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私が聖女だったあの頃  作者: 田宮らいき
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2. 【過去話】アテナ、12歳

朝日が昇って目が覚める。手早くベッドから下りて、汲んでいた水差しから桶に少し注いで顔を洗って、手早く寝巻から着替える。といっても、虫食いやつぎはぎだらけのぼろ服から穴がないだけで薄汚れているワンピースにエプロンだけど。


近くに寝ている父さんと弟、妹に「ほら起きて!朝だよ」と声をかけて階段を小気味よく降りる。少々建付けがよくないようで一段降りるたびにぎい、きい、と音がする。そろそろ父さんに玄関の蝶番のがたつき直してもらわないとな。と頭の中のやることリストに加えていると、台所にはすでに母さんが朝食の準備をしていた。


「おはよう母さん。」

「おはようアテナ。井戸よろしくね。」

「うん!ついでにヘルメスさんに会えたらこの間の話進めておいてもらうね!」

「よろしくねー」


コーケコッコー!コッコッコッコ…コケーッ!!


「ほらー!鶏も起きろって言ってるよー!起きて!」


2階に向けてまだ起きる感じがない3人に大声で声をかけておく。そうしないといつまでたっても寝るんだから。家の裏には鶏小屋があって、我が家は鶏の卵を売ったり交換したりして生計を建ててる。鶏の鳴き声もうるさいからちょっと外れた場所に家があるのもあって、天秤桶を持って家を急いで出る。2の鐘が鳴る前に家を出なくちゃ、井戸が混雑して時間がかかっちゃう。


村の端にある洗濯場が併設されている大きな井戸に私が着いたころには、既に2人ほどの女性が水を汲む順番に並んでいた。


(よかった、まだ二人だ…)


おはよう、と挨拶をしながら足早に列に並んで一息ついたとき、カラーン、カラーンと鐘がなり、ぞろぞろと周りの家から人が出てきてくる。大体の人は井戸に向かってきて列を作り出す。方々からおはよう、おはようと挨拶が聞こえてくる。


私は湧き上がってくるあくびを噛み殺していたら、前のスペースが空いた。少し隙間が空いているぼろっちい釣瓶桶を手に取って、持ってきた天秤桶に水を汲んでいく。


どんどん桶に水を汲みながら、半年先に控えている成人式のための衣装の案を考えてみる。


(どんな服にしよっかなー。白一色じゃないとだめで、裾も袖も長くなくちゃいけないんだよね?あとは刺繍かぁ…。去年ケープをつけてるが人いて、可愛かったから真似してみたいんだよね。)


私が住むのは、スフェラ王国のバートーン領にあるストナ村。国の南に位置する地方の更に南にある小さな村で、自然豊かな山と温暖な気候が特徴。ストナ村の近くにある山からは魔力の豊富な魔石が取れるヨキン鉱山があって、大体の大人はそこで採掘している。


半年後にはそんなヨキンの神殿で近くの村々から12歳の子供が集まって成人式が行われるから、晴れ舞台のために服を誂えないといけない。

お金持ちの家だったら全部任せるだけの余裕があるんだろうけど、うちは普通よりもちょっと低いレベルの家だし、布と刺繍糸を買ったらもう家計はいっぱいいっぱい。あとは自分たちの手でどうにかしないと…。


(まだ服作りも始まったばっかで先が長いし…。家のこと少しでも手伝わないと。)


12年生きてきた中で一番の晴れ舞台が半年後に控えている高揚感と、目の前にある水が汲まれた重い天秤桶を運んだあとの家事諸々への使命感とが、ごちゃまぜになりながら天秤桶を肩に乗せて、私は家まで進みだした。

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