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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
38/123

訓練1


「ご苦労さん、エルナ」

「ラミアノさん、お疲れ様です」


互いに挨拶する。まだ昼前だが、今日の作業は完了だ。

一階の運搬作業員には自分達が仕事を上がることを伝えているし、運搬開けして次の無属性素材を搬入しておくように指示も出し終わっている。


「さて、この仕事場で今まであたしが作業してきたことを言うとだね・・・」


ラミアノさんの話によると、今までは『光』『火』『水』の仕事を中心に作業をしてきたらしい。

なぜかというと、まず領都では無属性と水属性の素材が比較的入手しやすいからだ。

『光』と『火』の属性を使えるラミアノさんは無属性の素材があれば『光』と『火』の仕事ができるし、水属性の素材があれば『水』の仕事ができる。


さらに裏事情として、ギルド内にいる他の二人の魔法士の存在がある。

ラミアノさん以外に、ガトランさんとデルミットさんという男性の魔法士が同じ階にあるもう一つの作業場で仕事をしている。

他言無用ということで教えてもらったが、デルミットさんは『光』の属性だけ使えて、ガトランさんは『光』と『土』の属性が使える。


つまり、今までギルド内には『水』と『風』の使い手がいなかった。

だが『水』と『風』の仕事依頼がないかといえば、そんなことはない。あるのだ。


このうち『水』の仕事に関しては、水属性の素材がそれなりに入ってくるのでなんとか回っていた。

一方『風』の仕事に関してだが、風属性の素材は光属性の次に希少で、需要に対して供給が全然足りない状態だった。

よって風属性推奨の魔道具であっても、効率が大きく落ちるのも止む無しと、他の属性の魔石で動かす客が多かった。


「エルナがいるから、今後は無属性素材を用意すれば『水』と『風』の仕事ができるようになる。『水』と『風』の仕事をこっちに回してもらおう」


『火』の仕事は今まで通りラミアノさんが請け負うが、捌ききれない分を私に回す形にするつもりらしい。


『土』の仕事はガトランさんが集中的に請け負っているから、そこは手を出さないでおこう、ということになった。別に揉めるとかいう話ではない。私の存在が悪目立ちしないようにだ。


「現状、魔石の魔力充填の仕事はひっきりなしでやってくる状態だよー。どの属性の仕事も魔法士が足りないから供給が全然追いつかない。とりあえずエルナに『水』と『風』を中心にやってもらおうと思っているけど、『光』『火』『土』の仕事も随時やってもらうからそのつもりでね」

「はい、わかりました」


ラミアノさんは私の返事に満足げに頷くと、椅子から立ち上がった。


「それじゃ昼食にしよう。昼食後にまたここに来てね。明日の作業予定を立てるから」


部屋を出るラミアノさんの後を追う。ここの食堂の食事は何気に楽しみだ。昼休みに職場の先輩と昼食を求めて歩くというだけで、何でこんなに楽しいんだろうね。ラミアノさんは食堂で昼食を取り、私は自室で弁当なのが少し残念だが。


本館の食堂に着くと奥のテーブルにギルド長が居て、こっちに向けて軽く手を挙げた。

ラミアノさんが手を挙げ返す。どうやら待ち合わせしていたらしい。私は会釈だけ返しておいた。


「あたしはギルド長と話してくるよー。エルナの事を報告して、『水』と『風』の仕事を回すように言ってくるさね。少し時間が掛かるからエルナも昼食後は少しゆっくりしてからおいで。でないとまた扉の前で寝ちゃうことになるよー」

「も、もうっ!今日は寝たりしませんからっ!」


顔を赤くする私に手をひらひら振って、ラミアノさんは奥のテーブルへ行ってしまった。

この場で独り突っ立っているわけにもいかない。さっさと弁当を受け取って自室へ向かおっと。


弁当を持った私は階段を軽やかに駆け上がり自室に入る。さぁ、お楽しみの昼食だ。

朝と味付けが変わっていたけど、やっぱり美味しい。満足満足。

弁当を食べ終えた私は、水筒の水を飲んで一服しているとき、ふと今朝早く起きてしまって弓を引いていたことを思い出した。


「・・・そうだ。矢を射たいと思ってたんだった」


本館の横に併設されている訓練場を使いたいってギルド長に相談するつもりだった。

午前中にラミアノさんと私の自衛についても話が出たし、小弓を練習するのは悪くないと思うんだよね。


仕事場へ向かう前に少しだけ時間を使う意味で弓を引く。断じて居眠り防止ではない。


ビンッ!


部屋に弦の引く音を響かせる。

何度か弓を引いたところで弦を外して片づけた。


ふー。

もっと身体を動かしたいなぁ。やっぱり訓練場行ってみたい。私が使うときに短い時間でも貸し切りとかできるのかな。

次にギルド長に会ったときに話を持ち出そう。


私が仕事場へ行くと既にラミアノさんが食堂から戻って来ていたようで、扉をノックしたら返事が返ってきた。

部屋に居たラミアノさんは朝と服装が違ってる。朝もズボンを履いて動きやすい格好だったが、今は運動ができるような丈夫な生地になっている。

朝がギルド職員だとすれば、今はまるで冒険者だ。


「すみません。お待たせしましたか」

「ん?あー、全然。ゆっくりおいでって言ったんだから大丈夫だよー」


エルナは律儀だねー、と部屋に入った私の頭を撫でてきた。

私が大人しく撫でられていると、また扉がノックされる。


「ヨルフです。魔石を入れ替えに来やしたー」

「入っていいよー」


ヨルフさんとタトレオさんが台車から新しい網袋を注文棚へ収め、納品棚の網袋を台車へ手際良く乗せていく。

おや?注文棚がどんどん埋まっていく。随分増えてるなぁ。

・・・私の仕事分かな、これ。


「それじゃ失礼しやす」

「ご苦労だったね、ヨルフ、タトレオ」


私もラミアノさんの横で会釈する。

本当にあっという間に作業を片づけていったなぁ。


「さーて、エルナ。明日の作業予定だけど、ここからここまでやるよ」


注文棚を指し示すラミアノさんは、なんか少し嬉しそうだ。

示された量は大したことはない。内訳は『光』が半分。残り半分が『水』『風』だ。


「この量なら明日も午前中に終わりそうですよね」

「そうだね。仕事の量はこんなもんでいいのさ。当面は午前中に仕事、午後に勉強だよ」

「勉強?」

「うん。あたしが自衛のための魔法と戦闘術を教えてあげるよ」


あれ?矢を射たいから訓練場使いたいなーって思ってたけど、これってもしかして・・・。


「あのー、その勉強って訓練場でやるんですか?」

「そだよー。昼二つの鐘まで貸し切っているから、今から向かうよ。悪いけどもう一度自室に行って、動ける服に着替えておいで」


ふわぁー。まるで私の望むことがわかっているみたい!?

ラミアノさんっ!かっこいい!行動がイケメン!


「ラミアノさん、ありがとうございます!」

「え?な、なんかやる気あるねぇ。勉強って聞いて嫌がるかと思ったのに」


その言い回しだと、私の望むことがわかってたわけではなく、必要だから用意したということか。

でも、私のために用意してくれたことに変わりはない。


「矢、射てもいいですよね?自分の弓を使いたいのでそれも持ってきます」

「ふぅん。弓やってるのは知ってたけど、自前の弓持っているのかい。わかった。待ってるよー」


あれ?ギルド長にも言ってなかったはずだけど、弓やってるの何で知ってたんだろう。

まぁいいや。さっさと取ってこよう。


急いで自室まで行き、昨日買ってもらった厚手の服に素早く着替えると、背負い袋に弓だけ入れてまた戻る。

見た目は冒険者っぽくなっただろうか。

今の私はやる気満々で、心も身体も軽いよ!


「戻ってきましたー」

「は、早かったねぇ。そんじゃ付いといでー」


部屋を出るラミアノさんに付いていく。

まず渡り廊下を通って本館に移り、階段で一階に降りる。フロアには冒険者やギルド職員がまばらに歩いていた。


ラミアノさんはギルドの正面の出入口ではなく、別の小さな扉へ向かった。なんか非常口っぽい。扉を開くと、ここは一階なのに下へ降りる階段だ。

へー、下へ掘り下げられているんだ。


階段を降りると・・・おー、これが訓練場かぁ。

屋根はないが、水を抜いた屋外プールみたいな感じで一段掘り下げられており、頑丈な高い塀にも囲まれているため、飛び道具も使用できる。


「エルナ、こっちこっち。三番の訓練エリアにいくよー」


訓練エリアは全部で六つあり、それぞれテニスコート2面分くらいの広さがあってしっかりと分離されている。今日貸し切りで使うのは三番の訓練エリアのようだ。

訓練エリアに一緒に入ったところで内側から鍵を掛け、ラミアノさんが私に声を掛ける。


「それじゃ始めよっか。使えるのは昼二つの鐘までだからね・・・って、あれ?」


ラミアノさんが戸惑ったのは私を、より正確に言うなら『私の姿勢』を見たからだ。

これは仕事ではない。私のために教えてくれるのだから、ラミアノさんは先生だ。


「ラミアノ先生。よろしくお願いします」


だから礼儀が必要。私は右手を胸に当てお辞儀をした。

少し間を置いてから、ラミアノさんは返事をする。


「ふーん。感心感心。エルナの礼儀作法は本当に貴族のお嬢さん方と遜色ないよ。じゃ、改めて。エルナ、面を上げて」

「はい」


ラミアノさんは相変わらず穏やかに、でも少し緊張感のある声で言った。


「今日は魔法から教えてあげるねー」


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