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77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
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初仕事


「・・・というわけで、私が眠ってしまって気まずかったのをラミアノさんが宥めてくれていたんですよ」


本日二度目の地獄であった。

私の言い訳タイムと、私とギルド長の頭の下げ合い合戦、そしてラミアノさんからギルド長への大目玉。

午前中と同じ道順で地獄テーマパークのアトラクション巡りをした後、私達三人は改めて席に着いた。

時刻は既に昼二つの鐘が鳴っている。


「今日のうちに水属性の注文は終わらせたいんだよねー」

「あとどれくらい残っているんだ?」

「二回分だねー」

「素材の魔力は足りそうか?」

「それは大丈夫。転送して終わりさね」


ラミアノさんとギルド長の話を通訳すると、転送魔法陣の台座に網袋を乗っけて魔力補充する作業が二回分残っている、と。そのための素材は足りているから、転送作業を二回やれば完了するようだ。


「ってことは、その二回をエルナにやらせよう、ってことか」

「ふふーん。御明察だねー」

「相変わらず要領がいいな」


おっと、どうやら私の研修をさせてもらえるらしい。


「はいっ!やります!やらせてください!」

「うお!?」「おやおや」


私は勢い椅子から腰を浮かせ、手を挙げた。

ギルド長とラミアノさんは目を丸くしてそんな私を見る。


「よーし、やる気があるのはいいことだ。エルナ、おいで」


ラミアノさんは笑顔になって立ち上がり私を手招きした。

ここで先程の汚名をそそいでおこう。私は右手をぐっと握り、後を追う。

ギルド長もさらにその後から付いてきた。


「エルナ。あっち側の棚には客から注文されたものが置いてある。で、こっちが魔力の充填が完了したものを収める納品棚になる」

「はい」

「注文側の棚から青の色札の網袋、手前にある二つを持ってきて」


私は指示された棚へ行く。青の色札の網袋は一、二、三、四つある。

えっと、手前の二つだね。

右手と左手に一つずつ網袋を持ち、ラミアノさんの前まで来た。


「そしたら、二つとも転送魔法陣に乗せるんだ。ゆっくり、丁寧にやるんだよー」

「はい」


そーっと、そぉーっと。

青く美しく光る転送魔法陣の上に網袋を乗せた。


「置いたら台座の側面から魔力を通すんだ。魔力の流れに意識を向けて、魔石が魔力で満たされたら魔力を止めればいい。やってみな」


台座の正面は木枠でカバーされているが、そもそも正面からは魔力が通らないらしい。

台座の側面、つまり右側または左側から魔力を通す仕組みになっているのだ。


「あの、私、魔道具に魔力を通すの初めてなんです」

「え?そうなのかい?」

「はい。だから、その、何かコツみたいなのって・・・ありますか?」


ラミアノさんは少し考えて言った。


「コツってか、感覚だからねぇー。エルナ。光魔法が使えるんなら、魔法が発動するときの感覚は分かるかい?」

「えーと、魔力が流れる感覚・・・あ、そうか。あの感じか」

「逆に魔法を止める感覚も、分かるね?」

「あ、ああ、なるほど。はい、できそうです」


魔法を止めるときの魔力を遮断する感覚。あれはあまり考えず自然にできたから、自分にとって最も理解しやすい。

それにしてもラミアノさん、本当に分かり易く教えてくれるなぁ。もしかしてとても凄い人なんじゃなかろうか。


「やってみます」


私は右手を台座の横に添える。


「ふー」


魔法を使うときと同じ様に、息を吐き、集中する。

魔力を流・・・あっ。


台座から魔力が吹き上げられ、転送魔法陣に置かれている網袋の中の魔石に魔力が吸い込まれていく。

そして、あっという間にその動きが止まった。

・・・え?もしかしてもう終わりなの?

私はゆっくり魔力を遮断し、右手を台座から離した。


考える間もなく、思っただけで全部終わったような。

とても長いドミノの列の先頭をちょんと突いたら、ドミノ倒しが始まるのではなく、全部倒れていた姿になっていた、って感じだ。

これで本当に魔石に充填できているんだろうか。


「ラミアノさん、魔力を通してみたんですけど・・・ラミアノさん?」

「・・・・・・」

「おい、ラミアノ、どうしたんだ」


ラミアノさんは目を見開いたまま絶句していた。その様子にギルド長も思わず声を掛けたが、立ったまま返事をしなかった。

ラミアノさんは、やがて大きく息を吐き口を開いた。


「はぁ・・・。エルナ。あんた、すごい魔法士だよ」

「え・・・?」


私、何か大層な事をやらかしたのだろうか。魔道具に魔力を通しただけ・・・だよね。


「あの、まず、この魔石にちゃんと魔力を充填できたんでしょうか」

「わかんない」

「ふぇ?あれ?」


ラミアノさんは頭を左右に振ってから私に視線を合わせ、説明を続けた。


「少なくとも魔力は入った。でも一連の魔力の流れ・・・台座から転送魔法陣、そして魔石への魔力の流れが速すぎて、追い切れなかったんだ。それから瞬間的な魔力の出力が大きかったのは分かった」

「ええと・・・それはつまり?」

「エルナ。あんたの魔力の出力は、そんじょそこらの魔力持ちよりもかなり大きいってことさ。それを制御できているんなら、大したもんだわ」


私は自分の右手の平をじっと見つめる。

そんな風に言われても実感が湧かない。魔道具に魔力を通すことに集中し過ぎて、まだ自分の作業を振り返れないのだ。


「俺は魔力の流れを感じることができないからよく分からなかったが・・・。ラミアノ、ひとまず動作確認してみたらどうだ。ほら、そこの水の魔道具で」

「あ、・・・ああ、そうだね」


ギルド長の誘いにラミアノさんは応答し、魔法陣に乗っていた網袋を横の机に置いた。

そして網袋の中から一つだけ魔石を取り出し、私を手招きする。


「エルナもこっちおいでー」

「は、はい」


ラミアノさんは幾つかの道具が収められている棚にきて、右手で縦長のポットの取っ手を持って私に見せた。

ギルド長が水の魔道具、って言ってたっけ。もしかして・・・。

左手で上の蓋を回して開け、握っていた魔石を入れてから蓋を閉めた。


「んじゃ、動かしてみよっかー」


右手に持ったポットの取っ手に付いている・・・おそらくスイッチをカチッと入れる。

そして数秒して、スイッチを切ったのだろう・・・カチッと再び音がした。

ラミアノさんがそのままポットを軽く左右に揺すると、パシャポシャと水が入っている音が聴こえた。


「動いてるね」

「ほら、コップだ」


ギルド長がコップを三つ持ってきて、机に置く。

ラミアノさんはそのコップに順番にポットの水を注いでいった。


「この水、魔道具で作られたんですか?」

「そーだよー。エルナ、あんたの仕事の成果さ」


ラミアノさんはにこっと笑ってコップの水を飲む。私も釣られてはにかんだ。

やっぱり水を作る魔道具だったんだ。

成果を認められるのは嬉しいな。

不意に、水を飲むギルド長と目が合う。

食堂にいた時、飲み水なら仕事場でも何とかなる、ってギルド長が言っていたのは、これのことか。なるほどねー。

ついでに、持参した水筒にも水入れてもらおうっと。


ラミアノさんはもう一度ポットの蓋を開け、さっき入れた魔石を取り出した。


「満タンになってるかわかんないけど魔力が入ったことは分かったし、これで一旦客に返してみるかー」

「あ、あの・・・」

「ん?何だい?」

「満タンになるまで何度も魔力を込めちゃ駄目なんですか?」

「確かに満タンの魔石にさらに魔力を込めようとするとそれ以上は入らない。だから、入らなくなるまで何回も繰り返す、って手もあるんだけどさー。魔石が痛むんだよねぇ」

「あー、そういうことですか。魔石にも寿命があるんですね」


魔石は何度も魔力を込めると徐々に損耗していくらしい。また、満タンの魔石にさらに魔力を充填しようとすると、余計に損耗するのだそうだ。


「だからこれで一旦客に返してみて、すぐ空っぽになるようだったら補填すりゃいいよ」

「そうですね。わかりました」


前世の記憶に照らすと雑な仕事と言われそうだが、この世界では常識の範疇だ。

私が納得したのを見てラミアノさんは一つ頷き、手に持っていた魔石を元の網袋に戻した。


「じゃあ、この網袋の魔石は充填完了だ。エルナ、納品棚に置いて」


ラミアノさんから網袋を手渡され、私は指示された棚に丁寧に置く。

ここまでが一連の作業というわけだ。


「さ、もう一回、残りの二袋で同じ作業をするよー」

「はい」


私はもう一度注文側の棚に行き、残りの二袋を魔法陣に乗せる。

ラミアノさんに視線を合わせると、ラミアノさんは大丈夫とばかりにこくりと頷く。

私が台座に魔力を通し転送魔法陣を起動させると、魔石に魔力が吸い込まれ始めると、やはり一瞬でその流れが止まる。

私はそれを確認し、ゆっくり魔力を遮断した。


「終わりました」

「うーーん。やっぱりすごいねー。でも、さっきよりは流れは見えたわ。ちゃんと満タンになってるようだねー」


ラミアノさんは私の背後で見守っていたギルド長に視線を送り、滅茶苦茶いい笑顔で言った。


「今日はこれで終わりにしましょ。ダル。あんた、いい娘連れてきたわー。これで能力が平凡だったなら、あたしんとこの息子の嫁にしようと思ったかもね」


そう言われてギルド長は顔を引き攣らせ、何とも言えない表情になった。


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