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77番目の使徒  作者: ふわむ
第三章
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助っ人エルナ2


ギルド長に呼び出され、ギルド本館の第三作業室までやってきたラミアノさんと私。

そこに待っていたのは、先生とダルセンさんだった。


あー、もしかして・・・。


場に居る面々を見て、私は何を言い渡されるか予測できてしまった。


「ラミアノ、エルナ。とりあえず座ってくれ」


ラミアノさんと私に席をすすめたギルド長は、着席した私の表情を見るなり、にやりと笑う。


「ま、大体想像付いてるよな?」

「ヒポノトン、ですか」

「そうだ」


間髪入れず答えた私に対して、満足そうに頷くギルド長。

ギルド長は、私が勤めているこのオルカーテ冒険者ギルドで一番偉い人。

ちょっとデリカシーに欠けるところがたまきずだけど、行動力があって、ラミアノさんと同じくらいお世話になっている人だ。


私の察しが良かったからか、横で聞いていた先生とダルセンさんも口の端を上げて嬉しそうにしている。

説明の手間が省けるのは、いつの時代も往々にして、お忙しい立場の人から喜ばれるものだ。


先生とダルセンさんは、『翠青すいせいの風』というパーティーを組んで活動している現役冒険者。

私が『先生』とお呼びしているのがランダルフ先生である。

アラフォーのおじさんだが、四等冒険者で魔法士という凄い方。

かつて7歳だった私に魔法を教えて下さった、正真正銘の『先生』なのだ。


相方であるダルセンさんは、20代半ばの六等冒険者。

冒険者と聞けば荒々しい人を想像するが、私の知る範囲においてダルセンさんはどちらかというと穏やかで、優しく接してくれるお兄さんだ。


私と何度か交流があるお二人だが、ちょうど去年の同じ時期、協力してとある討伐クエストに挑んだことがあったのだ。

そのクエストの討伐対象というのが、何を隠そうヒポノトンだった。


さて。

ここでヒポノトンの説明をしておこう。


ヒポノトンは、水場に生息する大型生物。

前から見ると、サイとカバを合わせたのような姿だ。

鼻の上にある角と、大きな口と、下顎から伸びた牙が特徴的で、顎は何でも噛み砕くほど強靭。

雑食で、近づく小動物などにバクッと噛み付いてしまう獰猛さがあり、人を襲うこともある。


サイとカバを合わせたのような、とは言ったが、実は哺乳類ほにゅうるいではなく、卵からかえ爬虫類はちゅうるい

見た目で爬虫類だと思わせるところが、まず体を覆う鱗。硬鱗こうりんと呼ばれるそれは恐ろしいまでに硬く、剣はおろか斧ですら弾かれて通らないのだ。まともに斬りつけると、まるで鉱石に打ちつけたかの様に、カチンという音が鳴り火花が散る程である。

それ以外にも、ワニのような手足と尻尾に爬虫類独特の特徴が現れている。ただし、手足は形が似ているだけで、私が知っているワニより格段に太いのであるのだが。

そして、それ以上に太く長い尻尾は、ヒポノトン最大の武器。

あまりにも強力で、ブンッと横振りされたら人間ではまず受けられない。

水場で出会ってしまったら、逃げる一択の相手だ。


あ、ちなみに、この世界にサイとかカバとかワニがいるかどうかは知らない。似たような生き物が異なる名前で呼ばれている可能性は大いにあるけどね。


話を戻して・・・。

ヒポノトンという生き物は、前方向に突進することはあるが左右の俊敏さには欠ける。距離を取ることができれば危険度が格段に下がるのだ。

だから何らかの手段で逃がさないようにして、尻尾の間合いに入らない距離から弓矢で攻撃したり、石などを投擲とうてきしたりしてダメージを蓄積させれば、時間は掛かるが倒せるのである。

要するに、人員をつぎ込み、物量でゴリ押せば何とかなる、と。

ただし先述の通り鱗がとにかく硬いので、通常の弓矢では倒すまでに何本必要になるかわからない。水場では放った矢の大半を回収できないこともあり、とにかく討伐コストが掛かることで知られる害獣だ。


「去年仕留めたのがとても状態が良かったからな。今回のはかなり大物らしく、ギルドとしても、是非お前さんにやってもらいたい」


楽しそうに言うギルド長。でも、その気持ちは少しわかる。

討伐コストが掛かると言ったが、相応に実入りが大きい。

肉、鱗皮うろこがわ、角、爪、牙。

とにかくどこを取っても金になる素材ばかりなのだ。

冒険者はもとより、ギルドと素材工房もいい稼ぎになる。


「去年も春先はるさき・・・ちょうど今と同じ時期でしたから、一年ぶりの街の外かぁ。いいですね!」


ギルド長につられるように、私も自然と声が弾む。というか、既に乗り気になってしまっている。

一年前。この場にいる先生、ダルセンさんと一緒に参加した討伐クエスト。

それは思い出すだけでテンションが上がるような、生まれて初めての冒険だった。

私はギルドの建物から出ることすらままならないのだから、冒険者として街の外に出た体験はさらに刺激的であったのだ。


「念のため確認なんですけど、今回も先生とダルセンさんのサポート付きなんですよね?」

「もちろんだ。そうでなければ、ギルドとしてお前さんを外には出せん」


うん、知ってた。

この部屋に先生とダルセンさんが居るのだから、まぁそうなのだろうとわかっていたけど、一応ね。


「ラミアノ。エルナの仕事は調整できそうか?」

「今の作業量なら不在でも問題ないだろうね。でも最大5日間にしとくれよ?」

「わかった。5日越えるようなら、俺の方で客の注文に待ったを掛ける」

「いいよ、それで」


私のギルドでの仕事に関して、ギルド長とラミアノさんの間で調整が付いた。

これであとは私の返事待ちだ。


「それじゃあ、依頼は引き受けます。先生、出発はいつですか?」

「明日の朝だ。朝二つの鐘にギルドの一階で待っていてくれよ」

「はい。わかりました。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ、な」「ありがとう、エルナちゃん」


快諾する私。

この討伐依頼は、私にとって楽しいイベントという位置付けなのである。

大筋で合意が取れたので、先生とダルセンさんも笑顔で謝意を示した。


打合せはその後ももうしばらく続き、クエストの詳細と攻略方針が先生から説明される。私は討伐依頼書に目を通しつつ、その説明を聞いていた。


それによると、この依頼は3パーティー合同で受注しているそうだ。

戦闘は、エルナを加えた『翠青の風』が担当。他の2パーティーは斥候、解体、運搬のサポートをしてくれる。


人数は私を含めて総勢13人とのこと。

たしか去年は20人くらいの冒険者さんと一緒だったけど、今年は減らしたのね。

正直これは助かる。去年、周りに人が多くて、魔法使いづらかったもんなぁ。


場所はオルカーテの西にある湿地帯。この街から街道沿いに歩いて鐘一つ分。大体3時間程度といったところ。

目標はヒポノトン。個体数は1。サイズは特大。


ふむふむ。

去年行ったところと同じだね。

まぁ、広い湿地帯のどこにいるかまでは同じにならないだろうけど。


後は・・・。

特記事項として、鱗皮うろこがわきずが少ない死体なら報酬上乗せ、か。


「特記事項にもあるように、なるべく傷が少ない状態で仕留めたい。だが、それより優先すべきことがある」

「・・・?」


先生は、そこで言葉を区切って、じっと私を見る。

話の最中にグッと溜めを入れるのは先生の癖のようなもので、こちら側からすると「考えろ」と言われている気にさせられるのだが、私はこの感じが嫌ではない。


「最優先は身の安全だ。いいか?これを間違うなよ?」

「・・・っ!はい!」


要するに、リスクを取ってまでやることではない、ということだ。

ちゃんと安全を確保した上で、可能ならやる、くらいでいいのだ。


その場にいたダルセンさん、一緒に聞いていたギルド長、ラミアノさんからも「ほぅ」とか「へぇ」とか感心した声が漏れる。

先生は四等冒険者。それが意味するところは、冒険者として多くの功績を積んできたということ。と同時に、そこに至るまでずっと命を落とさなかったということでもある。


「最後になるが、俺達とエルナの契約は前回と同じ、でいいな?」

「はい。取り分は、パーティーの報酬を三等分して1を私、残り2を『翠青の風』。私にとって何より重要なのは、私が魔法士であることを秘匿ひとくするため、先生とダルセンさんによって討伐した、という話にしてもらうこと。これについては本当に申し訳ないんですが、どうかよろしくお願いします」

「ああ。エルナを魔法士として表に出すにはまだ早い。・・・という理由に納得したからな」


先生は笑いながらそう言うと、私とダルセンさんも釣られて頬が緩む。

ヒポノトン討伐報酬の取り分。前回は、お互いの意見がまとまるまで結構時間を費やした。私達はその時のことを思い出したのだ。


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