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77番目の使徒  作者: ふわむ
第三章
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助っ人エルナ5


ダルセン視点。



「ダルセン。伝令だ」

「おう。任務ご苦労さん」

「発見したぜ。ヒポノトン1体だ。恐らく目標のヒポノトンに相違ないと思われる。場所はA地点の西。A地点にいるバルーザと合流してくれ」

「了解した。すぐに向かう」


俺達が野営している場所にやって来た若い冒険者は、伝令を終えるとすぐに踵を返す。

他の地点で捜索している連中にも目標発見の報を伝えて回るのだろう。またたにこの場から立ち去っていった。


やれやれ。ようやく仕事がきたか。

現場に到着してから二日間、ずっと待たされて退屈で死にそうだったぜ。


気持ちが上がってきた俺は、自然と頬が緩む。

そして、今のやり取りを後ろで聞いていたであろう二人に振り向けば、その二人も嬉しそうな顔をしていた。


「というわけだ。ランダルフさん、エルナちゃん。出番だよ」







俺はダルセン。オルカーテを拠点とする六等冒険者だ。

冒険者活動11年目の26歳。年齢的には全盛期を迎えたと言っていいだろう。

今は『翠青すいせいの風』という冒険者パーティーに所属している。

冒険者パーティーと言ったが、2人組なので冒険者ペアと呼んでも差し支えない。


俺とペアを組んでいるのが、先輩のランダルフさん。四等冒険者だ。

歳は今年で40、いや41だったかな?

文句なしにベテラン冒険者と言える。


『翠青の風』は元々、ランダルフさんが若い頃に作った冒険者パーティーだった。

メンバーは3人だったときもあれば、4人のときもあったらしい。

色々あって今のメンバーは2人。つまり俺とランダルフさんだけだ。


そんな俺達のパーティーは現在、3パーティー合同による討伐依頼を請負中。

ヒポノトンという水辺に棲む大型生物が討伐対象だ。


3パーティー合同ではあるが、戦闘を担当するのは俺達のパーティーだけである。

他の2パーティーの役割は、主に斥候と解体と運送。場合によっては罠を仕掛けたり、目標を誘導したり囲い込んだり。まぁ俺達のサポートをしてくれるって感じだ。


こういう言い方をすると、俺達がめちゃくちゃ戦闘力の高いパーティーなのかと思うかもしれないが、そんなことはない。強いていうなら普通だ。

というか討伐対象であるヒポノトンは、モノによっては領軍が出張でばることもあるくらいで、ぶっちゃけ冒険者2人だけでどうにかなる相手じゃないのだ。

大抵の場合、10人以上で取り囲んで、遠距離からひたすらに弓矢で攻撃したり、石などを投擲とうてきしたりして、時間と物量を費やして倒すもの。

俺とランダルフさんは近接攻撃が主体だし、どうしたって火力不足になる。


では、どうやってその火力不足問題を解決するのか。


『答え』は簡単。火力が足らないなら足せばいい。

このヒポノトン討伐のため、強力な助っ人が俺達のパーティーに臨時参加してくれた。

助っ人として加わるのは今回が2回目。前回は大活躍だった。

若干12歳の少女ながら、冒険者ギルドの職員にして七等冒険者。

名をエルナちゃんという。

そう。彼女がもたらす火力によって解決するのだ。







「お、あそこでバルーザが手を振っている。慌てずゆっくり合流しよう」


俺の抑え気味の声掛けに、ランダルフさんとエルナちゃんがこくりと頷く。

俺達3人がA地点付近までやってきたところで、少し離れたところから身振りで存在をアピールしているバルーザという男の姿を見つけた。

六等冒険者バルーザは、今回の討伐依頼を一緒に受けている『肉をらう』というパーティーのリーダー。なかなか強烈なパーティー名だが、かつて貧しかった同村出身の冒険者が肉を食うために結成したパーティーだ、と聞いている。

パーティーの中では一番年長で、兄貴分でもあるバルーザ。彼が率いるメンバーは、まだ七等冒険者ながら若手有望株が揃っていると評判だ。


俺達は大きな物音を立てぬよう気を付けつつ、彼のいる場所に到着した。

今回パーティーの窓口担当は俺だ。状況を聞いてみよう。


「バルーザ、任務ご苦労だったな」

「よう、ダルセン。早いじゃないか」

「そうか?だとしたら、伝令が優秀だったんだろう。後で褒めてやりな」


俺の言葉を聞いて、バルーザはわかりやすく頬を緩めた。

今回のような合同パーティーでの仕事では、冒険者同士の横の繋がりが生まれ、さらには自分達の仕事ぶりを他パーティーの冒険者から評価されたりする。

自分の仲間の評価が上がるのは、パーティーのリーダーとして嬉しいことだ。


「それで目標は?」

「ああ、すまんすまん。この先にいて、ほとんど移動していない。仲間に見張らせているが、ギルドの情報通り、かなりでかいぞ」

「そんじゃ、こっからは俺達の仕事だ。巻き込まれないよう、お前んとこの仲間は引き揚げておいてくれ。もし目標に逃げられても深追いはしない。一旦ここに戻って来るぜ」

「わかった。気を付けろよ」


俺達以外の冒険者連中を引き揚げさせるのは、言葉の通り、戦闘に巻き込ませないためでもあるが、真意はヒポノトンの討伐方法を隠すためである。

バルーザだって間違いなくその真意を察している。そしてこの後見ることになるであろう死体の状態から、通常の手段ではないと気付くはず。

しかし実際の戦闘をその目で見なければ、流石に『エルナちゃんの魔法』という答えに辿り着くのは無理というものだ。


程なくバルーザから『仲間の引き上げ完了』の報告が入り、俺達三人は目標に向かって移動を開始した。

先頭に立つ俺は、周囲に注意を払いながら進んでいく。


視界がある程度確保できて助かる。真っ先にそう思った。

今の時期は大したことはないが、水辺に生える丈の長い多年草は厄介だ。これが視界をさえぎるくらいに生い茂っていると、それだけで水辺のクエストは難易度が上がるんだ。

足元も意外と大丈夫。

ここしばらく天気の良い日が続いていたから、水が溜まっている場所と乾いた地面の場所がはっきりしている。ぬかるんでいる場所もあるが、それほど酷い足場ではない。

雨が降った後だと、こうはいかないんだよな。


「おっと・・・。止まってくれ」


振り返らずに腕を後方に伸ばして進行を止めた。

目標を視界に捉えたからだ。


「・・・でかいな」

「はい。去年のはもっと小さかったですよね」

「つうか、こんなにでかいのは俺も見たことねぇな」


小声で率直な感想を述べ合うランダルフさんとエルナちゃん。二人が言う通り、今までに見たことのあるヒポノトンと比較しても格段に大きな個体だった。


「でも、やることは変わらないですよ。ここから右に回り込みましょう。首を狙えて風下ですし」

「ふっ。そうだな。ダルセン、位置取りを頼む。慎重にな」

「おう」


エルナちゃんは気負う様子もない。大したものだ。

彼女の提案に同意したランダルフさんが俺に指示を出し、それを受けて俺は足元をしっかり確認しながら二人を先導する。


よし、方角はこんなもんか。

エルナちゃん。距離があるけど狙えるかい?


俺が声には出さず、身振りで伝えれば・・・


もう少し距離を詰めます。


・・・と、エルナちゃんも身振りで返してきた。


ここから先はエルナちゃんに任せるしかない。

俺とランダルフさんは、周囲の警戒をしながら彼女のカバーに回るのだ。


ゆっくりと前に進んだエルナちゃんは位置が確保できたのか、腰を落として姿勢を安定させると、握っていたマチクの筒の先端を目標に向けて狙いを定める。


そして魔言を唱えた。


《広がれ》


ポンッ!


俺達がいる水辺に軽い音が通過した。

と同時に、目標であるヒポノトンの首の一点がえぐれ、血が吹き出していた。


・・・すげぇ。

一年ぶりに見るが、あらためてとんでもない威力だ。・・・いや、恐らく去年よりも威力が上がっている。

ヒポノトンは首の部分が比較的柔らかいとはいえ、あの硬鱗を貫き通すとは・・・。弓矢じゃ、ああはならないぞ。貫通力なら軍隊が使う弩弓どきゅうに匹敵するんじゃないか?

エルナちゃんが持っていた筒から鉛弾が射出されているらしいが、あまりに速くて目で捉えられなかったし・・・。もし俺に向けて撃たれたら、まず避けられないだろうな。


《風よ、集まれ、我が手に》


エルナちゃんは少し長めの魔言を唱えると、筒の先に素早く弾を込めている。

二撃目の準備をしているのだ。

準備に要する時間は約10秒。このかん相手から反撃があると危険なので、彼女には護衛が必須になる。

それは俺とランダルフさんの役目だ。俺は正面の相手を常に視界に入れながら、周囲にも気を配る。


首からドクドクと血を流しているヒポノトンは数秒の間、前後によたよたとしながら逃げようとしていたが、バタリと横倒しになると、苦しそうに前足と後ろ足で宙をき始めた。


「一応、もう一回やっときますか?」


二撃目の準備を整えたエルナちゃんが、俺に判断を仰いできた。

数発は掛かると予想していたが、結果はたった一発で致命傷。もはやヒポノトンの逃走を心配する必要もない。このまま放置していても息絶えそうではある。

だが、この討伐依頼は3パーティー合同で受注している。解体や運送を担当する俺達以外のパーティーが控えているのだ。ここで無為に時間を掛けることもないだろう。


「そうだね。同じく首に頼むよ」

「はい」


瀕死の状態とはいえ、ヒポノトンが巨大な尻尾を振り回す可能性は十分にある。

筒を構えたエルナちゃんは、尻尾の間合いに入らない程度に、先程より少しだけ距離を詰めた。


《広がれ》


ポンッ!


再び、水場に響く軽い音。

横倒しになって藻掻もがいていたヒポノトンの首の一部がぜ、少し遅れて血飛沫ちしぶきが舞う。と同時に、ヒポノトンの尻尾が大きく跳ね上がった。

それは最後の足掻きだったのだろう。しばし天を指していた尻尾がバタンと地に落ち、やがて四肢の動きを止めていった。

討伐完了だ。


「よし、いいだろう。エルナ、武器は仕舞っていいぞ。俺とエルナはこの場に残る。ダルセン、待機中のパーティーを呼んできてくれ。後処理を任せよう」

「了解。俺が連中を連れて戻ってきたら手を振るなりして合図をくれ」


ランダルフさんが矢継ぎ早に指示を出し、俺も心得たとばかりにテキパキと動き出す。

何しろ、剣を振るうことすらなかった俺は体力が余っているからな。


目標の発見に現場で2日を要したが、同行した冒険者に被害無し。物資もほとんど損耗無し。

そして、恐らく今までで一番の稼ぎになるはずだ。

費用対効果、良過ぎるだろう。

エルナちゃんのお陰で、俺も家族に旨い物が食わせられるってもんだ。

・・・そうだな。土産に、ちょっと高い肉でも買っていくか。


まだ帰り道が残っているのに家族に思いを馳せるなんて気が緩んでいるな。

そう自覚しつつも、俺の足取りは自然と軽くなった。


読んでくださる方、ありがとうございます。

次回投稿は少し間が空きます。戻りましたらまたよろしくお願いします。

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