落書き・小人さんの逆プロポーズ (裏側)
お久し振りです、美袋です。
カクヨム更新したついでに、こっちも更新を。サポートの落書きです。御笑覧ください。
気温差アレルギーと花粉症で屍になっておりました。うん。
ゲラの修正も止まってて、久しぶりに原稿を開いて笑た。今回の校正さんは愉快な方で、『この台詞の内容は本巻で回収されているのか』とか色々、校正外のことが書き込まれているんですよね。
その伏線の回収は四巻ですと、教えてあげたいワニがいます♪
「はあ..... なんで気づかないかなぁ?」
珍しくアンニュイな面持ちで、小人さんは離宮の窓辺にもたれる。
今年十二歳になった少女は、みるみる娘らしくなり、桜譲りの美貌にも磨きがかかって、道行く少年らをソワソワさせていた。
ほっそりと伸びた手足も華奢で、日本人特有な象牙色の肌が目に眩しい。
豊かな黒髪と同じ睫が眼の縁を彩り、色濃く伏せた瞳の艶かしさに思わず周囲の頬が朱に染まるが、当の本人は知らん顔。男性が数多におれど、彼女の脳裡を占める人物は一人だけ。
秋波マシマシな周りを目敏く察知したポチ子さんにより伯爵家から連れて来られたサーシャは、物憂げな小人さんへ声をかけた。
「御嬢様? どうなさいました?」
柔らかな耳触りの良い声。慣れ親しんだそれに振り向き、千尋は長々と溜め息をつく。
「ああ、サーシャ。実はさぁ.....」
王宮中庭のガゼボに場所を移動し、二人はコソコソと言葉を交わす。
「王弟殿下ですか?」
「そそ。あの朴念仁、こちらの気持ちに気づいてもいないのよ。あちらこちらに触手を伸ばして、アタシの相手を物色してるみたいでさ」
はあぁぁっと大仰な溜め息とともに吐き出される少女の愚痴。
しかしそれは、サーシャにとっても初耳である。
思わず真ん丸になる彼女の目玉。鳩が豆鉄砲を食らったかのようなサーシャの顔に苦笑する小人さん。
「御嬢様が、そのような気持ちを王弟殿下に御持ちとは存じませんでした.....」
「ん~? たぶん、サーシャがドルフェンに抱いている気持ちとは種類が違うかな。根底は同じだけどね」
慕うという熱病は長く続かない。その後に来るのは惰性と妥協。なかには冷め切り、疎ましく思ったりもあるだろう。
そんな複雑な心情が絡み、それでも共にありたい。この人しかいないという信愛に昇華するのは極僅か。
ロメールと千尋は、すでにその域にいる。
「ロメールはね。アタシの一番がお父ちゃん達家族だと今でも思ってるの。間違いじゃないわ。でもね、彼もとうにその内の一人なのだとは気づいていないのよねぇ」
ロメールにとって小人さんは唯一無二だ。しかしそんな彼でも、国と千尋が天秤にかかれば揺れるだろう。その、ほんの少しの揺れがロメール自身許せないのだ。
ドラゴ達ならば一も二もなく小人さんを優先するのにロメールはそれが出来ない。そこでもう、千尋の一番になる資格はないと、彼自身が己を袋小路に追い詰めている。
しかも年齢差が年齢差だ。二の足、三の足を踏むのも致し方なし。
自ら四面楚歌の檻に閉じ籠るロメール。
「バカだよねぇ、ほんと。もっと我が儘でも良いのに。アタシを想うなら、国もアタシも両方ぶんどるくらいの気概をみせてもらいたいもんだわ」
ふぅっと小さな嘆息をもらす少女を見つめながら、サーシャは目の奥が熱くなった。
小さかった小人さん。
二度の人生を経て、ようよう揉め事もなくなり、年相応とは言い難いが、日常のアレコレに悩む余裕が出来てきた。こんな喜ばしいことはない。
自分が思うのとは違うベクトルのようだが、千尋のロメールを想う気持ちは本物である。
あんのヘタレが。うちの御嬢様にこんな顔をさせて.....っ!
沸々と沸き上がるサーシャの怒り。御嬢様にここまで想われていて、その御嬢様へ別の相手を探している? ふざけるのも大概になさいませ。と。
だがその怒りも、あっけらかんとした小人さんの言葉で霧散した。
「いつになったら気づくかなぁ? 他人である男性の中で、自分だけがアタシの一番だって」
くすくす笑う少女。
.....ああ、そうですね。貴女はそういう方でした。
どんな事でも楽しんでしまう千尋の悪癖。
サーシャはほんの少しロメールに同情を感じる。本当に少しだが。
そして、ふっと彼女の脳裡に悪い企みが過った。
「では御嬢様、このようにしたらいかがでしょうか?」
満面の笑みを煌めかせるサーシャに耳を寄せ、千尋も瞳を煌めかせる。
「良いね、それっ! 逆プロポーズだ♪」
「逆プロポーズ? 上手いことをおっしゃいますね」
もうじき立志式。
そこで子供達は各々将来への誓いをたてるが、婚約者を持つ少々おませな子供だと、良い結婚生活を望んだりもする。
極々稀なことだが、それは男女両方に立てられる誓いで、王族として参加するロメールも知っていた。
だがまさか、それが我が身に降りかかるとは思っておるまい。
にししっと悪い顔をする小人さんと額をこっつんこし、サーシャは幸せそうに微笑んだ。
ああ、お変わりないわ。貴女はいつでも幸せでおられなくては。
そうして立志式の逆プロポーズに狼狽え、慌てて応えるロメールをにんまりと見届け、サーシャはドルフェンと結婚した。
思ったよりも多くの人々から祝福され、面食らう二人。何より王弟殿下から祝辞まであったというオマケつきで、貴族街の噂を独占した。
獣人を娶るなど酔狂が過ぎると嘲笑っていた彼等だが、王家が祝福したとなれば話は別である。
小人さんと常に一緒だったサーシャは、次期国王たるウィルフェやその弟妹らとも仲が良い。顔馴染みで気軽に挨拶もする。
しょっちゅうジョルジェ伯爵家を訪れていた子供らだ。お泊まりしたりもよくあり、ナーヤやサーシャにお小言を食らうのも数知れず。
なので獣人に対するフロンティアの心象は、なんと王宮内部から変わってきていたことに貴族らは気づいていなかったのだ。
「獣人だから? 奴隷種族? 短命種? 寝言は寝てからほざけ。サーシャは我が姉だ。チィヒーロの家族に無礼を申すな」
辛辣に眼をすがめるウィルフェ。
「下等生物? ケダモノ? はあ? 貴女方はサーシャを知らないの? 彼女はピカ一の淑女でしてよ? わたくし、幼い頃には、よく憧れたものですわ」
サーシャの狐耳や尻尾に絡まり、小人さんと共に淑女の心得を彼女から学んだミルティシア。
「.....埒外ですわね。貴方々、彼女の刺繍をごらんになったことがあるの? 摘まみ細工の花や紐細工を。見事の一言に尽きましてよ?」
「彼女に勝る側仕えを私は知りませんね。あれだけの忠誠心をもった者が、獣人というだけで蔑まれるとは。叔父上ではないが、本当に渡る世間はバカばかりだと思います」
炯眼な眼差しのファティマとテオドール。金髪の双子が醸す雰囲気は、相乗効果で怖いくらいの凄みを辺りに撒き散らしていた。
そんなこんなで王家の子供の御姉さんであるサーシャ。彼女の評価は鰻登りとなり、治世がウィルフェへ移るころには獣人らの人権が復活する。
それは、後に興される獣人の国、ライガーン王国の助けにもなった。
近い未来にライガーン王国で聖女と讃えられるサーシャ。
そんな彼女は、今日も小人さんの傍にいる♪
ここを見てくれていることを願って。
年賀状をいただいた方らに返信を送ったのですが、一枚戻ってきてます。名前などを書き込むわけにもいかないので、心あたりがある方はメールで御一報下さると助かります。もしかしたら葉書の住所が違っているかもしれないので、もう一回、御名前と住所を頂きたいです。