魔法士のお仕事1
「いやー、ごめんねー。驚かせちゃってー。あははは」
ギルド長に連れられてきた素材工房のニ階の部屋で、私が紹介されたのは、とても賑やかな女性だった。
ひとまず立ったまま会釈を済ませ、三人とも椅子に座ったところで改めて自己紹介となった。
「あたしはラミアノ。ここ冒険者ギルドに勤めている魔法士だよ」
ラミアノさんはにこやかに、そして胸を張って私に話しかけた。大きい胸がどどーんと強調される。
あれ?第一印象でふくよかな女性かと思ったけど、よく見たら肩幅があって腕の筋肉が凄いぞこの人!?
「第七ホラス村から来たエルナです。改めてよろしくお願いします」
「えへへー。礼儀正しい子ねー。可愛いなぁー」
「あはは・・・」
にこにこ顔で甘やかしてくるラミアノさんに、もはや苦笑いするしかない。
ギルド長は、はぁーっとため息を吐き、ジト目になりながら話す。
「ラミアノは元冒険者なんだ」
「結婚した時に冒険者を引退したんだけどねー。子育てがひと段落したから、ここに勤め始めたってわけよー」
なんでも、ラミアノさんは元々武器を持って戦うアタッカーだったらしい。道理で力仕事している人のような腕をしているわけだ。狩人やってるうちの父さんみたいな腕だったもん。
冒険者のうちはずっと独身だったが、二十三歳の時に魔法が使えるようになった途端貴族からの求婚が舞い込むようになったそうだ。最終的にミルドーラフ子爵の第三夫人を選択し、三人の男の子を産んで育てて、そして今は冒険者ギルドに勤めている、と。
・・・ラミアノさん、子爵夫人じゃないですか。
「おい、ラミアノ。言っておくが、エルナは貴族から守るために冒険者ギルドで雇うことになった経緯があるんでな。自分とこの息子を紹介、とかすんなよ」
「あー、なるほどね。しないしない。そりゃー確かに、こんな可愛い娘、貴族連中からしたら垂涎の的だろうよ」
「・・・いや、可愛いから、じゃなくてだな」
「あははは。ちゃんとマジメに言うと、あたしなんかは二十三にもなって嫁の貰い手もなかったところにさー、魔法が使えるようになった途端、逆に結婚相手を選べる立場になったくらいさ。割と運が良かったって自覚はあるよー。でも、エルナは八歳。結婚相手を選ぶどころか掻っ攫われる心配がある、ってことでしょー」
「ああ、そうだ。エルナが魔法士だということを知る者は、ギルド内では俺と副長、そしてラミアノの三人だけにするつもりだ」
「ふんふん。そーね、それでいーんじゃない」
ギルド長の話によると、今現在、ギルドの魔法士は計三名でラミアノさんの他にガトランさん、デルミットさんという二人のおじさんがいるらしい。いずれも元冒険者で、引退してからここに再就職したとのこと。この部屋とは別の部屋で仕事をしているのだそうだ。
ギルド長は私に向く。
「エルナ。ラミアノはこんなんだが義理堅いし信用できる女だ。ギルドにおける魔法士としての仕事はこいつから学ぶといい。それとギルド内において、表向きは、ラミアノの小間使い、ということにしようと思う。だからギルド職員の制服ではなく、ラミアノの小間使いに相応しい服装で活動してくれ」
なるほど、子供が魔法士の仕事場に出入りする建前を用意してくれたわけだ。
小間使いの服装は・・・後でラミアノさんに聞こう。
「わかりました」
そういえば昔マーカスさんに、魔法士に会うことが難しい、って話を聞いた時に、その理由が『貴族や街の有力者に雇われている場合が多いから』って言ってたなぁ。もちろんお金で雇われているケースもあるんだろうけど、むしろ婚姻によって囲われているケースの方が多いまであるんじゃなかろうか。
「まだお会いしてませんけど、もしかしてラミアノさんだけでなく、ガトランさん、デルミットさんも、貴族に囲われていたりするのでしょうか」
それを聞いたギルド長とラミアノさんは、目を丸くして互いに顔を見合わせた。
「ダル・・・。この娘、なかなか鋭いわねー」
「ガトランはレインチェル伯爵の娘さんと結婚しているし、デルミットは冒険者時代にパーティーを組んでいた女と結婚していたが、その後マクスレー男爵の娘さんを第二夫人に迎えているな」
はぇー。冒険者のパーティーメンバーが第一夫人で、貴族の娘さんが第二夫人なんてケースもあるんだ。まぁ色々事情があるんだろう。
「これから仕事をしていけばわかることだが、魔法士は有用で希少だし、貴族としては繋がりを持っておきたいわけだ。魔法士としても後ろ盾ができるわけで、どちらにも利益がある」
私が使えるのは、まだ光魔法だけだ。確かに便利だけど、貴族が魔法士をそこまで欲しがるのには何か理由があるんだろうか。
「さて次の話だが、冒険者登録をしてもらう」
「え?私が、ですか?」
ギルド長が私の方を向いてそう言うので、面食らった私は目をぱちくりさせる。
「そうだ。ギルド職員は全員冒険者登録する。ギルドの仕事をすることで、冒険者としての功績が入る場合があるからだ。職員としての報酬と、冒険者としての報酬が併せて受け取れるし、預金や引き出しもできるようになる。それに君は魔法士だ。もし将来的に他人に魔法を教えようとした場合、少なくとも六等冒険者になっていないと教えることはできない」
「あれ?魔法を教えることって、禁止されているのですか?」
「あー、いや、正確に言うなら、六等冒険者に満たない者が教えた場合はギルドは保証しない、ということになる。つまり教えた相手が、『魔法が使えない、お前の指導が悪かったんだろう、責任を取れ』と訴えてきて揉め事になった時、六等冒険者かつ適性な依頼料であればギルドは魔法士を全面的に守るが、そうでなければ当事者同士で勝手にやれ、ってことになるわけだ」
あー、なるほど。納得した。訴えてきた相手が貴族だったとか、逆に指導する魔法士が詐欺を働くとか、色々ありそうだ。確かにギルドのお墨付きって必要だよね。
「えっと、ずっと知りたかったんですが、六等って冒険者のランクですよね?冒険者のランクってどういう仕組みになっているんですか?」
「そうか、それも知らなかったか。後で登録するときでも・・・いや、今簡単に話しておくか。冒険者のランクは一等から八等まである。駆け出しは八等で七等には比較的すぐ上がるようになっててな。そこから査定が厳しくなるんで、冒険者といえば七等冒険者が一番数が多いんだ。オルカーテだと六等で中堅、五等でベテランと言われるな」
ランダルフ先生は四等、同じパーティーのダルセンさんは六等だって言ってたなぁ。
そんなことを思い出していると、にこにこしているラミアノさんと目が合う。
「ラミアノさんは何等なのか、聞いてもいいですか」
「あたしは四等冒険者だねー。職員に就職したから一応復帰した冒険者だけどさー。引退したときのランクのままさ」
えーと、さっき、魔法士になったから結婚して引退したって言ってたから・・・。
「ということは、少なくとも二十三歳のときには冒険者としての腕っぷしだけで四等になっていた、ってことですか」
「ふふっ。そうだよー。エルナは本当に八歳に似つかわしくない聞き方するねー」
隣からギルド長が口を挟む。
「ラミアノは剣が得意でな。本当に強かったんだぞ。今はこんななりだがな」
「こんななり、は余計だよ、ダル。でもまぁ確かに、今はもう若い連中相手には敵わないさ」
はぁー。ラミアノさんは剣の使い手だったんだ。なんかカッコいい。
「冒険者ランクが高くなればギルドからの手当や特典、優遇措置が増える。冒険者ランクの詳しい話は、後で実際に冒険者登録するときに、職員にまた聞くといい」
「あ、はい。わかりました」
私が頷くのを見て、ギルド長は話を続ける。
「それから、本館二階には食堂があって、職員はそこで食事が取れる。だがエルナは表向きは小間使いなので、当面は自室へ持ち込んで取る方がいい。食堂には食事を渡すよう話を通しておこう」
「はい」
代金は職員報酬から自動で引かれるとのこと。さっきの冒険者登録の件とも話が繋がっているのか。冒険者、便利だなぁ。
「外出については、ラミアノの小間使いという立場を使って外出も可能だが、当面はできる限りしない方がいい」
「はい」
「後は、肝心の仕事についてだが・・・ラミアノ、任せていいか?」
ギルド長はにこにこ顔のラミアノさんに問い掛ける。
「んー?」
「お前、聞いてたか?」
「あはー。エルナ可愛いなぁ」
「おい・・・仕事の説明をだな」
「いいよー。任せな任せなー」
「・・・はぁ。もういいや。それじゃエルナ、昼になったらまた来るから説明を聞いて仕事を覚えてくれ」
ギルド長はため息を吐いた後、椅子から立ち上がり、部屋から退出していった。組織を束ねる人はやっぱり忙しそうだなぁ。
ラミアノが魔法を使えるようになった年齢を25→23に修正しました。(2023/08/29)




