販促用SS. 兄達の呟き
☆兄達の呟き☆
「チィヒーロは可愛いな」
「可愛いです」
御茶を片手に、ウンウンと頷き合う兄弟。
第一王子ウィルフェと第二王子テオドールは、如何にして妹であるチィヒーロを王宮に招こうかと頭を捻っていた。
「アレは美味い物が好きだ。何か珍しい食べ物でも取り寄せてみたらどうだろう?」
「そうですが....... 実際にはチィヒーロの考案した料理のが美味しすぎる気がします。あの料理をこえる物があるでしょうか?」
「む......」
テオドールの言葉に、ウィルフェは同意せざるをえない。
「ならば、綺麗なドレスやアクセサリーはどうか? 女の子が好みそうな物を用意させよう」
「...........」
短絡な兄に、テオドールは思わず生温い眼差しを向ける。
兄上、それをしてチィヒーロに呆れられたのをお忘れですか?
先日行われた王宮晩餐会。
そこで、チィヒーロはテオドールから贈られた髪飾りをつけていた。
それに気付いたウィルフェは、何故に自分が贈ったティアラをつけてこないのかと叫び、周囲の顰蹙を買ったのだ。
あのような正式の場でつけられるモノではないと王妃様から叱責され、しばらく落ち込んでいたはずなのに、喉元を過ぎれば、これである。
あえて口には出さずに、テオドールは話題を転換した。
「それにしても、昨日のチィヒーロは可愛かったですね。ドレスも良く似合っていたし、もう少し、あのような姿で王宮に顔をだしてくれると嬉しいのですが」
ほわんと顔を緩めるテオドールに頷き、ウィルフェも着飾ったチィヒーロを脳裏に思い浮かべた。
柔らかなお日様色の髪に、蜂蜜のように蕩けた瞳。
金のドレスとリンゴのアクセサリーが良く似合っていた。
ああ、あの姿で兄上と呼ばれたら、どれほど幸せだろうか。
実妹のミルティシアも可愛いが、それ以上にチィヒーロも可愛い。
可愛い妹だらけで御茶会でもしたら、ウィルフェは顔が雪崩を起こすほど至福に酔えるだろう。
なので、ここは是非ともチィヒーロを王宮に招きたい。
出来るならば、王宮に住んで、日常的に共にありたい。
抱き締めて、膝に乗せて、絵本を読んだり、日向ぼっこをしたり。
想像しただけで、身震いするほどのバラ色な高揚感に満たされる。
「.......兄上。だだ漏れです」
「え?」
ハッと我にかえったウィルフェは、侍従らが肩を震わせて笑いを堪えているのを目にした。
どうやら、脳内妄想が口からまろびていたらしい。
「それに、チィヒーロは絵本とかという次元にはいないかと」
辛辣な駄目出しを口にするテオドール。
静かに御茶をすする三歳児を見て、侍従らは、年齢からは測れない人間性と言うものを目の当たりにした気がする。
さすがは小人さんの兄上だ。
そこはかとない感嘆に満たされた室内で、残念な方の兄が唸りを上げた。
「ならば、どうするのだ? 手詰まりではないか?」
七つも年下の弟に丸投げし、仏頂面な兄王子。それに据えた眼差しを向け、テオドールはボソリと呟いた。
「どうにもなりませんよ。僕は僕でチィヒーロと接点がありますので」
途端に、くわっと眼を見開き、ウィルフェはテオドールへ詰め寄る。
「そなた、何か隠しておるなっ? 接点とは何だっ?!」
ウンザリした顔でしばし無言のまま睨み合う兄弟。根負けしたのは弟王子の方のだった。
「騎士団です。チィヒーロは自作の小人さん印な御菓子を、直接、騎士団に販売しています。騎士団演習場の様子を見ていれば、いつチィヒーロが来ているか分かるのです」
後宮裏に設置されている騎士団演習場。
以前、そこで、テオドールは小人さんを見つけた。
今も、彼女の負担にならない程度に顔を出しては交流を持っている。
パアッと顔を綻ばせ、ウィルフェはテオドールの両手を握りしめた。
「騎士団演習場だなっ? なるほど、そこならば、他の邪魔もなくチィヒーロと遊べそうだっ!」
あああ、ごめんね、チィヒーロ。兄上が迷惑をかけるかもしれない。
心の中で必死に謝罪するテオドール。
だがしかし、ウィルフェは忘れていた。この場には、それぞれの側仕えらも同席している事を。
ここに、ウィルフェに勉強をさせようとする側仕えらと、それを撒いてチィヒーロに会いに行こうとするウィルフェの仁義なき戦いが、幕を切った。
結果は御察しである。南無♪
~了~