表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77番目の使徒  作者: ふわむ
第二章
111/123

里帰り19


私が故郷の村に到着してから11日目。

仕事で国境砦に行っていた先生とダルセンさんが、その短い任期を終えて予定通り村に戻ってきた。

9日ぶりの再会である。


「・・・というわけで、私の他に、妹と幼馴染の男の子も一緒に連れて行ってほしいんです」


ここは斎場の一室。

私、先生、ダルセンさんの3人がテーブル席に着いてお話し中だ。

再会して早々、斎場の出入口で立ち話しようとしていて、その様子を見かねたワッツさんに中に入るよう勧められたのだ。

席に着いてからは、まず私の身の振り方が決まったことを報告し、次に近況報告、今はオルカーテまでの移動についての話をしている。


「なるほどな。三人で丁稚奉公でっちぼうこうか・・・。その子らが道中、ちゃんと言う事聞けるならいいぜ」

「はい。それは私が責任持ちますので、よろしくお願いします」


リンとダフをオルカーテに連れて行くこと。

これは当初予定からの変更点だ。

先生とダルセンさんにその点を伝えると、すんなり了承してもらえた。


ただし、すべてを赤裸々に伝えたわけではない。三人でオルカーテに転入する予定であること、そしてダフを身請けしたことは伏せている。

三人でオルカーテで働く、という言い回しで報告しているので、先生達からすれば『この村の村人として出稼ぎに行く』とか『オルカーテに居る親戚などを頼る』のだとか思っているはずだ。


いずれ正直にお話したいとは思っているが、私がそういった環境を整えたということを今は秘密にした方がいいと考えた。

『それを可能にするだけの資金が私にある』という情報を、悪い人達に極力与えないようにするため。つまりは自衛のためだ。


「後で一緒に行く二人を紹介しますね。もちろん護衛の依頼料は二人分追加しますので、どうぞよろしくお願いします」

「・・・そうだな。それはしっかり貰っておこう」


そう言った後、先生は私をじーっと見てきた。


何か見定められている?

そう思った私は、黙って先生の言葉を待つ。

時間にして数秒が経っただろうか。先生は、ふっと口元を緩めた。


「お前、もう大丈夫そうだな」

「はい。両親との別れもそうですが、私が人をあやめたこと。その行いと向き合い、受け入れる覚悟ができました」


先生の『大丈夫そう』が何を指しているか。

正しく理解した私は、先生の眼を見て、きっぱりと言い切る。

先生は表情を柔らかくし、横で聞いていたダルセンさんも「ほう・・・」と感心したような声を漏らした。


「ふっ。本当に大したヤツだよ、お前は」

「先生は、私の負担を軽くしようとしてくれたんですよね?」

「俺達が殺したことにした方がいいと思ったんだがな。んじゃあ、今渡しておくか」


先生は懐から布袋を取り出し、テーブルの上に置いた。

チャリッという金属のこすれる音がして、中身は少量の硬貨だとわかる。


「領軍から賊討伐の協力金が出ててな。銀貨5枚が入っている。それはお前の取り分だ」


村に侵入した賊2人。それを討伐したのは先生とダルセンさん。

領軍へは、そのように報告していた。

結果、先生とダルセンさんは、国境砦滞在中に協力金として銀貨10枚を受け取ったそうだ。

しかしこの報告は、先生の配慮によって事実を胡麻化ごまかしており、本当は内1人を討伐したのは私である。

だから受け取った協力金の半分を私に渡してきたのだ。


当初、先生は、私がこの村に残るならこの村の大人に、オルカーテに戻るならギルドに渡すつもりだったそうだ。

けれども私の覚悟を知って、急遽この場で手渡すことにしたという。

つまり先生は、『もう私に配慮する必要がなくなった』と判断したのだ。


対する私だが、先生の申し出と金額に対して「ああ、そうか」とすぐ合点がいった。

なぜか。

その理由については、そのまま先生に説明することになる。


「そうか。この村にも・・・」

「はい。昨日、村長の家の人から分配金を渡されたんです」


村長の家の人、というのはサーチェおばさんのことを指している。

実は先生が村に到着する数日前、領軍からの協力金が村に支払われ、私は昨日サーチェおばさんから協力金の一部を受け取っていたのだ。


その内訳もサーチェおばさんから教えてもらっている。

領軍から支払われた金額は賊1人当たり銀貨5枚。

ドナン父さんとダフの父親であるナスタさんが、山中で討伐したであろう5人分ということで合計銀貨25枚だった。


この銀貨25枚を支払い対象者で分配することになったのだが・・・。

支払い対象者は、ドナン父さん、ナスタさん、そして村長のマーカスさん。

けれど、父さん、ナスタさんは命を落とし、マーカスさんも重傷を負って療養中。なので、分配に関してはサーチェおばさんに一任された。


結果、遺族である私に銀貨10枚、ダフに銀貨10枚、村長家に銀貨5枚、ということで決着し、ちょうど昨日サーチェおばさんから手渡されたのである。

無論そんな大金を普段持ち歩けないので、村に居る間は斎場でお世話になっているワッツさんに預かってもらっている。


ちなみに。

ダフは銀貨10枚を受け取った直後、それを私に渡すべきか聞いてきたけど、もちろん断った。

確かにダフを身請けするために、銀貨50枚を村に支払った。でも私はダフの債権者になったつもりはない。

ダフが自立するまでの保護者となったのだ。

ならばなおのこと、そのお金はダフが自立するための資金に当ててほしい。

だから私は『ダフが稼いだお金なら受け取るよ』って、少しウィットを効かせて返答しておいた。

ダフも初めから私が受け取らないと思っていたのだろう。『そうだよな』って笑ってた。


「それでは、これはありがたく頂いておきます」


机に置かれた銀貨5枚入りの布袋。

中身を確認した私がそれを懐に納めると、先生は一つ頷いて話を続ける。


「出発は明日で大丈夫なのか?」

「はい。家から持ち出す物はほとんどないので」


私は父さんが使っていた狩猟用のナイフ。

リンは母さんが使っていた料理用のナイフ。

あとは旅の道中、食事で使用する木の器とさじだけを持っていくことにした。


ちなみにダフは父親が使っていた門番用の携帯剣を持っていきたかったらしいが、10歳の子供にとってはこれが結構重たかった。なので、私達と同じようにナイフを持っていくことにしたようだ。


あ、そうだ。

ちょうど両親の形見を思い浮かべる流れになったので、ここで言っておこう。


「先生、一つお願いが・・・」

「ん?何だ?」

「明日の出発のとき、墓参りを済ませておきたいんです」

「いいぜ。村出てすぐの共同墓地だよな」


先生は即答した。


「はい。場所、ご存じだったんですね」

「まぁな」


私、リン、ダフの三人はオルカーテに居を移す予定である。

第七ホラス村は気楽に訪れることのできる距離ではないし、そうなると次はいつここへ来られるかわからない。

だからこの地を離れる前に、もう一度両親の墓標の前で平安を祈っておきたい。


先生、ダルセンさんとの打合せは、この後もしばらく続いた。

決まったことを整理すると・・・


明日の朝、先生とダルセンさんが斎場に来たら出発すること。

村を出たら墓参りのため共同墓地に寄ること。

第四ホラス村でオルカーテ行きの乗合馬車を確保すること。それまでは、第四ホラス村に滞在すること。


・・・こんな感じだろうか。


スケジュールが大筋で固まったところで、リンとダフを部屋に呼んでお二人に紹介。顔合わせはつつがなく完了した。


こうして用件を一通りこなして解散となり・・・。

先生とダルセンさんは今日泊まる宿『木の葉亭』へ去って行き、私は村長さんの家におもむいてサーチェおばさんに予定通り旅立つことを報告した。


この村でやるべきことを済ませた私達は、いよいよ明日の出発を迎えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ