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二巻販促用SS 夢を繕う小人さん

 お久です。

 燃え尽き症候群から復活いたしました。なんで、書店特典の投稿です。

 ぼちぼち他の連載も再開します。



『どうしたかじゃない、どうするかだにょっ!』


「どうするか.....」


 千尋に怒鳴られた言葉を口の端にのぼらせながら、うっそりと克己は身体を起こした。

 

 ここはキルファン帝国という、名目は帝国の端の小島。そんな小島でズラッと並んで眠るのはフロンティア騎士団。

 厚手のシュラフをしき、小人さんを挟んで、まったり彼等は御休息中。

 上空に張られたタープは二枚張り。一枚目は陽射しを遮り、一枚目と二枚目の間を抜ける湿った海風が、その気温の上昇を防いでいる。

 おかげて厚く落ちる影が南国特有の暑さを和らげていた。

 さらには周りを徘徊するモノノケ達。彼等がフロンティア騎士団の周囲に結界を巡らせ、気化熱を利用した冷風を起こし、小人さん一行を穏やかな眠りへ誘っている。


 .....なんともはや。


 主の一族と呼ばれる魔物達は知恵を持ち、滅多に人を襲わないと説明されたが、襲わないどころではない。

 周囲を徘徊するモノノケ達は甲斐甲斐しく人々の世話を焼き、まるで従者のごとき働きだ。

 これも小人さんが金色の王という存在だから。


 最初その話を聞いた時、克己は千尋が神々からチートな力を授かったのだと思い、酷く憤る。

 魔物を操って、空を翔る幼女が羨ましくて仕方なかった。魔法を使えるフロンティア騎士団の人々が妬ましかった。

 あの双神は自分には何の力もくれなかったのに.....と。

 

 だが、よくよく聞けば違ったのだ。


 魔法は元々アルカディアという世界に存在した力である。それをフロンティア以外の国々は、愚かな愚行で過去に失っただけ。

 金色の王というのも特別なモノではなかった。稀有な存在ではあるが、人が生まれ出でた時から歴史に刻まれる、フロンティアの理の一つに過ぎない。

 むしろ幼女は現代知識を持つだけの一般人だ。まだ克己の方が、専門的な知識をアレコレ有している。


 たまたま王族に生まれた地球人。その王家が、魔物を統べるという金色の王を生み出せる家系であっただけ。彼女に与えられたチート能力など何処にもない。

 それどころか、まだ三歳で洗礼を受けていない小人さんは、フロンティア人なら使えるべき普通の魔法も使えない。

 それを考えたら、キルファンに渡り、あれやこれやと技術を披露してきた克己の方が、よっぽどチートを使っていただろう。


 .....結果は惨澹たる有り様だが。


「ぅ.....っ」


 後悔の残滓に責め苛まれ、彼は抱き締めていた蜜蜂に顔を埋める。


 克己は取り返しのつかない事をしたと思っていた。

 無惨に荒らされた海の森の珊瑚礁。そこがフロンティアの海域であるという事実。

 さらには主の子供が拐われ、今にも魔力枯渇で死んでしまいかねないという現実。


 その全てに克己が手を貸したようなモノ。無知な己が犯した取り返しもつかない罪。


 愚かな自分を噛み締めて啜り泣く克己は、後に小人さんという生き物の本領を知る。


 取り返しのつかない事など、死以外、何もないと叫び、彼女は克己を引きずり起こして働かせる。


「優雅に後悔なんぞさせてる暇はないわっ! そんな余裕あるんなら働けーっ!!」


 わちゃわちゃ幼女に追い回され、急き立てられ、新たなキルファンのために働く幸せな未来を、今の克己は知らない。

 かつて彼が抱いた異世界への夢は、無惨に破れ萎んだが、今ではない近い未来、その夢は大きく膨らみ、大輪の花を咲かせるのだ。


 諦めなければ夢はかなう。


 無惨に破かれた大きな傷を、せっせと無意識に繕う小人さん。


 金色の針と糸を心に持ち、幼女は意図的に周りを巻き込んで、今日も世界の修繕に駆け回る♪

 

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