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私が聖女だったあの頃  作者: 田宮らいき
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5. 事務所選び

弓弦のプロデュースのお陰で、私はそこそこのフォロワーを抱えた「高貴すぎる幼女」として名を馳せた。そこそこ止まりにしたのは弓弦の作戦で「あんまり有名になりすぎると普通の生活も送りづらくなるし、学校でやっかみを受ける可能性も高い」ためとのこと。そんなコントロールまで出来るなんて、恐るべし。


「推しに会いたい」なんて盛り上がっていたママも、「義務教育はちゃんと受けて欲しいわねぇ」って言うから、高校入学までは芸能界はお預け。勉学に励む毎日を、、、送るわけもなく、毎日弓弦と企画を練っては撮影をし、編集して反応を楽しむという充実した日々を送った。あ、でも「投資は必要」と言う弓弦のアドバイスに従い、来るべき日のためにボイトレとダンスには通ったよ。その費用は動画配信の収入で自分で払いました。偉い!


そして迎えた高校入学直前の春休み。前世のような金髪に金色の目の絶世の美女とまではいかないが、可愛らしさと気品を兼ね備えた少女へと成長した。武器はツヤツヤの黒髪ロングと緑寄りの茶色の目と陶器肌!食事に気を使い、ニキビが出来ればすぐ皮膚科。ケアの甲斐あり美しく成長した。


「あー、ようやく事務所に所属できる!」

「本当はフリーでやってほしいけど、役者となるとそうもいかないもんね」


弓弦はずっと不服そうにしているけど、何回かバラエティーに出たいということならまだしも、仕事として演技がしたいならば事務所は外せないと渋々納得し、弓弦自身も検討をしたことがあるという3社を紹介してもらった。


「一押しはここかな。こじんまりした事務所だけど、社長の顔が広い。同年代の推されている子もいないし。真白の知名度からすると結構力入れてもらえるんじゃないかな」


そう紹介された芸能事務所、ゴールデンチャイルドに私は面接に行くことになった。未成年だからママも一緒にね。そして何故か弓弦も。保護者枠なの?同い年だよね、君?


「あらー、金剛寺くん。久しぶりねー!ようやくウチに入る気になってくれた?」


なんだか喋り方に特徴がある社長は一世を風靡した元舞台女優の男役らしい。大きな目とスッと伸びた鼻は表舞台を退いた今でもドキッとする顔立ちだ。ちなみに弓弦も負けず劣らずアイドル顔なんだけどね。黒髪短髪の好青年!少女漫画からそのまま出てきたような容姿に、最近は厄介なファンも増えているらしい。


「お久しぶりです、金子社長。いやいや、今日は真白の面接って知ってますよね」

「相変わらず冷たいんだからー。まぁでも良い子紹介してくれたから許すぅ。こーんにちは、真白ちゃん」

「はじめまして、如月真白です。よろしくお願いいたします」


私は深々とお辞儀をした。金子社長は商品を値定めするような目で、遠慮なく真白の頭から爪先まで往復するように見て、「確かにこの気品は一つの才能ね」とぽつりと呟いた。


「そりゃ僕が手塩にかけて育てた自信作ですからね」


社長の独り言を拾い、弓弦が自慢げに返す。いやいや、私あなたに育てられた覚えないけど!そんなことないか、弓弦のプロデュースあってこその「高貴すぎる幼女」だもんね。


「久々にやる気出てきたわー!」


社長が急に咆哮した。え、なんか怖いんですけど。この人ちょっとやばい人なのかな。ていうか面接なのに何も聞かれてないけど、私受かるの?落ちるの?どっちなの?心の中では色々叫んでいるけど、顔は淑女の微笑みをキープ。今世もほぼこの技で乗り切ってます、私。そんな向かいで社長はすごい勢いで手帳をめくっている。どんな情報が載っているのやら。


「よし、これ受けよう。清涼飲料水のCM。オーディション来週だから」


社長が提案してきたのは、これまで名だたる女優を輩出してきた、まさに登竜門とも言うべき甘酸っぱいドリンクのCM。


「とりあえずまずは宣材写真撮っちゃおうか」


立ち上がりかけた社長にさすがのママも口を開いた。


「あの、真白はこちらに所属させていただけるんでしょうか・・・?」


至極真っ当な質問をしたはずのママに「何言ってるの?」と言わんばかりの顔の社長が再び腰をおろした。


「そうよね、私ったらごめんなさい。あんまり面接なんて普段しないものだから、手続き系疎くて。東雲くん、契約書持ってきてー」


パーテーションの向こうに叫ぶと「承知いたしました」と丁寧な返答があった。1分もしないうちに書類を持った男性が姿を現した。


「社長、契約内容については私の方から説明した方がスムーズかと思います。当日の撮影となると、カメラマンの高橋さんについては私よりも社長からご連絡いただいた方がよろしいかと」

「そうね、じゃあ私電話してくるから一旦失礼するわ。詳しいことは東雲から聞いてね。よいしょっと」


そう言って足早に社長は去っていった。東雲さんは社長の座っていた席に腰かけ、ママに向かって書類を並べ始めた。


「勢いに驚かれたでしょう。ああ見えて人を見る目は確かなんですよ。あの舞い上がり様は、それだけ真白さんには光るものがあると感じたんでしょうね。文字が細かくて恐縮ですが、こちらをお読みいただき、条件等ご不安があれば、お気軽にご質問ください」


あの社長の部下とは思えないくらい真面目な人だなと逆に驚いて見つめてしまう。そんな真白の視線に気づいてふっと笑った優しい眼差しに、前世の仲間を思い出してしまった。

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