもぞ動きながら新芽を食べている。


それを見た私は、少し不思議な感覚を味わう。

わくわくする。胸が躍る。始めての狩りだというのに緊張するのではなく、楽しくてしょうがないのだ。

もし前世だったら、怖いという感情が出たかもしれない。緊張で手が震えたかもしれない。あるいは狩猟なんて可哀想、などと考えたかもしれない。


再認識する。私はこの世界の住人エルナなのだ。


背負い袋の矢束を矢筒に入れて、小弓を左手に持ち、ナイフを腰に装備して準備を整える。

ララットは去年の秋、父さんの狩りを見ている。大丈夫、いける。

後ろから五メートルくらいまでゆっくり近づき、矢筒から矢を一本取り出す。

素早く小弓を引いて矢を放った。

ララットは小さく「キィ」と鳴いた。命中だ!

二の矢を構える。・・・が、ララットはその場でもがいているだけで逃げることはできなかった。


「よし、いいだろう。止めを刺せ」

「うん!」


私はナイフを抜き、背中から押さえて首に当てる。

ナイフをすぅっと引き、しばらくするとララットは完全に動きを止めた。


「首、落とせそうか?」

「うーん、ちょっと時間掛かりそう」

「そこだけは父さんがやろう」

「ありがとう、父さん」


父さんは腰から小型の鉈を抜くと、ララットの足を持ち逆さに吊るした。

そして鉈を振るうこと二回。あっさりララットの頭が落ちた。

それを見て、ようやく私は頬を緩めた。達成感が湧いてくる。


「よし、腹を割いて内臓を洗い出してこい」


私は頷き、手袋を外し腕をまくる。川辺の水はとても冷たいが、昂った気分を抑えるのにちょうどいい。

程無く解体処理を終え、ララットを木に吊るす。


「初めてにしては上出来だ、エルナ。矢に付いた血は軽く拭っておけ。家に帰ったら一緒に道具の手入れをしよう」

「うん」


私は満面の笑みで応え、父さんも嬉しそうに笑う。

解体作業で冷えた手も徐々に動くようになり、私は手袋を填め直した。


「どれ、次は父さんが一匹狩ろう」

「解体は私がやるよ」

「ああ、見ててあげるからやってごらん」


次のララットを見つけると、父さんは持っていた石を投げ一気に獲物に近づく。

石が当たった獲物は倒れて暴れているが、父さんは構わず足を持って逆さに吊るし、鉈を振るって頭を落とす。


「父さん、すごい!」

「ふふ、そうだろう、そうだろう」


先ほどと同じ様に、私が解体処理をして木に吊るす。

その後、何度か狩ろうと試みたが、結局私が狩れたのは最初の一匹だけだった。

父さんが三匹を狩ったところで帰路に就くことにした。


村の東門に到着すると、門番のナスタさんとダフが親子で立ち話をしている。


「おーい、ダフー」

「あ、帰ってきた。おーい、エルナー」


私はダフの元に向かう。


「ダフも狩りにいくの?」

「ああ、ララットをな、って本当にエルナも狩りに行ってたのか?」

「うん、父さんと。ララット一匹だけ私が狩ったよ」

「すげぇじゃねぇか、エルナ!」

「えへへ、ありがとう。私の初の獲物だよ」

「そうかー、初の獲物かぁ、良かったなぁ。俺も頑張ってくるよ!」

「あは、頑張ってね、ダフ!」


ナスタさんの話では、私たちか帰ってくる少し前にダフのチームが狩りに出発しようとしていたらしい。でも、二組のチームが狩りの最中だったので、昼に帰ってくる私たちを待っていたのだ。

幸いにしてそれほど待つこともなく、私たちと入れ替わりでダフのチームは狩りに出発した。


私と父さんは、ダフ達を見送って村に入る。

朗らかな春の陽気の中、初めての獲物を持って凱旋する私を祝福するように、村に昼の鐘が鳴り響くのだった。


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