魔道具の使い道1
翌朝。
休日明けで出勤してきたラミアノさんに真っ先に報告したのは、私の待機室のことだ。
「へぇ!待機室もらったんだ。よかったねぇ」
「はい。これからは扉の前じゃなくて待機室にいますのでよろしくお願いします」
ラミアノさんは私の頭を優しく撫でながら一緒に喜んでくれた。
だがラミアノさんが笑顔だったのはそこまでだ。
ギルド長、副長と一緒に待機室を掃除したこと。
掃除中に出てきた魔道具を仕事場に持ち込んで起動確認したこと。
マルティーナさんに依頼されて代筆のお手伝いをしたこと。
報告するうちに、段々とラミアノさんの表情は雲っていった。
「・・・エルナ」
「・・・はい」
「休んでないじゃないか」
「ごめんなさい」
叱られた。でもこれは甘んじて受け入れるしかない。
ラミアノさんは私を案じて叱ってくれているのだ。
そのラミアノさんは大きくため息を吐いてから、机の上にある箱の魔道具へと目を移した。
「そんで、こいつが件の魔道具かい」
「はい。充填する機能はないみたいですけど、せっかくの魔道具なので、色々と動かしてみようと思ってます」
昨日は無属性だけ確認して終わっちゃったけど、もし属性が判別できるならそれだけでも用途はあると思うんだよね。だから差し当たって属性がある魔石を乗せて色の変化を見てみたい。
「魔道具は気になるだろうが、ひとまず仕事が先だよー」
「はーい」
いつものように今日の作業予定を確認し、一階の運搬作業員と連絡を取って運搬止めしてもらって作業を開始する。
私は仕事場をちょこまかと動き回り、ラミアノさんのサポートをしたり、自ら魔力を充填したりして手際良く仕事をこなした。
「今日の仕事は終わりだね。お疲れ、エルナ」
「お疲れ様でした、ラミアノさん」
作業に慣れてきた結果、仕事はどんどん早く終わる。
今日は鐘一つ分も掛からなかった。たぶん二時間くらい。
別に次の仕事がないわけではない。注文棚には網袋が残っているし、相変わらず人手は足りない状況だと思う。
けれどラミアノさんは、それで仕事を増やす、ということはしなかった。
だから最近は昼食の時間がどんどん前倒しになってきていた。
ラミアノさんにはちゃんとその辺の考えがあるんだろうなぁ。
そう思い、尋ねてみる。
「慣れてきたら徐々に仕事量を増やしていくのかと思っていたんですけど、違うんですか?」
「んー。増やす気はないよー」
「何となくそういう方針だとは感じてましたけど、理由を聞いてもいいですか」
「今、仕事を増やすことはできるよ。でもね、急にエルナがいなくなった時に増やした分を減らせるか、って言ったらそう簡単ではないからねー。それに転送魔法陣。仕事を増やすために必要なのはこれを増設することさ。人だけ増やしても駄目さね。他にも理由はあるんだけど・・・エルナ」
「はい」
「大丈夫。あんたはちゃんと仕事をこなしているよ。仕事の量が変わらなくても、仕事の時間が変わってきているだろ。成長しているってことさ」
別に仕事に焦りを感じているわけではなかった。
まだ仕事に就いて十日しか経っていない。その日その日でベストを尽くしてきただけだ。
私の質問の中に焦る気持ちを含ませたつもりはなかったが、ラミアノさんはそんな気持ちが含まれていると感じてそう答えたようだ。
過保護とも取れるが、その言葉はとてもありがたい。褒められればやはり嬉しいもの。
「ありがとうございます」
だから感謝の言葉を素直に返した。
ラミアノさんは目を細める。
「まだ昼までには時間があるから箱の魔道具を動かしてみておくれ。あたしも一緒に見るよー」
「やりましょう、やりましょう!準備しますね!」
楽しい実験タイムだ。
私はウキウキしながら箱の魔道具一号と二号を机に置いて各属性の魔石を用意した。
「昨日やったことは一号に無属性の魔石を乗せただけなんです。まぁ動作確認はできたんですけど」
今日は全部の属性を試したいね。
「ふーん。そんで、箱に魔力が通らなかったんだっけ」
「そうなんですよ。魔石に充填する機能はないってわかったところで動作確認は一旦切り上げちゃいました」
「なるほどね、状況はわかったよー。それじゃ見てるから、動かしてみな。エルナ」
そう促されて、まずは昨日と同じ無属性の魔石を掴む。
「無属性を乗せまーす」
一号の魔法陣に無属性の魔石を置く。
すぐに一号と二号の魔法陣が白く光り輝いた。
「へぇ」
ラミアノさんが思わず声を出す。
普段仕事で使っている転送魔法陣は、素材工房の一階と二階に片方ずつ配置されている。
そんな仕事で使っているものより小型サイズとはいえ、机上で両方の転送魔法陣の動きを確認できるのは、導入段階においてかなり有意義だと思う。
もし遠い未来に冒険者ギルド博物館みたいなものができたなら、こういう魔道具って絶対展示されるべきだよね。
「それじゃ次は火属性の魔石を乗せまーす」
一号の魔法陣に乗っていた無属性の魔石を摘まみ上げると、一号と二号の白い光は一瞬で消える。
私はそれと交換する形で火属性の魔石を乗せた。
すぐに一号と二号の魔法陣が赤く光る。
「おっ、赤くなったねぇ」
「仕事場の魔法陣と同様に、属性判定の機能がある、ってことですね」
まだ無属性と火属性の二種を試したに過ぎないが、魔力の属性判定装置として使えそうだ。魔石サイズの魔力素材であれば手軽に判定できるこの箱は、それなりに重宝するのではなかろうか。
「水属性乗せまーす」
左手で火属性の魔石を摘まみ上げ、右手に持っていた水属性の魔石を乗せる。
赤い光が一瞬で消え、乗せた瞬間に青く光る。
ふふ。なんか信号機みたいだよね。
・・・っ!?
信号!?
その瞬間、私の中で、パズルのピースがピタッと嵌まった感覚が生まれた。
そうだ。仕事場で転送魔法陣を初めて見たときから感じていた違和感。
その正体がようやくわかったよ。
この世界で転送魔法陣は明らかなオーバーテクノロジー。A地点からB地点に魔力を転送し、魔法陣を光らせることができる。そして魔力の属性によって色を変える制御を行っている。
無属性の白。
火属性の赤。
水属性の青。
風属性の緑。
土属性の橙。
光属性の黄。
色が六種。魔力無しで光ってない状態も含めれば七種といえなくもない。
信号機ですら、青と赤の二色、黄を加えても三色で役割を果たせるのだ。
そして、相手に信号を送り、相手から信号を受け取る。一号を送信機、二号を受信機と見れば、単方向の『通信』ができるんじゃないの、これ。
二地点間の距離がどれくらいまで有効かはわからないけど、仕事場で使っている転送魔法陣と同様に建物の一階から二階まで有効なら、例えば二階の仕事場に居ながら一階へ『運搬止め』『運搬開け』の指示を出したり、呼び鈴代わりに使用したりすることもできそう。
・・・そんな通信装置としての使い方。設計者である魔女様が果たして見逃すだろうか。
私には、そうは思えない。
通信に使える魔道具がそこにあるのに、魔道具を使った通信という存在が見当たらない。
そこに私は違和感を感じたんだ。
ひょっとして魔女様は・・・。
「・・・エルナー。エルナってばー」
「はっ!・・・あ、すみません。考える事に没頭してしまいました」
しばし固まっていたようで何度か呼び掛けられていたらしい。
ようやく呼び掛けに気付いた私は頭をふるふると振り、真剣な目をラミアノさんに向けた。
「ラミアノさん!」
「ん?なんだい」
「私、絶対に魔女様に敵対しません!」
「え?・・・うん?」
本当に実用化されているかどうかは不明だ。
でも、この世界で魔道具による通信技術を有しているのは魔女様だけ、という可能性すらある。
私は知っているのだ。
情報を制する者が世界を制す、ということを!
無論これは自然の摂理ではない。だが誇張でもない。
だから絶対に敵対なんてできないよ!
そう心に誓い、拳を強く握り締める私を、ラミアノさんが生暖かい目で見ているのに気付いた。
おっと、いけない。まだ実験中だった。
「・・・こほん。えーと、次は風属性の魔石を乗せまーす」
その視線から逃れようとするべく、風属性の魔石を摘まんで実験を再開する。
そうして風属性、土属性、光属性まで一通り試してみたが、光の色は仕事場で使う台座の魔道具と同様に、風属性なら緑、土属性なら橙、光属性なら黄に光り輝いた。
「属性に対する色はこれで確認できましたね」
「・・・ねぇエルナ。これ、二号に魔石乗せたらどうなんの?」
私が一号の前で魔石の乗せ換えをしていた間、ずっと二号の前で観察していたラミアノさんが何気なく呟いた。
その言葉に私はハッとなる。
確か副長が「魔力弁が付いてないから魔力を蓄えることができない」って言ってたっけ。
「そういえば魔力弁ないから、・・・どうなるんだろう。昨日は空の魔石を乗せただけでした。一応やってみましょうか」
私は一号に乗っていた光属性の魔石を摘まみ上げた。
一号と二号の黄色い光はすぐに消える。
そしてそのまま二号に乗せると、一号と二号の魔法陣が黄色く光り輝いた。
・・・えーと。
仕事場の転送魔法陣は一方通行だったけど、この試作品は双方向に魔力が転送される。
つまりはそういうことだよね。
「あれま。これじゃ魔力の属性判定器に使うのも過剰だねぇ。使うたんびに両方が光っちまう」
ラミアノさんの感想はその通りだ。
魔力の属性を判定する用途であれば、乗せた魔法陣だけ光れば事足りる。
でも用途が『通信』であればどうだろうか。
試してみるまでは一号から二号への一方通行だと思い込んでいた。そもそも、一号から送信して二号で受信できるってだけでも凄いことなのだが。しかし実際にはどちらからでも送受信可能なのか、これ。想定外だなぁ。
・・・本当に通信装置として使えるんじゃないの?




