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77番目の使徒  作者: ふわむ
第三章
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プロローグ

第三章です。投稿はゆっくりめになります。


パラパラという書類のめくられる音と、カリカリという羽ペンの走る音が、朝の執務室に響く。書類仕事という題名の音楽が、執務室の主である一人の大柄な男によってかなでられていた。

男は巨漢と呼ぶに相応ふさわしい体躯たいくの持ち主で、どっしりと執務椅子に座り、しかし仕事はきめこまやかにこなしていく。


男の名はダレンティス。

よわい四十を過ぎて、今もなお肉体の鍛錬を欠かすことがない。

そんな彼の肩書きは『オルカーテ冒険者ギルドのギルド長』。

オルカーテの街はもちろん、その周辺の土地や村で起きた荒事の解決を生業とする数多くの冒険者達。そのトップである。


ギルドの執務室で書類仕事をしていた彼は、窓から差し込む柔らかな陽の光に気付き、ふと仕事の手を止めた。


「だんだん春らしくなってきたな・・・」


執務椅子から立ち上がり、街の景色を窓から眺めながら、ダレンティスは呟く。

寒い冬から暖かい春へと、季節が移りゆくこの時期。

新たな草木が芽吹き、冬眠していた動物は起きて動き始める。

そんな季節の影響を受けて、冒険者の仕事もまた、様々な変化が出てくるものだ。


まぁ、安定してたら冒険じゃねぇよな。


口には出さなかった言葉を反芻はんすうして、彼は「ふっ」と笑ってしまう。

自分が安定を求めて冒険者を引退したことを思い出したからだ。


コンコン。


ノスタルジックな気分に没入しかけたが、執務室の扉がノックされて、彼の心は現在に引き戻される。

誰か来たようだ。


「入れ」

「失礼します」


入ってきたのは、一人の若い女性ギルド職員。

ここで働き始めて二年目で、器量が良く、愛想も良い。そんな彼女は、三ヶ月前から受付嬢を担当している。大きな失敗は無く、その理由は先輩や上司に臆することなく確認作業を怠らないからだ、とダレンティスは報告を受けていた。


「ギルド長。今、お時間よろしいでしょうか?」

「何かあったか?」

「二日前に持ち込まれた討伐依頼がございまして・・・これなんですけれど」


若い女性ギルド職員は話しながら、持っていた依頼票を差し出してくる。

ダレンティスが差し出された依頼票を受け取り、内容を確認していくと、討伐対象の項目に目を引かれた。


「む・・・。なるほど、これか」

「それで、ギルドとして討伐チームを整えようと思っていたのですが、昨日ギルドを訪れていた『翠青すいせいの風』に軽く話を振ったら、『こっちで整えてやろうか』と言われたんですよ」

「ふむ?」


『翠青の風』というのは、この街で活動する二人組の冒険者パーティーだ。活動歴が長い大ベテランのリーダーと、それを支える中堅冒険者のペア。安定感が持ち味のパーティーであった。

この討伐対象と『翠青の風』の組み合わせ、か。

もしや・・・。


「で、その『翠青すいせいの風』なんですが、今しがたやって来て、『目途が付いたからギルド長と面会を頼む』と言われまして・・・」


説明する女性ギルド職員の声には、少し不安げな感情が含まれていた。

話を振ったのが昨日。そこからわずか1日で目途を付けてきたというのは、にわかに信じがたかったのだろう。

実際、ギルドが主導して討伐チームを作るとしたら、最低3日は欲しいところだ。


だがダレンティスには、そこまでの説明で合点がいった。

この案件は『翠青の風』が絡んだためにイレギュラーなものとなったのだ。どんな風にイレギュラーなのかというと、他の案件より優先度が上がり、ダレンティスが直々に調整する必要が生じてくる。

女性ギルド職員は経験不足ゆえに、ギルド長であるダレンティスに直接確認を取ろうとしてしまったのだが、今回に限ればむしろ好都合だった。

この案件は、イレギュラーとなった時点でギルド内でも情報を絞って対応する必要があるからだ。


「ふっ、そういうことか。わかったわかった。よし、今から会うから空いている部屋を一つ押さえてくれ」


女性ギルド職員の仕事ぶりには何ら問題無いことをアピールする意味もあったのだろう。

ダレンティスは笑いながら、彼女に指示を出した。


「それと・・・」


ジグソーパズルがこの世界に存在するかは未知であるが、あえて例えに出すとするなら、この時点ではまだ最後のピースが欠けていた。

だからダレンティスはそのピースを得るため、言葉を付け加えた。


「リンを呼んできてくれ」


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