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異国の王子と小人さん ~とおっ~

 御腹が空いたので、ウインナーをレンチンして食べたら、娘に叱られました。消費期限が十日も過ぎていたとか。

 .....そんなものを放置しとくんじゃない、娘よ。


「にぃーにっ、起きろーっ!」


「なんだ?」


 しれっと答える中の別の人。


「おまえじゃねーっ!!」


「私だって、そなたの兄であろう? 生まれた時から共にあるのだから」


「ぅ?」


 したり顔な誰かに、小人さんは言葉を詰まらせた。


 生まれた時から共にある?


 自分がファティマと共にあったのと同じなのだろう。

 そう言われてしまえば、たしかにコイツも兄かもしれない。


 千早の身体を操る誰かは、小人さんの手を放し、その頭を撫でるように抱え込むと、そっと髪にキスを落とした。


「妹は愛でるものだ。そうだな?」


 温度のない眼が満足そうに弧を描く。

 なんと言ったものか。これもある意味、兄にあたるのだろうか?

 

 ぐぬぬっとしかめっ面な小人さんと千早の間に、するりと何かが通り抜けた。


 えっ? と思う間もなく、その何かは、ぼうっと火柱をあげる。


「ヒーロから離れろっ!!」


 小人さんを護るようにのたうつ二匹の蛇と、千早の目の前で火柱に変化した蛇。

 まるで意思を持つかのような焔が千早の周囲を舐めるように這い回った。


「ぅあっ?!」


 いきなり焼けつく焔に囲まれ、千早は狼狽える。

 その一瞬をついて、本来の千早が戻ってきた。


「アホかぁーっ! ヒーロに触れんなーっ!!」


 開幕一言めがソレかにょ、にぃーに。


 ぜぇぜぇと息を荒らげ、脱力する千早。

 どうやら中で凄まじい攻防があったようだ。


「アレは、にぃーにじゃないからねっ、ヒーロっ!」

 

 やってる事は変わらないが。


 だが、苦笑する小人さんの前で、千早の身体が黒紫の魔力に包まれていく。


「えっ? やだっ、コイツ、まだやるかっ!」


 ぬるりと千早へ絡まる禍々しい魔力。そこに小人さんの金色の魔力が迸った。


「往生際が悪いわーっ!!」


 ぱんっと甲高い音をたてて弾ける二つの魔力。黒紫の魔力は小人さんのサークレットに吸い込まれ、金色の魔力は千早のカフに吸い込まれる。


「ふぁっ?」


 絡まり弾けた魔力が完全に消えた時、千早が間の抜けた声をあげた。


「にぃーに、どしたん?」


「あ、うん。.....なんでもない」


 微かに微笑む千早だが、次には複雑そうな思案顔をする。

 なんでもなくはなさそうだけど。と思いつつ、小人さんは、千早を一喝して蛇を助けに出してくれた人物を見た。

 

「マーロウ、ありがとうね」


 騎士団の陰から飛び出して焔の蛇で助けてくれたのはマーロウ。

 魔物や騎士らに注意の向いていたアイツは、小さな少年に気づかなかった。


「付いてきてて良かったよ。大丈夫か?」


「うん。さってと」


 マーロウに御礼を言うと、小人さんは巨大蠍と蟻地獄を睨めつける。

 びくうっと大きく揺れる巨大昆虫。

 その眼を複眼まで盛大に泳がせ、前肢をモソモソさせる事、忙しない。


「あんたら、アイツに関して何か知ってそうだね?」


 じっとりと三白眼で見つめる少女をチラチラと盗み見しつつ、二匹はガックリと肩を落とす。


《金色の王は世界を知る者。だが、この世界を知らない》


『ここは借り物の世界。.....神は、もう干渉出来ない。なれば(あるじ)の影響が蔓延るのだ』


 あるじ? ぬしでなく?


 何の話だ?


 訝る小人さんに溜め息をつき、二匹は、とつとつと昔話をした。




 その昔、人々がまだ魔法を使えなかった頃。


 金色の魔力を持つ者が辺境を巡礼し、各地に恵みをもたらした。

 その姿は人間でありながら、一対の角をこめかみに持つ異形な鬼。

 鬼は連れていた魔物を森に放ちつつ、多くの辺境を回った。


 その目的は種を植えるため。


「種?」


『黒紫の魔法石だ。アレはアルカディアのモノではない』


 驚く小人さんに頷き、二匹は一面の黒紫の魔結晶を見渡す。


『これは種の成長したモノ。魔法の理がなくとも存在出来る魔力があるのさ』


『生を司る光、金色の魔力と、死を司る深淵、闇の魔力だ』


 小人さんが眼を見開く。


「じゃ、この魔結晶は.....」


『闇の魔力。絶望の深淵を経験した者にだけ操れる破壊の魔力よ』


 小人さんの全身がぞわりと粟立った。それに準えるならば、少年神レギオンは絶望の深淵を舐めた者だといえるだろう。闇の魔力を従えるに相応しい存在だ。


 聞けば、既に虫の息だったヘイズレープから生き物の種をもらい、人類が生まれた時、導師と呼ばれる人間らもヘイズレープより贈られたのだとか。

 新たな世界の人類に文明を伝える尋ね人。

 その導師がヘイズレープから持ち込んだのが闇の魔法石だった。

 導師は辺境を回り、持ってきた闇の魔法石を種として辺境に植えたのだ。


 そういった神々の習わしを説明され、ふと小人さんの脳裏に疑問が過る。


「待って? その導師とやらがアルカディアに文明をもたらしたとして、何で金色の魔力が使えるの? 闇の魔力の種もだよ」


『『分からぬか?』』


 首を傾げる小人さん。


『そなたと同じよ。導師として贈られた尋ね人の一人は、ヘイズレープの御先だったのだ』


「はいぃぃぃっっ?!」


 衝撃の事実である。





「つまりは、レギオンがその御先か」


 御先となった者は永遠を得る。フラウワーズ辺境の主であるレギオンは、原初の人類にしてヘイズレープの御先。

 彼の世界が滅び、少年神であるレギオンが神格を失った事によって、只人に戻ったレギオンは、鬼という魔物の一種になった。

 それまでは数千年を永らえる人類の歴史の生き証人。

 蠍や蟻地獄らはレギオンからヘイズレープにまつわる昔話を聞いていたらしい。


『ここにヘイズレープの神がやってくるかは賭けだったみたいだな。.....例の謀に加担していたんだよ、アイツ』


 口を重くする巨大蠍。


 その謀とはアルカディアを滅ぼして生体エネルギーをヘイズレープに循環させようとしたアレだろう。

 

『その謀が失敗した場合の企みだったのだ。闇の魔法石にはヘイズレープの神の記憶が込められておる。謀が失敗すれば神格を失い人に落とされる。それを知るゆえの企みだった』


 なるほど。今の少年神レギオンは浄化され人に落とされた魂か。

 そして失った記憶を取り戻させるためのバックアップが闇の魔法石なのだ。


 昔話の使徒の語る尊き御方は、少年神レギオンの事だったのだろう。


 そこまでやるかよ、レギオン。


『アルカディアの命は元々ヘイズレープの命。彼の神にとっては、我が子のようなモノだ。世界を失った神に遺された唯一の形見』


 モノは言い様だぁね。


 じっとりと眼を据わらせる小人さん。

 上手くすればアルカディア全てを滅ぼして、己の世界の餌にするつもりだったくせに、今になって我が子? 形見? 

 

 都合の良いこった。


 でもまあ、その言い分も分からなくはない。

 全てを失った彼にとって、亡くした世界と繋がるアルカディアが唯一無二になるのも仕方のない事だ。

 ただ、そこにあるだけならば問題もない。たぶん。


 見逃せないのは、彼が千早の身体を奪い、闇の魔力を操れる事。しかも破壊の魔力だというではないか。冗談ではない。


 無言で思案する妹に、千早がおずおずと話しかけてきた。


「あのさ..... 煩いんだ。アイツが」


「ほに?」


「アイツ、僕の中で喚いてる。出せ、俺だってチィヒーロの兄だっ、って.....」


「はいぃぃぃっっ?」


 さらに降って湧いた難題。


 どうやら少年神は、千早の中で自我を持ってしまったようである。


 二転三転する問題に頭を悩ませつつ、取り敢えず小人さんは二匹と盟約を結び、ドナウティル王都を目指す事にした。


 目先の問題を解決して、とっととフロンティアに戻らねば。

 

 わちゃわちゃする少女にトドメを刺すかのような蜜蜂便が届き、フロンティアから早馬が駈けてくる未来を、いまの小人さんは知らない。


 .....合掌。


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― 新着の感想 ―
[一言] 神の不始末を人間にやらせる無能神の話なんだよね。
2021/12/27 20:43 退会済み
管理
[一言]  ん?いや以前のことはいざ知らず、今回は蠍と蟻地獄を指して『巨大昆虫』と書いてしまってるんですってば!  千尋が両者を『睨めつける』所ですよ。
[一言] 鬼さんと神さんが同名でこの話まで ん~?てな感じでよくわかってなかった なるほど!なるほど? よくわかってない。
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