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77番目の使徒  作者: ふわむ
第三章
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助っ人エルナ3


今からちょうど一年前のことだ。

ギルドにヒポノトン討伐依頼が持ち込まれた。依頼人はとある村の村長だったが、持ち込み主は、なんと領軍であった。

諸事情により緊急に対処しなければならなかったその依頼に、当時11歳だった私がなぜか冒険者として参加することに。

私にとって、初めての冒険であった。


場所は、オルカーテ西の湿地帯。その近くにある『ビス村』では、ヒポノトンによって既に家畜などに被害が出ていた。

領軍にまで話が行くレベルの被害状況だったが、その領軍にとってはタイミングが良くなかった。ちょうど部隊の改変期で出動までに数日掛かる見込みだったため、冒険者ギルドに依頼を回すことにしたそうだ。


しかし、依頼を回された冒険者ギルドにも都合というものがある。

緊急性が高い依頼にもかかわらず、狩猟を得意とする冒険者パーティーが街から出払っていて、討伐チームがすぐに組めなかった。

そういった状況でギルドがひねり出した作戦案。それが『エルナの魔法で倒す』というものだった。


そもそもヒポノトンの討伐方法というのは、罠などで足止めしたり、あるいは袋小路に追い込んで逃がさないようにして、遠距離からひたすら投擲攻撃をして、時間を掛けて仕留めるのが一般的だ。

対してギルドが立てた作戦は、火力は私の魔法だけで、時間を掛けず少人数編成でやってしまおう、というある意味画期的なものだった。

もちろん事前に火力テストしていて、私の魔法攻撃がヒポノトンの尻尾攻撃の範囲外から硬鱗こうりんを貫けることがわかっており、ギルドとしては十分に勝算のある作戦だったのだ。

なお蛇足ではあるが、発案者はラミアノさんだ。ギルド長と副長が人員の工面に頭を悩ませていたところに、「エルナにやらせてみれば?」と軽い気持ちでぶっ込んだのが発端らしい。


さて。

ラミアノさんの思い付きから生まれたそんなギルド案ではあったが、実現するにはいくつかの問題を解消せねばならなかった。

大前提として、私に討伐参加する意志があるかどうか、という問題があるのだが、それは一旦置いておくとして・・・。


まず第一に、私が魔法士であることを公開する必要性が生じる、ということ。

魔法士は自分の使える魔法を大っぴらにしないが、私の場合は魔法士であること自体を秘匿してきた。

ギルドという後ろ盾があるとはいえ、子供の身に魔法は不相応なものであるからだ。公開するにしても、できればあと数年後が良かった。

もし私の魔法を作戦に取り入れるならば、私が魔法士であることを、このタイミングで公開することになる。その点をどう対処するかが問題になってくるわけだ。


第二に、護衛の問題。

私の出せる火力とは、風魔法を使った射的攻撃である。

実際に現場で魔法を使用するとなったら、狙いを定める瞬間に隙があったり、次弾を準備するための時間が必要だったりする。安全を確保するためには、そばに護衛が必要だ。

こういった内情の理解なしに護衛はできないから、護衛を務める者には魔法士ということを公開するだけでなく、手の内までも明かしておかねばならない。

ゆえに、護衛を務めてもらう者は信頼に足る者であること、私の魔法について秘密厳守できる者であることが求められる。単に腕利きというだけでは駄目なのだ。







ここからはギルドの視点から過去の出来事を振り返っていこう。

先に挙げた問題を解決していくのは本来であれば難しかったであろうが、ギルドにはまとめて解決してくれそうな人物に心当たりがあった。


冒険者パーティー『翠青すいせいの風』だ。


彼らは信頼できる。ギルドにとっても、エルナにとっても、だ。

率直に言って武闘派ではないが、狩猟や護衛ができないわけではない。そういった戦闘が絡む依頼を『翠青の風』単独で受けることはほぼないが、他の冒険者パーティーと組んで受けることはよくあるので、最低限の実力はあるのだ。だから護衛役としても問題ない。


そして何よりも、彼らはエルナが魔法を使えることを恐らく(・・・)知っていた。知っていながら知らぬフリを続けてくれていた。

冒険者の流儀と言ってしまえばそれまでだが、そういった日頃の行いは、積み重ねた時間と共に、人としての信用を上げていくものである。


意を決したギルドは、エルナと『翠青の風』に個別で話を通して道筋をつけると、双方を引き合わせた。

エルナが魔法士であることを明かし、ギルドの訓練場でエルナの魔法の威力を実際に見てもらうことで、『翠青の風』にギルド案の実現性を認識してもらい、討伐依頼を引き受けさせるに至らしめる。

エルナに関しては、最初から参加に積極的だった。初めての冒険で街の外に出られることが相当楽しみのようだった。もしかしたら父親から受け継いだ狩人の血が騒いだ、ということがあったのかもしれない。


ともかくギルドは思惑通りに、エルナと『翠青の風』に依頼を引き受けさせるところまで持ってきた。

後は実行に移すだけ。

・・・とはならなかった。


エルナと『翠青の風』の間で、報酬の取り分がなかなか決まらなかったのである。

今回の作戦の要は、エルナの火力である。

『翠青の風』は、そのサポート役。

責任の度合いに差がある、と冒険者的には認識されるだろう。


報酬について最初に仲介役であるギルドから、エルナが半分、『翠青の風』が半分、を提案したところ、エルナと『翠青の風』、双方から待ったが掛かった。


双方ともギルドの提案に難色を示したわけだが、示す方向は正反対を向いていた。

『翠青の風』は、責任の重さの違いから半分は多すぎると主張。エルナが3分の2、自分達は3分の1が妥当とした。

一方エルナは、人数で分けてほしいと主張。エルナが3分の1、『翠青の風』が3分の2を希望した。

つまり、どちらも自分の取り分が多過ぎると言い出したのだ。


そして、エルナはがんとして主張を譲らなかった。

結局折れたのはギルドと『翠青の風』だった。


・・・これが一年前の、エルナと『翠青の風』のやり取りであった。







「思い出すよねぇ、去年のこと。こっちとしては手柄を横取りするみたいで嫌だったんだけど、そうしないと本当に危ない立場なんだ、って滅茶苦茶説得されたっけ」

「私の安全のために盾となってもらう、その迷惑料込みですから」


しみじみと呟くダルセンさんに、私は満足げに答え、先生は苦笑いになる。

ダルセンさんと先生は折れた側。私は主張を通した側。

このやり取りは、一年前に散々交わしたやり取りでもある。


私にとっては、手柄を譲るだとか横取りされるだとか、そういう問題ではないのだ。

もっと切実。私とリンの、この街での安全が掛かっている。

今のところ私には魔法士としての仕事があるので、稼げているし貯金もある。だから金銭面では困っていないのだが、子供の魔法士という立場上、安全面での問題がある。

問題があると言っても、ギルドの建物内であれば全然そんなことはないのだが・・・。


いや、でも考えてみてほしい。

私は健康な上にちゃんと好奇心旺盛な子供なのだ。外で動き回りたいし、冒険に興味をかれてしまうのは仕方ないだろう。

それでも魔法士であることは極力隠したい。

だから討伐成功したとしても、私が討伐したということは隠したいと要望した。

となれば、同行してくれる先生とダルセンさんが討伐したことにしてもらうのが一番確実であったわけだ。

私からしてみれば手柄を譲ったわけではない。むしろ危険をなすり付けたようなものなのだ。


報酬の話に立ち返るならば・・・。

私の火力が無ければ依頼達成は成り立たない。でも私の危険を引き受けてくれる人がいなければ、私の生活が成り立たない。

私と『翠青の風』の双方が欠くことができない、そういった特殊な条件下でのお仕事。

だからこそ、報酬は三人で三等分が相応ふさわしいのである。


そんな過去の報酬の話を思い返していれば、その流れで当時の冒険のことも思い浮かんでくるわけで・・・。

初めての冒険は楽しかったなぁ・・・と回想に入り掛けたが、そこでふとギルド長の生暖かい視線に気付く。


いけない、いけない。まだ打合せ中だった。

既に仕事の話自体はまとまったので、すっかり気が緩んじゃったよ。

この場がギルドの打合せでなければ、このまま先生達と思い出話に花を咲かせるのも悪くはないけど、そうではない。

ギルド長やラミアノさんをお待たせするわけにはいかないので一旦区切りを付けてもらおう。


私がギルド長に苦笑いを返せば、ギルド長はやれやれといった感じで場を締めて、打合せはお開きとなったのだった。


そして翌朝。

まずギルドで、先生、ダルセンさんのお二人と合流し、さらに街の門前で合同する2パーティーと合流した。

一同に介した冒険者同士が軽く挨拶を済ませたら、いよいよ出発だ。『翠青の風』が指揮する形で、総勢13名の冒険者が街の門を潜り抜ける。

私にとって一年振りとなる冒険の幕開けであった。


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