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77番目の使徒  作者: ふわむ
第三章
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助っ人エルナ4


オルカーテの街を出発した私達冒険者一向。現在は、街道を西に向かって進んでいる。

道を照らす春の日差しが、ぽかぽかとした朗らかな陽気を漂わせ、散歩するにもいい季節だと感じさせる。

そんな穏やかな空間にありながら、私のテンションはとても高い。

普段ギルドの建物に籠っている私にとって街の散歩ですらワクワクするというのに、街の外で冒険とあらば尚更だ。


さて、現状をおさらいしよう。

冒頭で冒険者一向と言ったが、正確には3つの冒険者パーティーが寄り集まった合同パーティー。私を含めた冒険者13名の集団であり、2台の人力荷車と共に全員徒歩で移動しているので、進行速度はゆっくりとしたものだ。


私達の目的は、ギルドの討伐依頼を達成すること。

オルカーテの西に広がる湿地帯。そこで目撃されたヒポノトンという害獣の退治が依頼内容である。

今は目撃場所となったその湿地帯に向かっている最中なのだ。


ヒポノトン討伐のために集まった3パーティーには、パーティーごとに役割が設けられている。

まず、私達のパーティー『翠青すいせいの風』。

合同パーティーのまとめ役ポジションであり、戦闘担当でもある。

六等冒険者のダルセンさんは他の2パーティーとの協議窓口となっていて、実質的に合同パーティー全体に指示を出す立場だ。


補足すると、先生は四等冒険者なので、六等のダルセンさんよりも等級が上である。

じゃあ、先生が全体指示を出すのが普通じゃないの?

・・・と思われたかもしれないが、先生にそんな余裕はない。

なぜならば先生はこの依頼中、私の護衛に集中する必要があるから。

そのため、他パーティーと協議するのはダルセンさんの仕事となっている。


そして私の立場であるが、表向きには『翠青の風』の雑用係、あるいは荷物番といったところ。実際は先生とダルセンさんに護衛されているだけで、雑用係でも荷物番でもないのだが、それは同行している他の冒険者たちには内緒なのだ。


他の2パーティーについても紹介しておこう。

冒険者パーティー名は『肉をらう』と『あかつきの星』。共にサポート担当だ。

どちらも5人パーティーで、構成メンバーはほとんど10代の若者たちだ。

サポート担当である彼らには、荷車がそれぞれのパーティーに1台ずつ割り当てられており、メンバー5人分の荷物が乗せられている。車を引く者は大変だが、他のメンバーは手ぶらで快適そうだ。

もっとも、それは行きだけの話で、帰りは討伐したヒポノトンの素材が積まれる予定であるのだが。


荷車のない私達『翠青の風』は、3人が自分の荷物を背負っているが、それでも比較的軽めとなっている。鍋や食器、食材などの合同パーティー共用の荷物を『肉を喰らう』『暁の星』に受け持ってもらっているからだ。

つまり、大事なものだけは自分で背負っている、ということである。


ちなみに、合同パーティーの先頭を歩くのも私達だ。

その理由を簡単に説明しておこう。


本来、護衛対象や最重要人物というのは集団の中央に配置するのがセオリーである。そのセオリーに従えば、護衛対象の私を含む『翠青の風』を中央に配置するべきなのだ。

しかし今回のケースでは、私が護衛対象であることを同行している他の冒険者に考慮させないのが望ましい。なぜなら他の冒険者には私が魔法士だということを隠したいからだ。

つまり、あえてセオリーを外したわけである。

これが理由の一つ。


今述べた理由に関連して、理由がもう一つ。

それは、私と他の冒険者との接触機会を減らすため。

集団の中央にいれば守りやすくはなるが、他の冒険者から話し掛けられやすくなる。

話し掛けられれば、私の雑用係だとか荷物番だとかいう役割に違和感を覚えられるかもしれない。そうなると全体の作戦行動に支障が出るので、先頭を歩くことで他の冒険者と距離を置けるようにしたのだ。

個人的には色んな冒険者さんとお喋りしてみたかったのだが、これは仕方ない措置だといえる。


・・・おや?


私の前を歩いていたダルセンさんが、歩きながらこちらに振り向いた。

私は一瞬不意を突かれた形になり、何かあったのかと緊張を走らせる。


「あっ、後ろを見ただけだよ。びっくりさせて悪かったね」

「いえ、少しドキッとしただけですから」


単なる後方確認だとわかり、私はダルセンさんに笑って返す。


「すぐに反応できるのは悪くない。道中ずっと警戒する必要は無ぇが、何か変化が生じたとき、ちゃんと動けるのは大事だからな」

「はい、先生」


隣を歩く先生からは褒められた。えへへ。


「ランダルフさん。この移動速度で問題なさそうだけど、後方の連中に直接様子を聞いてくるから一旦先導をお願いしますよ」

「わかった。行っていいぞ、ダルセン」


それまで集団の一番先頭を歩いていたダルセンさんは、後方を眺めながら立ち止まった。

入れ代わりに私と先生が集団の先頭に出て、それまでと変わらぬペースで歩いて行く。


この13名の集団において、六等冒険者のダルセンさんは経験豊富なまとめ役。

率先して他のパーティーに気を配っている。


しばらくして。

同じペースで歩き続けていた私と先生の元に、後方の2パーティーのところまで様子を聞いて回っていたダルセンさんが戻ってきた。


「ふぅー。ようやく追いついた。えーと、移動速度は今のところ問題ないそうだ。でも、そろそろ休憩を入れようかという話になった」

「お疲れさん。そうだな、あの辺りで休憩にしよう」


ダルセンさんの報告を受けて、先生は街道脇の少し先の拓けた場所を指した。


「エルナ。休憩中も俺から離れないようにしてくれよ」

「わかりました!」


私は合点承知がってんしょうちとばかりに先生に返事する。

護衛主が動き回ったりしたら護衛する人の仕事が増えるので、あまり良い事はない。

かつて里帰りの旅で学んだことだ。


程なく休憩に入り・・・。

休憩中、私は他の若い冒険者から話し掛けられることはあったが、「パーティーの雑用係、兼荷物番として同行しているんです」と用意していた台詞で会話をやり過ごした。

先生は時々私に道具の確認をするよう指示を出して、彼らとの会話が長引かないようにアシストを入れてくれたりした。


そんな感じで私達冒険者一向は数度の小休憩を挟みながら、昼過ぎには目的地である湿地帯に到着するのだった。


でも現場の湿地帯は広かった。

何はともあれ、この広大な湿地帯の中から討伐対象であるヒポノトンを発見しなければならない。ただ、その捜索は他の2パーティーの役目である。


私達のパーティー『翠青の風』は捜索活動には参加せず、野営の場所を整えながら発見の報が入るのを待つ身となった。

捜索活動を全員でやった方がいいじゃないか、と思われたかもしれないが、私達は待つのが仕事である。

捜索活動を手伝わない表向きの理由は討伐に専念するためで、もちろんそれも事実ではあるのだが、もっと重要な理由は、私の身の安全が最優先であるため、だ。

下手に捜索活動を手伝って私が怪我でもしたら、作戦そのものが失敗となる可能性もある。だから、手伝いたくても手伝えないのである。


結局、私達はそのまま現地で野宿することになってしまった。

その日も、翌日も、ヒポノトンを発見することはできなかったからだ。

ようやく発見の報が入ったのは、現地に到着してから二日後のことであった。


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