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私が聖女だったあの頃  作者: 田宮らいき
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1. 高貴すぎる幼女に転生

夢の国のプリンセスの前で完璧なカーテシーを決めた私の耳には、大量のスマホのシャッター音がしていることなんて聞こえてなかった。


(えーっと、なんでこんなことになってるんだっけ?)


下げた目線の先にはドレス。ただ、生地はあまり上等なものではない。それものそのはず、7歳の私は貴族ではない、ただの一般人だ。それでもこんなドレスを着ているのは今日が私の誕生日だから。夢の国ではお金を払えば頭から爪先まで、プリンセス風に仕上げてくれる。人生初の出立ちのはずなのに妙にしっくりくるのは、先ほど蘇ってきた記憶のせいだ。15年分の記憶の波が一気に押し寄せてきて混乱中の頭の中を整理していると、目の前のプリンセスは微笑みながら私の横に移動し、肩に手を置いた。


「ちょっとー。写真撮るわよ。こっち向いて。」


「ママ」がこちらに向かって叫んでいる。そう、彼女が今世の母だ。如月真白、7歳。それが今の私。じゃあ15歳の私、アテナ・オパリオスはどこに行ってしまったんだろう。襲いくる疑問の数々と混乱を押さえ、スマホに向かって微笑む。12歳で聖女として覚醒した後何度も練習した、優雅で見た者の心を惹きつけて止まない笑顔を今世初めて作る。表情筋は慣れないながらも従ってくれたので、心の中でホッと息を吐いた。ママ以外のスマホのシャッター音もするが気にしない。だって見られることには慣れているもの。隣のプリンセスの手が離れたのでハッと我に返る。目礼をしてママのもとに戻った。


「ちょっとー、いつの間にあんなこと覚えたの?表情もいつもと違うし。我が娘ながらドキっとしちゃったわよ!」

「プリンセスの映画を見てこっそり練習したの。」

「え?自主練?自主練であんなことできるの?私の娘、天才!」


はい、嘘です。3年みっちり受けた「淑女になるためのレッスン」の賜物です。本当に辛かった。庶民として12年生きていたのにある日いきなり聖女認定。そこからあれよあれよと貴族級の扱いとなり、その扱いに見合う所作を求められた。家庭教師のサマラス夫人は本当に厳しくて、「血の滲むような」ではなく実際血を滲ませながらダンスや刺繍の手解きを受けた。おかげで15歳になる頃には同年代の令嬢と比べても見劣りしないレベルまで到達できたと思う。


(サマラス夫人元気かな)


サマラス夫人の次に浮かんできたのは7人の騎士。それぞれの胸元には守護石が光り、敵に向かって剣を振り上げ、魔法を放っている。一緒にいればどんなことだって乗り越えられると確信できる、頼もしい存在。今はどうしているんだろう。


「疲れた?今日はもう帰ろうか?」


ママが不安そうな顔で私の顔を覗き込む。確かにこの蘇った記憶についてじっくり向き合いたいけれど、「7歳の私」はこの日をずっと楽しみにしていたのだ。帰るわけにはいかない。


「ううん、次はジェットコースターがいい!」


そう叫んでママの腕を引っ張った。せっかくの夢の国なんだもの。閉園まで楽しまなくちゃ!過去を振り返るのは明日でもいいよね?


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