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私が聖女だったあの頃  作者: 田宮らいき
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3. 【過去話】成人式当日

身体が燃えるように熱い。朦朧とする意識の中、水が欲しくて目が覚める。目があった母さんはベッドの横に座っていて、そっと水を飲ませてくれる。心配そうな眼差しの中に落胆の色を秘めていた。


「母さん、ごめんなさい」


ようやく水で潤った喉から声を絞り出す。成人式に出席できなかった後悔は心に楔を打ったように、一生残ってしまう。せっかく家族総出で準備したのに台無しになってしまった。


成人式は年に一度しか行われない。12歳を迎えた子供は一人残らず、街にある神殿で聖女の祝福を受けなければいけない。父さんが言うには、そこで色々検査のようなことをするみたいで、王都の学校に通える人が選出されるって言っていた。とはいっても小さい村だし5年に一人出るか出ないかっていうくらいの珍しさだそうだけど。


「成人式欠席する人って初めてだよね…。」


熱い息と共にため息も出ていく。当たり前に成人すること前提で今後の働き口も見つけていて、私は住み込みで街のお屋敷で女中をする予定だった。

でも成人式に出席していないと、成人だと認められない。成人でなければ外で働くことができないから来年まで待つしかない。仕事は母さんを通して村の人が紹介してくれてたし、顔に泥塗ってしまった。お詫びやこの先のことを考えたいのに熱で朦朧としていて考えられない。


「こんなことならしばらく手伝いの量を減らすべきだったわね。悔いても仕方ないわ。早く寝なさい」


母さんが優しく髪を梳いてくれる。本当は編み込んで高い位置で髪を結ぶはずだった。


「紹介してくれた人には話しておくわ。しばらく内職することになるけど…。アテナなら大丈夫。ゆっくりお休み」


母さんの優しい眼差しを感じながら深い眠りに落ちた。


高熱は3日ほど続いたが、1週間もすれば元の手伝いに戻れるようになった。働くまでの期間が延びた分、もっと頑張って家族を支えないとと、気合を入れた。


(雲の流れが速くなってきたから雨が降るかも…。洗濯物取り込まないと)


縫い途中の繕い物を机に置き、立ち上がったところで戸を叩く音がした。こんな時間に人が来るのは珍しい。返事をして戸を開けると、見るからに上等な白い服を着た男二人が立っていた。白い服は神殿の関係者ということしか知らない。そもそも神殿の人はこんなに綺麗な服を着ていたかもわからない。ぱっと目を惹く豪華な金糸の刺繍がずいぶんと見事で、きっと身分がすごく上の人なのかもしれないと思った。


「…どちら様でしょうか。」

「先日成人式に出席しなかったアテナとは其方のことか」


返事の代わりに返ってきた質問に息を呑む。病気とはいえ成人式を欠席したことで罰せられるかもしれない、そんな恐怖が身を包んだ。


村には似つかわしくない清潔な白い衣装が目立つからだろう、野次馬も集まってきている。家の隣の養鶏場から両親が急いで向かってきて、私を守るように両側に立つ。


「あの、娘に何のご用でしょうか。」

「ここだと人目に付きますので…どうか家の中でお話を…。」

「いや、すぐ終わる。時間がないため悪いがここで話させてもらう。」


身分が上の人に断られては何も言えない。このままでは村のいい噂の的になってしまうけど、緊張と恐怖でガチガチになっている私は何も話すことができない。


「昨日聖女、ザハルーラ・オパリオス様がご逝去あらされた。本来は次期聖女は成人式にて選定されるものだが、成人式は先般終えたばかり。聖女の空位を避けるべく、急ぎここで儀式を執り行うこととした。成人の儀を受ける資格がありながらも、その権利を行使しておらぬのは王国内で其方ただ一人だ。」


言葉が耳をすり抜ける。意味が分からない。聖女と私に何の関係があるのか。成人式を欠席しただけでただの村娘を聖女にさせるという目の前の男の言葉が何も信じられなかった。


「成人式はただ、熱が出て休んでいただけです。…聖女になれってどういうことですか。」

「そうです。うちの娘は検査をしても王都の学校に行けるだけの力はないはずです。」

「ただの養鶏場の娘ですよ。成人してもお屋敷で下女をするくらいです。そんな、聖女様だなんて…」


両親も警戒の糸を緩めない。しかし目の前の男はそんなことを気にもせず、袖から一束の金髪を取り出し、朗々と続けた。


「我、ジョルジュ・アメーシストは、故聖女ザハルーラ・オパリオス御名に代わり、成人の儀を執り行う。本儀式により、新聖女アテナにオパリオスの名を授ける。スフェラ王国神殿の神官一同は聖女アテナ・オパリオスに忠誠を持って仕えることを誓う。天上におわす我らが神よ、御身の力を以てこの娘に聖なる祝福を与えたまえ。ナロー。」


そう宣言すると、一束の髪は眩く光り、暖かな光が私を包み込む。暖かいベッドの中にいるような、それでいて自分のものではないような力が入り込んできている。


どれだけの時間がたっただろうか。身体をまとう暖かさが消えて目を開ける。目の前にいる両親が驚愕の顔をしてる。


「アテナ!髪が…。」

「うちの娘に何をしたんですか!成人式の儀式とは全く違った!」

「…神から聖女の祝福を賜るという点では同じだ。」


両親が男に対して詰め寄る。私の髪の毛がどうにかなったらしい。…ふと、自分の髪を見てみると、元々栗色だった髪の色が輝く白金髪になっていた。目の前がチカチカする。意識がズンと沈んでいくような感覚になり、私はそのまま意識を手放した。

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