#27 守れるのか貞操
女神ナトゥーラに今現在貼られている■は、両目を隠す細長いのが一枚、首にチョーカーのように貼られているのが一枚、あとは、両乳首とへそ、それから股間に一枚ずつ。もちろん■以外は一切身につけていない。
俺が集中したのは、へそ。
へそと言えばへその緒。母子を繋ぐ大事なへその緒を象徴する場所としてへそほど「つながり」の印象が強い場所はない。
最初の一枚のように、何重にもなっているかもしれないと■を剥がすために集中した――驚くほどあっさりと、■は剥がれる。ゆで卵の殻が半分以上ごっそり剥けてしまったときのような驚きの剥け感。
劣化したガムテープのようだったあの一枚目は何だったのか。
(感謝する)
それで、そのつながりを辿るとかいう力を、俺は手に入れられたのか?
(魔力身分証を経由して封印に触れられるようになったはずだ)
それなら、遠くはなれていてもマリーをある程度は守ることができるはず?
(魔王の影を、もっと探すのだ……魔王の影を守る力をも授けよう……頼んだぞ)
そこ、もっと詳しくと心に強く思ったときにはもう霧は晴れ、綺麗な形のへそを解放された原初の女神ナトゥーラの姿はどこにも見えなくなっていた。
「ノリヲさん!」
リビトの顔が近くてびっくりする。
「あ、うん。大丈夫」
その後ろでモーパッが、まるで巨大パラソルのように翼を畳んだプテラノドンを一匹担いで立っている。
「倒れているノリヲのすぐ近くに降りてきたから捕まえたんだ」
そのプテラノドンは、さっき俺が「握力」に■を貼ったやつだった。
■を貼ったから襲ってきたのか? いやいやそんな検証は後回しだ。
自分の魔力身分証からパーティーメンバーのマリーに集中する――と、おぼろげながらマリーの姿が脳裏に浮かぶ。これが新しい力か!
なんて喜んでいる場合じゃない。マリーの鎧が次々と外れていく――違う。何者かが脱がしている?
マリー以外の姿は見えなくて、マリーから外された装備も見えなくなる。現在既に兜も上半身も外されていて、次は籠手か脛当てかと思いきやシャツのボタンが外されてゆく。これは一刻の猶予もない。
状態異常にかかっているわけじゃないが、動けないでいるようだ。
取り急ぎはあれだ。エマとのベッド・バトルのときに使った作戦。マリーの「エロさ」に■を貼る……だけじゃ心配だな。「エロさ」を封印したときはまるであどけない幼子のように感じた。だが、地球には幼い子どもに非道を行う鬼畜のような連中も居た。マリーを襲っているのが誰かは知らないが、できる防御策は講じておいた方がいいだろう。
マリーの「美貌」に■を貼り、ふと思いついたのが「貞操帯」。「貞操」を封印するのはダメな気がするが、そもそも物理的な穴そのものの封印って可能なのだろうか。ナトゥーラの股間にも■が貼ってあったよな。あんな感じで……何を……ナニを封じられれば。
案ずるより産むが易しだ。マリーの「股間」に■を貼ってみる……これはダメか。
他にもちょっと口には出しにくい所を幾つか試してみたが、結果的に物理的な部位そのものってのはダメっぽい。
「可愛らしさ」「魅力」「フェロモン」「柔らかさ」「触り心地の良さ」――あと何がある?
「清楚さ」「麗しさ」――嗜虐心を刺激しない何かも欲しいが、これはマリーじゃなく相手に貼るべき■だからダメか。「媚」「萌え」――他にはないか?
「ノリヲさん!」
リビトの声に振り向くと、俺の肩に手をかけようとしている。
「僕……すみません。おもらしのまま、失礼します!」
リビトが俺の背中におぶさってきた。そうだ。今は一刻も早くチョウヒさんたちと合流しなきゃだ。
マリーの方はあれで少しでも貞操の足しになればいいが……ちょっと前、俺は■について、「ある」ものを「ない」ことにするだけで、もともと「ない」ものを「ある」ものに変えることはできないとネガティブにとらえていた。生産性のない能力だと。
今は思考一つでいろんな可能性が見え始めている。もっと語彙力を鍛えていけば、自分の無力感に打ちひしがれることも減らしていける……今はそう信じて。
「モーパッ、待たせてすまない」
「ノリヲのことを待つのは苦じゃないさ」
おどけるモーパッの抱えるプテラノドンとも目が合う。不思議と優しい目をしている気がする――その目が急に遠ざかる。モーパッはもう走り出している。
リビトに「揺れるぞ」と伝えると、俺も必死に走り出した。
十分も経たないうちにニッさんの巨体が視界に入り、ようやくモーパッが止まる。
俺も立ち止まり、リビトを降ろす。
それから恐る恐る自分の「疲労」と「脇腹の痛み」に貼った■を剥がすと、途端に膝が死んで地面に尻もちをつく。限界を超えて走っていたのだ。よく見れば肉体値も2点ほど減っている。それならばと<属性回復>を異常回復ではなく肉体回復のモードで自分にかけてみる。
深い睡眠から覚めた朝のようにちょっとだるさは感じるものの、肉体値も疲労も全て健康状態へ戻っている。
だが、マリーの方は待ったなしの状態。あれから結局、服だけじゃなく籠手や脛当て、ブーツまで全て脱がされた状態に。時折、胸のふくらみや下腹部が手の形にへこむが、それ以上のことは起きていない。
■を貼りまくったのが効いているのだろうか。
「ノリヲ!」
「ノリヲ兄貴!」
ニッさんがドリフト走行のように尻尾をぐいっと大振りして止まる。それでも全く揺れていないのは、■のおかげか。
俺たちは急いでニッさんの背中へと登る。
「こ、孤高姫さんは私たちを守って……」
チョウヒさんが泣き崩れている。
「大丈夫だ。まだ手はある……ダット、こっち来てちょっと手伝ってほしい」
ダットが運転席から手すりを乗り越えて俺のすぐ前まで駆けてくる。そのダットの天啓を開き、■を貼った。
『ダット 肉体:48/48 精神:43/47』
『天啓:【■竜操縦】』
そしてダットを抱えると、モーパッの担いでいるプテラノドンの背中へと乗せる。
「ダット。恐らく今ならば、戦竜だけじゃなく、翼竜も操縦できるはず……俺を信じて、操縦してみてほしい」
「……やってみるよ!」
チョウヒさんの天啓を【■力鑑定】から【全■鑑定】へと■を貼り替えてしまったとき、それまでは能力値しか見えなかったチョウヒさんが、天啓まで全て見えるようになったと言っていた。
この■は俺にしか見えないから、チョウヒさんにとっては■の貼り替え前も同じ【全力鑑定】であったにも関わらずだ。
ということはダットの【戦竜操縦】も、「戦」を■で隠せば……という試み。
「ノリヲ兄貴! いけそうだぜ! プテラノドンがやる気を、戦う気持ちを持ってくれればいけるっぽい!」
うまく解釈してくれたか。それなら次の段階。
俺はモーパッの背中に捕まると、自分の「体重」に■を貼った――急に身体が軽くなる。わずかな風に身体が持ってかれそうになる。そこをぐっとモーパッの背中に腕力でつかまり――おっ。握力だけで簡単に登れるぞ。
プテラノドンの背中にしがみつくダットの上から覆いかぶさるようにプテラノドンへと捕まった。
「チョウヒ、余っている革紐はあるか?」
声に出す時は呼び捨て……にまだ慣れないが、チョウヒさんはハッとした顔で、荷物の中から丈夫そうな革ベルトを手渡してくれる。それをプテラノドンの首に巻き、しっかりと捕まる。
「これも使う?」
もう一本渡されたのは荷物まとめ用の短めのロープ。二メートルもないが、首輪代わりの革ベルトとダットのベルト、俺のベルトとを通して固く縛る。
翼竜は、翼を広げたサイズに対してその体重はリビトより軽いくらいだった。ということは騎乗者の体重さえクリアすれば乗れるはず――ダットの「体重」にも■を貼る。
「モーパッ、プテラノドンが翼を広げたら、プテラノドンが飛べるように上手く投げてくれ!」
「おうよ!」
人力カタパルトで射出され……おおっ! 空を飛んでいる!
少しよろめきながらもプテラノドンは滑空して風に乗る。やたらはためいていた外套の「空気抵抗」に■を貼ると、いくらか飛行が安定した。ぶっつけ本番だったが、生き物以外にも貼れるというのは収穫だ。
「ダット。パーティー内通知でニッに追いかけてきてと伝えて」
「わかった」
ニッさんも方向転換してついてくる。
「向こうだ!」
風に乗って空高くまで上がった後、プテラノドンは街道の先を目指して大きく旋回した。
とはいえ、方向がわかっても正確な位置まではわからない。
その間もマリーの体は弄くられまくっている。とうとう腹部に靴の跡。貞操は守られたようだが、そのことで敵の怒りを買ったのだろうか。このままではマリーの命が危ない。
マリーが力で敵わない相手だと言うのなら、せめて隠れ――俺はマリーの「存在感」に■を貼った。
それから「気配」と「体臭」――マリーの体についていた靴跡が消える。うまくいったのか?
『マリーローラン 肉体:26/58 精神:43/59』
肉体値はまだ残っている。ということはまだ無事だということ。
「ノリヲ兄貴! あっちに煙!」
ダットの声に周囲を見渡すと、峡谷沿いの街道をちょっと進んだ先、枝分かれした細い谷から煙が立ち上っているのが見える。
「急いで向かってくれ」
もしも犯人が短気で粗暴な奴だったとしたら、当初の目的を達成できないとわかった時点で弄ぶのを諦め、始末しようと企む可能性もある。マリーに■を貼るだけじゃなく、逃げ出させるとかできればいいのに……再び味わう無力感。
ほんの少し前、■の新しい可能性で手にしたはずの万能感があっという間に消えてなくなる。
頼むから急いでくれ! 早く! マリーのもとへ!
俺の気持ちが届いたのか、プテラノドンの速度がわずかに上がった気がした。
焦りが鼓動を早くする。時まで早く刻まれてしまいそうで負の焦りスパイラル。
体感ではじれったいほどの長い時間をかけて、煙の発生源近くへプテラノドンが急降下する。
「ダットは空から警戒!」
俺とダットをつないだロープの結び目のこちら側でロープを切って手を放す。外套の「空気抵抗」の■を剥がすと、いい感じに地面にふわりと着地する。
自身の「体重」の■も剥がし終えた俺の眼前に、激しく燃え上がる馬車があった。
● 主な登場人物
・俺(羽賀志 典王)
ほぼ一日ぶりの食事を取ろうとしていたところを異世界に全裸召喚された社畜。二十八歳。
魔王、魔王の影、ナトゥーラ。考えなければならないことは多々あるが、今はマリーを救うのを最優先に。
・チョウヒ・ゴクシ
かつて中貴族だったゴクシ家のご令嬢……だった黒髪ロングの美少女。十八歳。俺を召喚した白魔術師。
チョウヒ、と呼び捨てにすることにまだちょっと抵抗ある。チョウヒさんのさんは、敬意も含んでいるから。
・ダット
ゴルゴサウルスを操る御者。銀髪ショートボブに灰色の瞳。背が低いオレっ娘。十三歳。ゴクシ家のお抱え運転手。
天啓【戦竜操縦】の「戦」に■を貼ったら、プテラノドンまで操縦できるように。
・モーパッ
真チョウヒ様ファンクラブ副会長デッの姉。感嘆するほどの筋肉を持ちながら小顔で美人。二十五歳らしい。
とっても頼もしい……のだが、なんかちょっとおかしかったな。
・孤高姫
本名マリーローラン・ニヤカーを隠して冒険者をしている。自分を辱めたコウを返り討ちにした。十九歳。
チョウヒさんたちをかばって盾となり、その後さらわれたっぽい。マリーの命も貞操も守ってあげたい。
・コウ
ドバッグ家の三男坊だった性犯罪者。ダットの弱みにつけ込み卑猥な行為を繰り返していたソバカス小太り男。
フシミでモーパッとマリーが確かに殺したはずだが、再び襲ってきたらしい。協力者がいるのか?
・梨人
農業拠点フシミにおいて、魔王の状態異常『色欲』により宿周辺が地獄の惨状となった中、全裸で泣いていた美少年。
日本人。赤魔石を飲ませて魔力身分証を入手できたようで、ようやく個別パーティを組めたが……魔王の影だと。
・ナトゥーラ
最高のプロポーションの全裸に、卑猥な感じに五枚の■を貼り付けた、原初の女神。
■は現在、犯罪者みたいに両目を隠すのに一枚、チョーカーみたいに細長く首に一枚、両乳首部分にそれぞれ一枚ずつ、股間に一枚。
ナトゥーラの■を剥がすたびに俺の■能力が進化するっぽい。




