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77番目の使徒  作者: ふわむ
第一章
22/129

子供達の研修


翌日、昼の鐘が鳴り、私はマーカスさんの家を訪ねた。


「・・・なるほど。最初に仕事を見せてから礼儀作法を覚えさせるのか」


引継ぎ方針を伝えたマーカスさんは、腕を組んで頷く。


「エルナは十分な礼儀作法を身につけていたからこの仕事を任せるに至ったわけだが、その逆の発想とは・・・」

「その・・・自分で言うのも何ですが、私を基準にしちゃ駄目ですよ」

「いや、そうだな。その通りだ」


クールを装いながら言えてると思うが、自分で自分を持ち上げる発言は正直少し恥ずかしいなぁ。


「それで私は何をすればいいのかな?」

「村長さんは、ガルナガンテさんに先触れをお願いします。次の仕事の時に子供三名を見学目的で同行させます、と事前連絡が必要です。一応リンはまだ六歳になったばかりなので、天候が崩れたら留守番にしようかと考えています」


ガルナガンテさんなら、許可を取り付ける程ではなく事前連絡で大丈夫だ、というくらいには信頼関係を築けてるつもりだ。


「わかった。手紙を書いておこう。ちょうど三日後にセロトラエさんが仕事を終えて領都へ戻る予定なんだ。帰りに隣村にも立ち寄るだろうから、セロトラエさんからガルナガンテに渡してもらうよ」


セロトラエ様に配達させるらしい。本当にお二人は気易いなぁ・・・。


「それからカロン、ダフタス、リンをワッツさんに指導してもらいます。できれば斎場で三人一緒がいいでしょう」

「教わるのは、会うときの挨拶、そして辞するときの挨拶だけ、だったね?」

「はい。その代わり完璧に覚えてもらいます」

「ふーむ。エルナの人に教えるやり方は本当に参考になるよ」


私も前世の社会人の記憶を参考にしているだけなのだ。

取引先の営業さんが新人を連れて挨拶回りに来ていたことを思い出しつつ、それをアレンジしたに過ぎない。


「そういえば、カロンの勉強嫌いはどんな感じですか」

「ファトラ、シアラと一緒に勉強するようになって、以前よりは身を入れて取り組むようになってきたよ。真剣味は物足りないけど、投げ出すことはなくなったかな」

「そうですか。良かった」


私はホッとする。勉強嫌いが加速していたらどうしたものか、と少し心配だったのだ。


「礼儀作法はどうでしょうか」

「そっちも最近興味を持ち始めたところだよ。エルナがちょくちょく配達の仕事をしているから、気にはなっているようだ」


それなら見込みはあるだろう。あとは、仕事で礼儀作法がどんな風に使われているのか、ということを見て知ればいいのだ。


「わかりました。では最後に、カロン、ダフタス、リンに斎場へ行ってもらう日を決めましょう」

「三日後の昼からでいいんじゃないか」

「はい。ではワッツさんとダフタス、リンには私から伝えておきますね」

「ああ、よろしく頼むよ」

「では村長さん、これで失礼します」


村に徴税官が来ている今の時期、当然ながらマーカスさんは忙しい。

私は仕事の邪魔にならないよう必要最小限のやり取りで済ませてマーカスさんの家を辞した。


それから三日後の昼。

いつものようにダフがリンを迎えに家に来た。

今日は斎場にカロンも来ることを予め伝えてあるが、一応「仲良く勉強してね」と念を押す。ダフは笑って「任せとけ」と言うと、リンと一緒に斎場へ出掛けて行った。


ワッツさんはいつも二時間くらい教えている。なので、私は終わる少し前に斎場に行って、リンを迎えに来たという名目で斎場に入れてもらった。

斎場ではカロン、ダフ、リンが仲良く楽しそうに礼儀作法を教わっていた。

カロンは私が来ると少しだけ嫌そうな顔をしたが、ちゃんと礼儀作法ができているのが見て取れた。


勉強が終わり、リンがたたたっと駆け寄ってきて、私にぽふっと抱きつく。可愛い。


「おねぇちゃん、一緒に帰ろうー」

「うん。ワッツさんとお話するから、少しだけ待っててね」


ダフとカロンは私に少し話し掛けて、一緒に帰って行った。

私はワッツさんに、今日の状況を確認する。


「ワッツさん、今日はカロン、ダフ、リンの三人でしたけど、うまくいきましたか」

「ああ、挨拶だけだから三人ともすぐ覚えたよ。やる気のある子供はすごいねぇ」

「そうでしたか。ありがとうございました」

「エルナ、リン。気を付けて帰りなさい」

「はい。さようなら、ワッツさん」

「せんせー、さようならー」


リンはぱたぱたと手を振った。私も振っておこう。

私とリンは手を繋いで、家路に就いた。


それからさらに数日後。

だいぶ秋も深まり、朝方の寒さから手を擦り合わせるようになった頃。

国境砦からの定期報告書の配達、つまりいつもの仕事がきたということで私と父さん、そしてリンの三人で朝早くからマーカスさんの家へ向かっていた。

途中でダフの家に寄り、ダフが家から出てくる。


「「ダフ、おはよう」」

「おはよう、エルナ、リン。おじさん、おはよう」

「ああ、おはよう」

「エルナ。今日はよろしくな」

「うん、任せてダフ。さ、村長さんの家に行こ」


ダフと合流して四人になった私達は、マーカスさんの家に着くとすぐ中へ通された。

そしてマーカスさんの居る部屋に入る。

そこにはマーカスさんとカロンが待っていた。


「村長。おはようございます」

「村長さん。おはようございます」


まず父さんと私が右手を胸に当ててお辞儀をし挨拶をする。


「「村長さん。おはようございます」」


続いてダフとリンが隣に並び、右手を胸に当ててお辞儀をし挨拶をする。

それを見てマーカスさんに一つ頷く。


「ああ、おはよう。ドナン、エルナ。そしてダフタス、リン。楽にしていいよ」

「「「「はい」」」」


私達は礼の姿勢を解いて頭を上げる。

マーカスさんは机の上にあった紙の束と木札を持ち、父さんに見せた。


「国境砦から定期連絡の文書をお預かりしている。これを第四ホラス村まで届けてほしい。今日は、カロン、ダフタス、リンも同行する。先方には連絡済みだ。よろしく頼むよ、ドナン、エルナ」

「わかった、村長」


父さんは村長から受け取って、そのまま私に渡す。


「エルナ」

「はい、父さん」


受け取ったら、いつもの様に受領札の目録に目を通す。

食料備蓄報告書、定例報告書。今日はこの二つだけ。それを確認して文書と一緒に背負い袋にしまう。


「ドナン。子供達の護衛、頼んだよ」

「ええ、行ってきますよ。カロン、今日はよろしくな」

「はい、おじさん」


父さんはカロンに声を掛ける。カロンも元気に返事をする。


「行ってきます、村長さん」

「ああ。今日は天気が良くて助かる。エルナ、頼んだよ」

「任せて下さい」


私達はマーカスさんの家を出て、南門に向かう。

一番足の遅いリンは私と並んで先頭だ。リンには一切荷物を持たせていない。続いてカロンとダフ。最後尾に父さんだ。

こうすればリンのペースで進んでいける。旅人の知恵みたいなものだと父さんが教えてくれた。


門を通るとミッテンさんとナスタさんが話をしていた。門番の二人は、私達を見て挨拶してくれる。


「おはよう、みんな。今日は大人数っすね」

「ダフタス。今日の仕事・・・いや、見学だったか。頑張って行ってこい!」


ナスタさんはダフのお父さんだ。近づいてダフを激励した。

私達は二人に挨拶して門を出る。二人は私達が見えなくなるまで手を振ってくれた。


「ふーんふんふんふーん♪」

「リン、もう少しゆっくりで大丈夫だよ」


リンは隣村へ行くこと自体が初めてだ。楽しくて仕方がないらしく、足取りが軽い。行きは大丈夫だろうが、帰りもあるので少し落ち着かせる。

ダフも隣村には行くことは滅多にない。カロンは何度か行っているが、主に父親のマーカスさんと馬車で同行していたので、徒歩で行くことはあまりない。とはいえ、ダフもカロンも普段から村を駆け回っている元気な男の子だ。こちらは何も心配ない。


陽が昇り、爽やかな秋空の下、途中何度か休憩を取りながら私達は何の問題もなく隣村に辿り着いた。

門をくぐると、行き交う人達が見られる。相変わらずうちの村よりも賑やかな人通りだ。

リンは歩きながら楽しそうにきょろきょろしている。


「では、この村の村長であるガルナガンテさんの屋敷に行きましょう」


私はみんなを先導する。歩きながら、ふと後ろの様子を見ると・・・。

あれ?ダフとカロンが胸に手を当てて呟いている。


「ダフ、カロン。もしかして挨拶の練習しているの?」

「あ、ああ」

「なんか急にドキドキしてきてさ・・・」


礼の練習と、緊張で心臓を押さえているのと、両方だったか。

ふふ。ちょっと微笑ましいな。


程無くガルナガンテさんの屋敷に着き、私達はすぐに待合室に通された。出してもらった木のコップにはお湯が入っていた。

ああ、前回ここに来たときは水だったけど、お湯になったということはいよいよ冬間近なんだなぁ。

前世の記憶の、会社の接客室でお出しする飲み物を思い出した。冷たい麦茶だったのが熱いお茶になるタイミングで、季節の変わり目を感じていたこともあったんだよね。


私はみんながコップに口を付けて落ち着いたのを見計らって、椅子から立ち上がった。


「あのね、カロン、ダフ、リン。練習した通りやればそれでいいんだからね」

「お、おう」


カロンが少し上ずった声を出し、ダフとリンはこくこくと頷く。


「えっと今日はね、失敗してもいいんだよ」

「「え?」」


カロンとダフは驚いた声をだした。リンも目を丸くする。あ、父さんもか。

私はカロンに向いて言う。


「上手にやろうとするんじゃなくて、本当に練習通りやればいいの。でも、1つコツを言うならね・・・子供らしく元気に挨拶しようね」

「げ、元気に・・・か?」

「そう。小さい声じゃなくて、元気な声。それができれば多少間違っていても構わないよ」

「・・・そうなのか。それでいいのか・・・」


ちょうどその時、待合室の扉がノックされる。どうやらガルナガンテさんの部屋に通されるようだ。


「じゃ、みんな行くよ。元気な挨拶お願いね!」

「「ああ」」「うん」


カロン、ダフ、リンが笑って応えた。


部屋に入り、私と父さんが並び、その後ろにカロン、ダフ、リンが並ぶ。

それを確認して、みんなで右手を胸に当ててお辞儀をする。


「ガルナガンテ村長、第七ホラス村の村長マーカスから預かりました書状をお持ちしました」


父さんが挨拶をする。


「よく来た。ドナン、それとエルナ」

「ガルナガンテ村長、こんにちは」

「面を上げてくれ。エルナ、後ろの見学者の紹介を頼む」

「はい」


私達は胸に手を当てたまま、顔を上げる。

私はカロンから紹介する。


「こちら村長マーカスの息子、カロンです」

「初めまして、ガルナガンテ村長!マーカスの息子、カロンです!父がお世話になっております!」

「ほう。立派になったものだ。今いくつだ」

「十一歳です!」

「そうか。いずれマーカスの跡を継ぐ日を楽しみにしているぞ」

「はい!」


むっちゃ元気に挨拶した。いいね!

次にダフを紹介する。


「私の幼馴染、ダフタスです。九歳になります」

「初めまして、ガルナガンテ村長!ダフタスです!よろしくお願いします!」


ふふっ。こっちも元気だ。

ガルナガンテさんも口角を上げて頷く。

最後にリンを紹介する。


「私の妹、リンです。六歳になります」

「初めまして、ガルナガンテ村長!リンです!よろしくお願いします!」


うんうん。リンも元気で可愛い。


「はっはっは!皆元気があって大変よろしい!楽にしてよい」


ガルナガンテさんはそう言って目を細め、席を勧めてくれた。

ガルナガンテさんが座ったのを見て、みんなで木の椅子に腰掛ける。


「では用件に入ろう」

「エルナ」

「はい」


私は父さんに促され、いつものように文書を渡し、受領札に印をお願いする。ガルナガンテさんも、やはりいつものように机の上にある魔道具の印章で受領札に印を押す。

ああ、魔道具、触ってみたい。そして魔力を通してみたい。

魔法が使えるようになり、以前とはまた違った興味が湧いてくるよ。


・・・おっと、いけないいけない。仕事中だ。

私は印が押された受領札を確認してから、背負い袋にしまう。

これで仕事は終わりだ。


「配達ご苦労だった。マーカスにもよろしくと伝えてくれ」

「はい」


私は立ち上がり、みんなに視線を送る。そしてみんなが姿勢を正したのを確認して、胸に手を当ててお辞儀をする。


「ガルナガンテ村長、失礼します」


父さんが挨拶し退室する。残った私達も順番に


「失礼します」

「失礼します!」


と言って退室した。

うんうん、良かったんじゃないかな。さぁ、待合室で一息ついて、買い物して、そしてうちの村に帰るぞー。

私はようやくホッとするのだった。







「ふーむ」


部屋に残されたガルナガンテは、感心しながら一人呟く。


「マーカスは何でもかんでも自分でやっちまう優秀な奴だったが、その反面、他人を使うのが不得手だったんだがな・・・。ようやく村長らしくなってきたってことか。それにしても自分の息子だけでなく村の子供にも仕事の見学をさせる、というのはなかなかうまい手だ。・・・俺も真似してみるか」


幼馴染であるマーカスの成長と先ほどの見学の子供達のことを思い、ガルナガンテは愉快な気分に浸るのだった。

そして、それらが実はエルナからもたらされたものと知ることになり、さらに愉快な気分になるのだが、それはもう少し先の話である。


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